とんぬら

書くより読む方が好き。なんかコメント残すけど許して。もりもり食べて、あとは寝る。それと…

とんぬら

書くより読む方が好き。なんかコメント残すけど許して。もりもり食べて、あとは寝る。それとうんこもする。

最近の記事

文章練習6[3分短編]

 この出来損ないのプラ板のようにひび割れた凹凸の沿岸道路に、サニーロードなどと馬鹿げた名前を付けたのはいったい何処の誰だろうか。恐らく、年老いて痩せ細った保護犬に、桜だとか太陽だとか”そういう類い“の名前をつけるタイプの人間だろうと思う。おお、かわいそうに、人のエゴに触れてこんなにも痩せ細って、お前の名前は今から太陽だ、めいいっぱい可愛がってやる。という具合だ。しかしどうだ、年老いた犬に好き勝手名前をつけて愛玩しようというのだって人のエゴではないか。イカサマだ、と私は考えた。

    • 文章練習5[3分短編]

       ラディカルズモールは若者のるつぼだった。通りの一つ一つにパーフィルやカンテラといった名前がついており、立ち並ぶ輸入品店にはつま先の真っ赤なマクラックや、ハー・マジェスティーズ・シアターのオペラ座の怪人からくすねてきたのかと思えるほど年季の入ったコンソールテーブル。2005年のワールドシリーズ優勝を記念したホワイトソックスのタペストリーが飾られていて、88年ぶりの優勝! と書かれたポップが掛けられているのを見るたび、私は頭の中で、白黒の映像世界に囚われた巨大な白人たちが、フィ

      • 文章練習4[3分短編]

         最初の入れ替わりに気づいたのは、私がまだ17歳の時だった。高校の友人が美術部の卒業展で不織布を出展したいというので、参考になれば良いと、前年に叔母がフィジー旅行で買ってきていたカットクロスを見せてあげようと思い、友人を自宅に招いた時だった。バヌアレブリゾートでメケショーを観た後、止まぬ楽園の高揚感をいなす術を持たない叔母が、ラウンジの端に佇む土産屋で、ほとんど転がるように目につくあまり手に取り持ち帰ったガラクタの一つであった。幾何学模様に月と太陽、中央にオサガメのモチーフが

        • 文章練習3[3分短編]

           バラスとコンクリートで作られた民家の塀を左手に河口まで歩いてみる事にした。途中で拾ったスイバの穂で塀の溝をなぞる遊びをした。そうする内にこの塀もいずれは途切れるだろうと思っていたが、それでもこの汚れた塀は、一段低くなり、また高くなりながら、膨らみ剥がれた塗料のあぶくがあちこちに吹いた門扉や、赤茶色く熟れた椿の実のなった細い枝の影を緩やかに左へ降る石段伝いに五十メートル程続き、やがて傾斜のついた五メートル高の木塀に合流したところで途切れるまで私の道標として働いてくれた。  そ

        文章練習6[3分短編]

          文章練習2[3分短編]

           しかし誰もいなかった。いるはずはなかった。この廃車置き場は、一番近い人家から3km近く離れていたし、人道のない平山の茂った茅をかき分けて偶然見つけたのだ。忘れられた物が放置される場所。捨てられるでもなく、再び脚光を浴びる事もない。その様な物がただ放置される場所。四方を高さ3mの錆びたフェンスに囲われ、入り口は硬く施錠されていたので、僅かに綻びた隙間を探すのに苦労した。ぼろぼろと錆の粉をふき、めくれた鉄網を手繰り、袖の端を破ってまで侵入したのだ。  彼は側湾症だった。生まれ

          文章練習2[3分短編]

          文章練習1[3分短編]

           キリシマだと言った。あれがキリシマだと。ささくれたサッシに手をやり身を乗り出したが、左右に張った栗木の外壁に阻まれて、彼がどれのことを指しているのか、私にはわからなかった。  彼の人差し指は、ほんの1メートル先に向けられている様にも見えたし、尾根の端に微かに見える霞んだ海面に向けられている様にも見えた。何にせよ、窓から見えるどれかのことだろうと私は理解した。  とはいえ、そこから見えるものもそれほど多くはなかった。送電線の一部、施錠された貯水場、職員達の宿舎、閉鎖棟、法面

          文章練習1[3分短編]