アーティストの個性を活かしながら作品をつくる、トンコハウスはそんなスタジオでありたい
Pixarをやめてトンコハウスという場所を作った僕らが目指す、これからのスタジオのあるべき姿とは。
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みなさんこんにちは!「トンコキャスト」ジャパンエディション初回は、2019/1/25に英語で全米公開した「Tonkocast #33 -- Tonko House Leadership」の日本語の書き起こしを一部編集し、数回に分けてお届けします。
2018年はトンコハウスにとってアイデンティティの危機だった
Robert Kondo(以下Robert):みなさんこんにちは!2019年初日のトンコハウスへようこそ。今回は、トンコハウスの2018年を振り返って、みなさんとシェアしたいと思います。
Zen Miyake(以下Zen):こんにちは、ジェネラル・マネージャーのゼン・ミヤケです。
Dice Tsutsumi(以下Dice):ハイ!こちらは日本から参加しているダイスです。
Robert:ダイスがなぜ日本にいて、何をしてるのかも後ほど少し紹介しますね。彼がいないとスタジオは静かになるね(笑)
一同:ハハハ!(笑)
Robert:まず、昨年末のCTN(アメリカ最大のアニメイベント)で話したことをみなさんとシェアしたいと思います。
僕たちは毎年CTNのトークイベントで、その年のテーマについて話し合うんだけど、一昨年の2017年は僕たちにとって「奮闘の年」だった。でも、2018年になってみて、本当の「奮闘」とはどういうことか思い知ることになります。2018年は、トンコハウスにとって、ある意味アイデンティティの危機の年でした。
まず2018年の事や、2019年の話をする前に、僕らの原点について話したいと思います。
Pixar時代、一人のアーティストとしての個性と、スタジオのアイデンティティの間に明確な線引きをしていた
Robert:トンコハウスを始めた頃は、たった3人で、スタジオも一部屋しかなかったね。まずトンコハウスの原点として思い返すのは、実は、僕とダイスがPixarで一緒に働いている時にダイスが言った言葉なんだ。ダイスの声を真似て言ってみるよ(笑)
Pixarのような大きなスタジオで働くとき、自分はスタジオで働いているアーティストであり、“スタジオ・アーティスト”ではないと思っている。
ダイスが覚えているかどうかわからないけど、この言葉はものすごく僕に刺さった。“個”のアイデンティティと、自分が働くスタジオのアイデンティティとの間に明確な線引きをするという考えは、特に去年、当時聞いた時よりもさらに僕にとって多くのことを意味したし、自分の居場所で一(いち)アーティストとしての個性を明確にしていくという考え方は2018年を通じて僕の支えになった。
2018年は最初、すごく良い年になりそうだった。3つの大きなプロジェクトにワクワクしていたし、今年は「ものづくり」の年になるな、と思ってた。僕たちが賭けていたプロジェクトたちはもう進み始めていて、日の目を見ようとしてんだけど、それぞれの理由で一つずつ崩れ始めた 契約を解消してしまったり、決まっていたことや前向きに話していたことが様々な理由で頓挫して、本当にトンコハウスにとって壊滅的な出来事だった。※(中略)
僕たちは全員精神的にボロボロだったけど、全員がお互いを支えようとして表面的には「大丈夫、なんとかなるよ」って言い合っていたね。
※ 2018年、20世紀FOXアニメーションと進めていた「ダム・キーパー」のCG長編アニメーションのプロジェクトがストップ、その一週間後にはトンコハウスのエリック・オー監督が進めていた別のプロジェクトも無くなるという出来事がありました。
Dice:プロジェクトが流れたことは本当にスタジオに影響を与えたと思うし、僕らのリーダーシップも問われたと思う。トンコハウスの設立当初からのビジョンが試されていたけど、とにかくいろんな要因がありすぎて結果僕たちができることは何もなかった。無力さを感じたよ。
トンコハウスでの旅を通じて素晴らしい瞬間もたくさん経験してきたけど、このときがトンコハウス設立以来、一番きつかった。
まわりのアーティストに助けられて、トンコハウスは成長した
Robert:たいていの人は成功したとき、そこに疑問を持たないけど、「失敗」に対しては、“何がいけなかった?”、“何が上手くいかなかったんだ?”と自問自答する。すぐに答えは出ない。みんなやれることは全てやってると思っていたし、実際そのときはベストを尽くしたと思っていた。(中略)
ともかくいろんな困難があったけど、そんな中で見つけた希望の光は、トンコハウスには他のアーティストに助けてもらえる才能があることだね。僕らはこんな小さいスタジオなのに、外のアーティストからは小さいスタジオに見えないと思う。たくさんの素晴らしいアーティストがピンチの時に助けに来てくれて、トンコハウスのプロジェクトを手伝ってくれた。そして今年も、そんな素晴らしいアーティストたちと一緒に働ける。
NHKオドモアニメでは素晴らしいアニメーターやディレクターと仕事をすることができたし、KUKUとの仕事でも優秀なアーティストたちとチームをつくることができた。そしてトンコハウスの日本チームでも、新しいアーティストの才能が開花している。
このことは、ダイス、君がずいぶん前に言ってたことを思い出させてくれるんだ。
スタジオで働いているアーティストであり、スタジオアーティストではない
いま、周りを見回すと、スタジオの外のアーティストに加わってもらうことができて、彼らの個性を通じてトンコハウスが成長することができたと感じる。
トンコハウスの所属ではないアーティストは、自身のビジョンやアイデンティティ、自分が何者で何を伝えたいのかという軸を持っている。彼らと働いた時間は長くなかったけど、そのとき、僕たちの個性と彼らの個性がはまって、素晴らしい作品をつくることができた。
たとえ違うスタジオで働いていても、僕らを取りまくアーティストたちが常に、一人のアーティストとしての個性に対する意識を思い出させてくれる、それは素晴らしいことだよね。何かを世の中に伝える、というビジョンや野心を持つ人物になるべきという感覚、そしてそれを実現する場所としてトンコハウスを選んでくれたこともね。
このことは、スタジオとはどういうものかを考えさせられた。そして、一人のアーティストとして、自分たちのビジョンとアイデンティティは何か、ということも。
僕たちは誰なのか。なぜトンコハウスをやっているのか。一人一人アイデンティティを持つアーティストをスタジオとして抱えることはどういう意味を持つのか。そしてトンコハウスのアイデンティティは何なのか。そんなことを、この大変な一年を通して考えざるをえなかった。
アーティスト一人一人の個性を活かすことで、作品はより強いものになる
Dice:確かに、KUKUにしてもオドモアニメにしても、くまモンも、それぞれの作品がそれぞれの芸術性や職人技を持ち寄って作られているのを見るのはすごく楽しい。
ちなみに僕は、さっきロバートが言ってた僕のセリフを覚えてないんだけど(笑)
Robert:そうなの?(笑)
Dice:でも、間違いなくそう考えているし、そういうアーティストの個性を活かしたアプローチは実際にスタジオの作品をより強くすると思う。そして去年トンコハウスで活動したたくさんのアーティストたちがそれを証明してくれると思うと、ものすごくワクワクするね。
大変なことはたくさんあったけど、アーティストたちがトンコハウスの文化や、トンコハウスの未来にたくさんのことをもたらしてくれたことをとても誇りに思う。
Robert:そうだね。はっきりしたのは、僕たちは僕たちが抱いている夢や野望を追い求めてもいいんだ、ってことだね。今ここで話したようなビジョンを抱くことや信念を貫くことは、いい作品をつくるのと同じぐらい努力する必要があると思う。なぜなら、それは他のスタジオのためや、他の人たちのための仕事をするのではなく、自分たちのものを創作するためだから。
スタジオを見回して、トンコハウスのみんなと話していると「Oh my god.. こんな才能ある人たちが今ここに集まっているなんて、信じられない..」と感じるし、そんな人たちとここトンコハウスで一緒に仕事ができるていることに感動する。そして、トンコハウスはここにいるみんなが自分の作りたいものをつくれる場所でなきゃならない、と背筋が伸びるんだ。
----- つづく -----
トンコハウスでは現在、クラウドファンディングを実施中です!今年のゴールデンウィークに新宿にて、「トンコハウス映画祭とスタジオトンコカフェ」を実施するための資金を集めています。みなさまのご支援、お待ちしております!
Tonkocast #33 オリジナル音源は公式YouTubeチャンネルからご視聴ただけます。
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