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年中休業うつらうつら日記(2023年4月29日~5月12日 GW特大号)

日記的にはGWの始まりからです。先週サボった分、今週は2週間分書いているので非常に長いです。ただ、【車中泊5泊6日の旅】の最終感想なども書いているので、興味のある方はよろしくお願いします。今頃言うのもナンですが、いいGWでした。

23年4月29日

たまりにたまっていた自炊本を整理した。
じゃんじゃん裁断してじゃんじゃんスキャナに流す。
問題は、今、古いものの読み返しに入っているので、これら新作をいったいいつ読めるかわからない点だ。
特に「アフロ田中」シリーズと「ジョジョ」シリーズはこれだけ交互に読み返していても人生が終われる気がする。

今回、赤坂アカの「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」全28巻とカサハラテツローの「アトム・ザ・ビギニング」18巻までと唐々煙の「曇天に笑う」全6巻「煉獄に笑う」全14巻を買ったわけだが、これを読む日がいつになるのか。

5月8日に南勝久の「ザ・ファブル The Second Contact」の最新7巻が出るから、前シリーズの「ザ・ファブル」から読み返して備えていたりするのがいかんのだろうなぁ。
なんだか牛の反芻のように何度も何度もしゃぶり尽くして楽しんでいる。
一方ではイマイマ流行っている新しいマンガも目が離せなくて、話題作はつい買ってしまう。
おまけにたまに「つかむ」と自分では表現している現象が起こり、全く知らない作品でも何かのアンテナにピピッと引っかかって買い、そしてなぜかそれは大抵の場合外れないので、また新しいシリーズを追いかける羽目になる。
嬉しいんだか悲しいんだか。

23年4月30日

前夜、お風呂で防水スピーカーから流れる中島みゆきの「シュプレヒコール」の歌をせいうちくんとでかい声で歌っていたらとても気分が盛り上がったので、
「明日、カラオケ屋の朝カラをしに行こう!」という話になったのだが、よく考えたら休日である。日曜日。
いくらGW中でも平日の方がましなのではないかと考え、明日の5月1日に日延べする。
弱腰な私たち。

しかしやはり前夜のうちに思いついたのだが、娘の誕生日がもうすぐだ。
今年は誕生日が連休に入らない珍しい年なので、ぜひ当日に祝ってやりたい。
しかしその日は名古屋から帰ってきたばかりの、GWの最終日。
きっと行く体力がないだろうと、今日のうちに行くことに。

電動自転車を漕ぎに漕いで1時間弱。
交通費は安く上がるがくたびれる。いや、これも修行のうちか。
娘は元気で、車椅子に移動してもらって病棟のテラスをお散歩した。
フェイスシールドは不要となり、マスクのみでOK。
コロナも様々に変遷してきたものだ。
娘も私たちもまだかかってない。息子夫婦は2人してがっつりかかったようだが。

最後に、
「じゃあ、娘ちゃん、病棟に帰ろうね」と言ったらそれまで渋面だったものがぱあっと明るい笑顔になった。
病棟の部屋に入ると「娘ちゃーん、おかえりなさい」との声にますますにかにか笑う。
後追い泣きをされるのもつらいものだが、こう露骨に喜ばれると複雑。
それだけ病棟が彼女にとって楽しい、居心地のいい場所なのだろうと互いに慰めあい、また1時間の道のりを自転車こいで帰ったのであった。

久しぶりにピザを買ってきてNHK4K放送「犬神家の一族」後編を楽しんだ。
しかし、なんか昔読んだ話と違う。
番組終了後、本をデータの山から引っ張り出して2人とも読んでみたのだが、かなり改変が加えられている。
脚本家の才能に脱帽だ。
気の毒なのは雑に扱われた「スケキヨ足」と愚弄された金田一耕助。

せいうちくんは2時間ぐらいかかって読んでいたが、私は1時間ちょっとで読み終えたのでめったやたらと感心された。
「さすが、中高の図書室の文系本を全部読んだ女。速いね~」って。
だってあの頃は、昼休みに図書室に行って2冊借り、午後の授業中に両方読んじゃって帰りにまた返して2冊借りて、家では家で自分で買った本や市の図書館で借りた本を読んでたんだもん、速くもなるよ。
ページ右上から左下に一目で読み下す独学の速読法をやっていた覚えがある。
そうでもなきゃ図書室読破はできない。

最近は新作本を読むのは月に1冊あるかないか。
宮部みゆきと東野圭吾と島田荘司と林真理子が出たら問答無用で買うが、他は「iPad Proを横にするとちょうど読みやすいサイズになる」というだけの理由でなるべく100均の棚に並ぶまで待って文庫に買い換え、それを自炊してまたタブレットで読む。
大好きな宮部みゆきなんか、もう何度読み返してるかわからない。
今回もついでに「杉村三郎シリーズ」の「誰か-Somebody-」「名もなき毒」「ペテロの葬列」「希望荘」「昨日がなければ今日もない」を一気読みした。
次は東野圭吾のまだ読んでない「ラプラスの魔女」から始まる「魔力の胎動」「魔女と過ごした7日間」のシリーズを読んでみよう。

23年5月1日

さあ、今日から5月だ。
森の緑が一番美しい季節。
そう言えば昔は毎年この時期になるとKちゃんちの近くの植物園のようなイタリアンでごはん食べたなぁ。
多少蚊が寄ってくるのが困りものだが、美しい庭だった。
コロナ禍やKちゃんの多忙化で行われなくなってもう何年だろうか。

後悔するのは、昨日、もう5月と勘違いしてピザを買ってしまったこと。
4月分の家計簿にピザ代2100円が重くのしかかる。
きっとまた今月も赤字だ。
今回こそ黒字になれると思っていたのに!

明日の宴会のために買い物に行き、荷物を作って楽しみに待つ。
長老のマンションで、酔っ払って帰れなくなった人は泊まってもいいってルールの暴れん坊飲み会だ。
私はそう酔っ払わないが(そもそも飲まない)、いつもついでに泊まってしまう。面白いんだもん。

こちらも新宿のパスポートセンターに寄ってから行く予定が、けっこう電車がややこしいのが判明し、パスポートはいったんあきらめる。
結局また自転車のお世話になることに。
40分ぐらい、とグーグルさんは言っている。本当か?

23年5月2日

長老んちでリアル大型宴会が開かれた。
新宿にパスポートを取りに行ってから宴会に出るつもりだった我々だが、どうもくたびれそうなので、新宿は飛ばして自転車で直接長老宅を目指す。
パスポートは後日だ。

メンツは
(男性)
Aくん:家主。ビールが何より好き
Bくん:ビール会社に勤めながらソムリエの資格を持っている。ワインが何より大好き。
Cくん:日本酒をこよなく愛する元気のいい好青年。あと30年若かったら引く手あまただったろう。
Dくん:ゲーム脚本家兼大学でサブカルチャー史を教える講師。
Eくん:会社員。ワインと洋楽と少女マンガの蘊蓄をたっぷり持っている。
Fくん:会社員。せいうちくんの義弟。
Gくん:「働いたら負けだ!」のポリシーを貫いて30年、立派なプータロー。
Hくん:せいうちくんである。
(女性)
Iさん:家事が得意な明るい女性。私よりひと回りも若い。現在のくらぶのマドンナある。
Jさん:プーの主婦。つまり私。
(欠席)
Kくん:会社員。虫の写真を撮るのが趣味。

10人の大型リアル宴会。
Kくんが来るはずだったのだが、前夜からおなかが痛いとのことでやむなく欠席。
なのに電車に乗って新宿三丁目で集合する人たちに宴会用の酒とつまみを託したという根性の人だ。
宴会中もZOOM画面に現れて時々おしゃべりしてた。

自転車を40分も漕いできたので家主である長老の許可を取って空き部屋で着替える。
もう最初っから泊まる気満々のいーかげんな恰好で酒宴に参加。
持って来た千切り大根と明太子にマヨネーズとめんつゆを借りて、和えれば明太大根サラダの出来上がり。
あとはせいうちくんが低温調理のローストポークを持ってきていたが、何しろIさんが張り切って作ったり盛りつけたりしているのでキッチンはわりと人の出入りが多い。
あとにしよう、と判断したらしい。

5月半ばから実家のお母さんを東京に呼び寄せ一緒に暮らすことになっているDくんは、「もう料理はしたくない」と言うお母さんのために今、自炊の腕を磨いている。
こないだ彼んとこでご馳走になった「大根と手羽元の煮物」が非常に美味しかったので、せいうちくんが「また食べたいです。大量に作ってきてください」とリクエストしていた。
本当に作ってきてくれたその煮物は、「Dくんが料理をするのか?!」という皆の驚きを差し引いても素晴らしい出来で、あっという間に売り切れていた。
九州風の濃い味付けが母を通じて博多の血を呼び覚ますのか、私もたくさんいただいた。

ワインのBくんに対して、日本酒のCくんは乾杯の最初から日本酒をぐいぐい行く。
私は場に流されてワイン。
正直どっちでも変わらない。
アルコールに弱いのと酒の味がわからないのはどうしようもないのだから。
今日はとにかく宴が終わるまでつぶれないのを至上命題とする。

せいうちくんは久しぶりに大勢の友達に会えて嬉しそうだった。
時々実家をはさんで険悪になりがちな義弟のFくんとも仲良く実家の愚痴話をしていた。
「ねえ、お義兄さん」的にFくんがせいうちくんの肩をもんでるシーンなんて初めて見たぞ。
お義母さんと妹さんの癒着はどうやっても切れないから、もう静観してるしかない、と義兄弟は結論づけたようだ。

Fくんはうちの息子について、
「芸人もいいが、生活していけないのでは困る」と言う。
「『何歳までやってダメだったら諦めろ』とか『もうこれ以上はやめろ』とかどこかに線を引くべき」だそうだ。
「それは何の権限で言うの?」と聞いたら、きっぱりと、
「親の権限!」。
30歳過ぎた人間に親の望む生き方を押しつけることはできないと我々は思っているのだが、義弟は「それが親の務めだ」と言って譲らない。
実家方面には内緒にしていたのに、せいうちくんたらうっかり、
「息子ももう、結婚してるしねぇ」と口走ってしまった。
「おっといけない、これはFくんの胸だけにしまっておいてくれ」と頼んでいたが、今日だけでFくんの胸にいったいどれほどのことがしまわれてしまったことか。
夫婦の間で隠し事はしない、といううちのポリシーにも反するんだが(義弟は妻に甥の結婚を黙ってなきゃいけないんだから)、義弟んちはまた別の道徳で動いているようだから、まあいいんだろう。

皆さんリアル宴会に飢えていたのか、実に賑やかな会だった。
騒音問題に敏感なうちのマンションだったら絶対にここで窓は開けられないなぁと思うタイミングで、家主は窓を全開にする。
室内では酔っ払いたち、特にGくんが普段のテンションで酔っ払い、大声を出しているしそもそも家主も相当やかましい。
隣りの家から苦情が来ないんだろうか、と人んちのことながら心配する。

13時からやってるんで、20時ぐらいから帰る人たちが現れる。
今夜は何としても泊まってもらってじっくり話をしたいと思っていたDくんも帰ろうとするので、
「私、最近、短歌を始めたんだ。ぜひDくんに批評してもらいたいな」と引き止めにかかったら、
「おう、それはぜひ見せてもらおう!」と意外とすんなりと残ってくれた。

短歌はかなり酷評を受けた。
「これは、あなた自身だね。こういうのを書くといいよ」と言われたのはひとつかふたつで、あとは、
「『春の海』なんていらない!」とか、
「これはくだらないね」といった痛烈なものだった。
でも書き続けるのはいいことだから、また書いたら見せてくれ、と言われて少し気分がいい。
「私らしい短歌」もあるみたいだし。
とにかく心の底から全部吐き出してしまえ、というのが彼の指導だ。
「短歌パラダイス」という本を読むといろいろわかることがあると思う、と言われたのでさっそく入手して読もう。

その後、残ったAくんDくんFくんGくんせいうちくんと私で、相当あからさまに思うままに会話をしていたので、またいっそう酒が進んでいた。
友達に対するかなり痛烈な批判が飛んでいたので、うっかり、
「こういうふうに何を言っても大丈夫な場ってなかなかないね。昔と変わらなくて嬉しい」と言ったところ、悪口に食傷してきていたDくんははっと我に返ったらしい。
「イヤな話を聞かせちゃって、すまんかった。オレはもう帰った方が良さそうだ」と帰ろうとし始めた。
Fくんも立ち上がる。

AくんGくんは、家庭持ちのFくんはともかくDくんは酔っぱらわせると面白いから、という理由で全力で引き止めていたし、私はもっとDくんと話したかった。
でも、「Dさんは飲みすぎるとだんだん鬱になってきて『ダークDさん』になるから」と気遣うせいうちくんは、
「Dさん、もう帰った方がいいですよ」と敵陣に回る。
玄関でもみ合うようにGくんがDくんのデイパックを引きずり下ろしかけて、これは残るか?と思ったらせいうちくんがまた、
「もう帰してあげてくださいよ」とGくんを止めて、結局DくんとFくんは帰ってしまった。

私が不用意にはなったひと言がきっかけで楽しい語らいが台無しになり、メンツが2人も帰ってしまった。
帰るDくんの味方をしたせいうちくんを責めながら、今から呼び戻せないか、せいうちくんがタクシーでDくん宅へ向かい連れ戻す、など足掻いていたら、AくんGくんは「みんなでタクシーに相乗りしてDくんちへ行って、そこで飲み会再開じゃあ~!」と気炎を上げる。
もちろんどれも現実的でなく、結局4人でいつものような夜を過ごすことになったが、途中ではへそを曲げたGくんが、
「わしも帰る。今帰れば、都内地下鉄乗り放題の切符で300円得をするんだ」と強硬に帰ろうとしていた。
Aくんせいうちくん私で100円ずつ出して、
「ほら、これで300円のモトは取ったよ」と説得するも、
「おまえらが出したって意味はないんだ。わしは鉄道会社から300円もぎ取りたいんだ」としばらく暴れていた。

0時ごろには落ち着いて飲み直しに入ったが、何しろもう11時間も飲み続けてるんだ、途中からお茶に変えてる私はともかく、みんなはもつまい。
長老はリビングの続き部屋のベッドに入り、我々は持参の寝袋で、Gくんはとっくにソファで爆睡だ。
荒れる宴会は、疲れるけど楽しいなぁ。

23年5月3日

朝の6時に長老宅で目覚め、そのまま自転車漕いで帰ってきた。
流石に2人ともばったり倒れて寝た。
起きてから関係者各人にメッセンジャーで謝って回ったが、Dくん含め誰も何も覚えてなかった。
Gくんが「せいうち夫妻が(Dくんを帰してしまったことで)夫婦喧嘩していた」と言っても、一部始終見ていたはずのAくんまで「夫婦喧嘩?そんなのあったか?」と言う有様である。
「だからもう、何にも気にしなくていいんだよ。僕がDさんを帰してしまったのが悪かったよ。ごめんね」とせいうちくんになだめられ、怒涛の宴会はこれにて終了だ。

その後も夕食を食べたら眠くなってしまい、20時現在、せいうちくんはすでに寝ている。
明日からの名古屋行きに備えて旅の支度だけは整えた。

名古屋の友人Tちゃんのお母さまが去る4月19日に亡くなったと聞いたので、そろそろ少しは落ち着いた頃だろうと今回の予定には入ってなかったんだが、急遽約束を取り付ける。
こんな時に顔を見て慰めてあげられずに何のための友達だろう。

幸い、2日目の女子会のあとに時間を空けられそうだ。
Tちゃんに連絡したら、その時間に名古屋駅まで出てきてくれると言う。
実に好都合だ。Tちゃん、ありがとう。
今回は会えないかと思っていたが、名古屋に来る理由がほぼかなうことになった。
小・中で一緒だったCちゃん、Kちゃん、Mちゃんに会えるうえ、高校の友人Tちゃんにも会えるとは。
本当は高校の友達Mちゃんにも会いたいが、今回は予定がきゅうきゅうになってしまったのでまた次の機会に。

23年5月4日

朝早く起きて、コロコロトランクひきずって駅まで歩く。
東京駅までは座れたので楽だった。
新幹線はというと、インバウンドの外国人ツアー客でいっぱい。
誇張なしに車両の3列シート側の半分は同じツアーの人で埋まっていたと思う。
車内販売車が来たらツアコンのおばさんが各自に注文を取って伝えていた。
でも支払いは個人個人なので、時間がかかるかかる。
おまけにちょうど我々のところでコーヒーポットが空になり、私のコーヒーだけ注いだおねーさんはあわてて新しいポットを取りに行き、「すみません!」とせいうちくんにサーブしてくれた。
販売のおねーさん以外、あちらもこちらもノーマスク。
我々、無事に帰れるのかしらん。

随時報告を入れながら名古屋駅に着く。
学生時代の帰省では2時間以上かかっていたので、今の1時間40分はホントに「すぐ」って感じだ。
味噌煮込みうどんを食べるために朝食も駅弁も抜いてきたぞ。

駅のすぐそばのゲートタワーホテルに荷物だけ預け、Cちゃんに連絡すると、混んでて停められないからJPの駐車場にいったん停めたそうで、彼女自身はポストの横に立ってるって。
スマホのない頃、我々はどうやって待ち合わせをしていたんだろうかと外出のたびに思うよ。
息子相手ならハグするところだがCちゃんがハグ派かどうかわからないので両手を広げて感激を表現しながら近づく。
「久しぶり!」
「ホントに久しぶりね。せいうちさんもお元気?」と挨拶しながら、駐車場へ。

母で慣れてるつもりだったが、名古屋の人の運転は荒く、上手い。
身体の一部のように車を自在に操るんだ。
あっという間に駐車場を出て車の流れに乗る。
Cちゃんちの近くの「まことや」で味噌煮込みうどんを食べる計画だそう。
「11時開店なのよね。もう11時半ぐらいだから、少し並ぶのは覚悟して」と通い慣れた人の発言は強い。

車中のCちゃんはクラシックらしきピアノ音楽をガンガンかけてる。
「これは、誰?」
「ショパンよ。私、ショパンが大好きなの」
後部座席のせいうちくんに「わかる?」と声をかけると、
「僕はこのへんは『ショ』とか『シュ』のあたりに分類してあるだけ。ショパンとかシューベルトとかシューマンとか、だいたいな感じで」だそう。


「まことや」はやはり行列ができていた。それでも満員の駐車場の隣の有料駐車場に空きがあっただけ運がいいらしい。
せいうちくんが並んでてくれたので、Cちゃんと日陰に避難しておしゃべりしていた。
「駅前の山本屋総本舗にも行ったけど、やっぱり『まことや』が一番美味しいと思うよ。だけど、駅から離れたところばかりで車で行く前提だから、Cちゃんがいないと食べられない」
「大丈夫、ちゃーんと毎回お連れするわよ」と頼もしいお言葉。

やっと入って注文したのはCちゃんと私が「親子(鶏肉と玉子が入っている)」で、せいうちくんは「エビ天入り」。エビ天好きだね、この人は。
ぐつぐつと煮立った土鍋で運ばれてきた味噌煮込みうどん、ひと口食べると「まことや」の味が口いっぱいに広がる。
これこれ、これが食べたかったのよ。
濃いめの赤味噌で、うどんは腰があるけど固すぎない。
私のソウルフードかもしれない。

「せいうちさんが行きたいのはどこだっけ。知多半島?」
目的地をてきぱきとナビに入れるCちゃん。
彼は仕事の関係で高速道路上の状態を見たいのだそうだ。
「それならついでに名古屋国際空港に行きましょう。セントレアっていう施設ができて、にぎわっているのよ。帰りも同じ道を通るから、道路ももう1回見られるわよ」ってCちゃん。
我々は乗せてもらう立場なので、ひたすらどこでも連れてって、って気分。

路面はやはりせいうちくんが聞いていた通りで(上りも下りも)、こんなとこまで来て仕事かい、熱心だね、とCちゃんと2人で笑う。
もっともバリキャリ公務員のCちゃんは私なんかよりずっと仕事の苦労を知っているから、
「休日にも仕事。サラリーマンの鑑だわね」とほめるニュアンスだったようだ。

名古屋国際空港に着くと、巨大な建物が建っている。
「セントレア」と呼ばれる名古屋の新名所らしい。
近くに地方空港としての小牧空港は残っているが、海外にも直接行ける大型空港として国際空港ができ、そこに付帯施設としてちょっとしたアミューズメントスポットになっているのがセントレア。
小型の飛行機を倉庫に格納したのを目の前にして食事や飲み物が楽しめる空間があったので、3人で飛行機の頭の真正面に陣取った。
各人、ずらりと並ぶスタバやレストランで食べ物飲み物を買ってこの席で楽しむらしい。
横から見ることもできたが、くたびれたので機首部分で十分。
Cちゃんはオレンジジュース、せいうちくんはビール、私はフレッシュいちごジュース練乳入りを買ってきて、「こんなに近くで拝める日がこようとは」と飛行機の頭に親しんだ。

飛行機をぐるりと取り囲んだ空間は半円形のコロッセオのように座席が2階建てに並び、広大な吹き抜けになっていた。
眼下を見るとお子様連れの列ができていて、どうやら飛行機の中に入ってみるイベントもあるらしい。 
時々操縦席に座って大喜びしている子供の顔が見える。
そこまでは、って方のためには座席を前後2列切り出して展示してあり、自由に座ってみることもできるんだよ。

動く通路を含む長い長い道のりを歩いて、飛行機の発着が見えるデッキに行ってみる。
そこまでの間も飲食店や物販でにぎわっていいた。
今日は沖縄フェアらしくて、サーターアンダギーやちんすこうがワゴンで山のように売られていた。
つい先日買ったばかりの「足に電流を流すSIXPAD」を実演販売するおにーさんに声かけられて、
「もう持ってるんです」と答えたら、ただでは引き下がらない販売根性でSIXPAD模様のウェアを勧めてきた。
頑張るもんだねぇ。

デッキに着く前にトイレで日焼け止めを十分に塗り、さてお日さまの下へ。
一番奥の端が混んでいるのは、目の前で離陸する瞬間がバッチリ見えるからだろうか。
ピーチ便やスカイ、JALやANAも含めて、驚くほどの頻度で離陸していく。
空中で混乱しないのかしらん。
我々もピーチ便がだんだん速度を上げながら滑走路を疾走し、ある時点で機首が上がって斜めにふわりと離陸する様を撮影したりして楽しんだ。
スマホで撮ってる人はもちろん多いが、ごついカメラを構えては滑走から離陸からそのあとの旋回まで取っている人もたくさんいて、なるほど、「飛行機版の撮り鉄」みたいな人たちは存在するんだな、と納得した。
私も動画ひとつ、ピーチ便が見事に離陸するところが撮れたよ。

空港とセントレアをすっかり堪能して、またCちゃんの車に乗る。
せいうちくんは帰りの道路も行きと同じ状態だったので少し眉間にしわが寄っていた。
お仕事ご苦労さまです。

市内に帰ってきて、Cちゃんちでひと休みしましょう、と提案される。
Cちゃんちは1人暮らしには広すぎるんじゃないかと思われる3LDKの綺麗なマンションで、そこをまた綺麗好きのCちゃんが徹底的に掃除をしているうえ装飾も欠かさないのでたいそう綺麗。
「絵やポスターは季節ごとに気分を変えるために取り換えてるわよ」って、うちは1枚絵を掛けたら20年そのままなんですけど。

「シャンパンはちゃーんと届いてるわよ。綺麗な包装だけど、冷やすからもう取っちゃうわね」と言って、それでもちゃんと包みを写真に収め、明日、女子会のお店に持ってきてくれると言う。
Cちゃんちには家庭用のワインセラーもあるのだ。ブルジョアだ。

今回目を剝いたのはリビングの真ん中に鎮座ましましているどでかいソファ。
黒い皮の上にクリーム色の大きなムートンがかかっている。
Cちゃんにしてははしゃいで、
「これ、思い切って買ったの。3年考えたわ。自分にとって最高に居心地のいい空間を作ろうと思って」と説明してくれた。
座って良し、寝転んで良し、硬めのクッションが気持ちいい、1人だったらどう寝そべっても楽にソファ上にいられるソファと寝椅子のセットだ。
うちも似たようなものを使っていた時期があったが、サイズとか高級感が段違いだ。
Cちゃんはここに横になってテレビを観たり、サイドテーブルの折り畳みLED灯で読書をするんだね。

そういえば、マガジンラックについさっきクラシックピアノを聴きながら話に出した「蜜蜂と遠雷」が入っていた。
村上春樹の「街とその不確かな壁」も一緒だ。
このソファで猫をじゃらしながらひじ掛けに身体を預けて難しい小説を読むCちゃんの姿を想像すると、いっそもう、神々しかった。

さて、猫である。
独身女性はある時期から猫を飼い始めるとは聞いていたが、性格的にはドライなCちゃんが猫を飼い始めるとは思ってなかった。
譲渡会とかじゃなくて、「街中で目が合っちゃって、もう連れて帰るしかなかったのよ」と猫好きらしい発端を語る。

ずっと写真とかZOOMの向こうからしか見たことなかったので、Cちゃんの「ブスなのよ。そこが可愛いの」という言葉をうのみにしていたが、いざ実物を前にすると小柄でしなやかな体躯を持ち、しぐさのひとつひとつに品がある。
床に落ちているさまざまな猫じゃらしグッズを使って、Cちゃんが、
「それっ、ジャンプしなさい!」などと掛け声をかけながら棒を振り回すのはなかなかの見物だった。

ジャンプまではいかなくて、立ち上がりそうになる手前ぐらいだったので、私もがぜんやる気になり、Cちゃんから猫じゃらしを受け取り、ひたすらちょっかいをかけた。
「ふふふ、おばさんはね、イルカだってジャンプさせられるんだよ」と言うのは、昔、伊東のあたりのさびれた水族館に家族で行った時、
「お客様の中で、イルカに曲芸をさせてみたい方はいらっしゃいませんか?」との声に「はいっ」と元気よく手を挙げて、ステージで手信号を送りイルカたちを見事にジャンプや立ち泳ぎさせたことがあるから。
(小学校4年生の息子は、父親にしがみついて「ママは恥ずかしい。勇気があるのはスゴイと思うけど、やっぱり恥ずかしい」と繰り返していたそうだ)

しかしやはり訓練されたイルカたちと好き放題に遊んでる猫とでは勝負にならず、20分ほども猫じゃらしを振っていたのにジャンプさせるほどの高さまで釣ることはできなかった。
前足が届いちゃっちゃあダメなのよね。
もうちょっとで届きそう、って高さをキープしないと。
でもあんまり高いとこで振り回しても向こうが興味をなくしちゃうから、難しい。
床でぱたぱたって動かしてみたら、ピアノ椅子の陰に隠れて遠回りしてそーっと近づいてきた知恵には感心したなぁ。いや、何がしたいか見え見えなんだけどね。

遊びくたびれたので、Cちゃんが新しく買ったというアイリスオーヤマの冷凍庫を見せてもらってCちゃんちツアーはおしまい。
なぜかせいうちくんと、
「別になってる冷凍庫、要りますよね!アイスの箱とかたくさん入れられるし」
「そうそう、そうなの!!それに、これは縦長で引き出しを1個1個取り出せるから、冷蔵庫の扉を開けっぱなしにせずに必要な引出しだけ出して作業ができるの!」
と家庭における独立した冷凍庫の必要性を延々と述べる両者だった。
そりゃCちゃんちみたいに片づいててゆとりがあればほしいけどさぁ、うちはもう、どの部屋も満杯状態だよ。

タクシーを呼んでもらって、Cちゃん行きつけのイタリアン・レストランでディナー。
もう4回以上来てるなぁ。
とても美味しい素敵な店だし、Cちゃんは完全に「常連客」だ。
私がリクエストしておいた「魚のそば粉クレープ包みサフランソース」と「牛頬肉の赤ワイン煮込み」を前日までに頼んでおくのを忘れたの、と珍しくCちゃんのポカ。
もっともコロナ以来やはり苦しくて、メニューはずいぶん減ったから無理だったと思う、とのこと。
わかるわかる、我々もたまに行くフレンチがそういう状態になっているよ。

前菜は牡蠣と、カニとアボガドのサラダ仕立て。
メインはお魚のグリルと牛肉のグリルをもらって、パスタ2種。
これらを3人分にシェアして出してくれる。
酒好きのCちゃんとせいうちくんは白ワインと赤ワインをデカンタでもらって魚と肉に合わせて楽しんでいた。
「あなたたち、よくそんなに入るわね。お昼に味噌煮込みうどんを食べたくせに」とぼやくCちゃんは肉あたりで完全にギブアップして気前よく我々に分けてくれた。
もちろんデザートはパス。
せいうちくんは黒トリュフ入りのアイスクリームにコーヒー(Cちゃんもコーヒーは飲んだ)、私はティラミスをいただいてエスプレッソを頼んだ。
今回も美味しゅうございました。

電車で帰ると言うCちゃんと別れてタクシーでホテルに戻る。
やっとチェックインなので部屋を見るのはお初だ。
広いバスタブと、何より夜景が素晴らしい。
23階からの眺めを何枚か写真に撮ってCちゃんに送る。
「素敵な夜景ね!また明日ね」とすぐに返事が来た。
喫煙室がはるか遠くロビーまで行かないとないのがつらいけど、高級な、いいホテルだ。
もちろんダブルベッドの上でせいうちくんとぎゅうぎゅうと抱き合って転げまわって喜ぶ。
お風呂にゆっくり入って、少し本を読んで就寝。
明日は女子会だ。楽しみ。

23年5月5日

朝はのんびり寝て、女子会の待ち合わせ正午より前にビル1階の日比谷花壇へ。
別口で会う予定のTちゃん向けに「四十九日をまだ迎えていない方」向けのアレンジメントを注文しておく。
15時に引き取りに来る手はずにして料金を先払いし、これで準備は万全。
留守番のせいうちくんとはここでお別れ。
本人はあちこち歩くつもりだから何にも心配はいらないって。
知らない街を歩くのが趣味なんだね。

Cちゃんが私の泊まるホテルを聞いて同じビル内で女子会を設定してくれたので、ものすごく助かる。
ついでにTちゃんとも隣のビルの星乃珈琲店で待ち合わせだから、ほとんど移動はない。
どの店にも前に椅子がたくさん並んでいて、座って順番を待つ人の嵐。
Cちゃんはちゃんとお店を予約してくれていたから、あっさり4人席に案内された。

Cちゃんと高校も同じだったKちゃんはもう来ていた。
中学の同期だったMちゃんはお店の前で待っていたらしくて、「もうみんな、入ってるの?」と驚きのLINEのあとやってきた。
Cちゃんが、
「今日はうさちゃんからサプライズがあるの。女子会に、シャンパンをいただいだのよ!」と宣伝してくれる。
持ち込み料を取られるが、そこはまあ、責任者の私が払うから。
洒落た形のシャンパングラスが4つ出て来て、お店の人が抜栓して注いでくれる。
黄金色の美しいシャンパンだった。

「息子の奥さんのお母さんが百貨店の酒類売り場にお勤めだったの。今は部署が変わったみたいだけど、詳しいから『女子会向けの華やかなものを。友人は辛口が好きです』って頼んで選んでもらったの。向こうは売り上げになるし、こちらは社販で割り引いてもらえてウィンウィンだよ」といらんことまで説明する私。
ついでに先月お母さまも一緒に若夫婦と箱根の温泉に行った時の写真を見せると、
「息子くんのお嫁ちゃん、可愛い~」
「家族で旅行に行くなんて、仲良しなのね~。うらやましいわ~」と歓声を浴びた。
どうやら子供の配偶者は「お嫁ちゃん」「お婿ちゃん」と呼ぶのが習わしのようだ。

独身のCちゃん以外から雨のように降ってくるのは孫の話。
「うさちゃんも、すぐよ。可愛いわよ~」と言われると、楽しみになっちゃうじゃないか。
Mちゃんちでは下の世代の海外赴任が多く、先日まで息子さんがシンガポールに行っていてMちゃんが娘さんと孫ちゃんと暮らしていたんだが、やっと帰ってきたと思ったら今度はお婿ちゃんがマレーシアに赴任なんだって。
娘さんがついて行くのか、単身赴任になるのかは聞きそびれた。

Kちゃんは長年勤めた結婚式場のウェディングバトラーという仕事を辞め、ご両親の看取りも終わり、「さて、これから何をしようかしら」って状態らしい。
あんまりヒマにしていると孫の面倒をみるのにあてにされちゃうから、何か自分で始めたいようだ。
あと、根が働きものなのでぐうたらしてしまったらどうしようと自分がコワイらしい。
そんなことを言われたら、30年以上ぐうたらしている私の立場はどうなるんだ。

そしたらMちゃんが言った。
「でも、うさちゃんは全然、外で働いてない人には見えないわよ。てきぱきしてるし、いろいろ考えてるし。ものすごく、働いている人に見えるわぁ」
それはちょっと嬉しいね。大学教育を無駄にして30年かけてバカになってきてる気しかしないもんだから。

女子会も、最初の頃は古い卒業アルバムを出してきたりして過去を大いに懐かしんだものだけど、5年以上たった今ではお互いの現在やこれからの話に集約されがちだね。
そうそう、「老後の話」は出る。いやんなるぐらい出る。
みんな、昼間っから5千円のランチを食べてる身分だからそう困ることはないだろうけど、やはり政府の「老後の不足を補うために、各夫婦で2千万用意してもらいたい」って言われたのはショックよね~となるのはどうしようもない。
どうもキモは投資らしい。
しかも、株の値上がりを待つというより配当金を生活費に加える考え。
私にもどうやら「自分の財産」があるようなので(OL時代に貯めた貯金を頭金にしてマンション買い、値上がりしたそれを売ったので、ちょっと儲かった)、今度せいうちくんに頼んで投資を考えてもらおう。

「息子くん、秋に結婚式なのね。楽しみね」と言われたり、予想していた通り、子供が生まれてもお嫁ちゃんに「お疲れさま」「おめでとう」はいくら言ってもいいけど、「ありがとう」は禁句らしいよ。
「アンタのために産んだわけじゃない」って気分になるかもだからね。
嫁と姑の間はいろいろ大変なんだなぁ、ってあらためてタメイキ。
うちの「お嫁ちゃん」、いや、息子の妻のMちゃんは息子への不満を私に言ってくることあるよ、と言うと、それは「理想の嫁姑関係が築けている」のだそうだ。よかった。

90分コースの店で2時間以上おしゃべりしてしまったが、さて二次会はあるのかな?
どうもそのまま散会な雰囲気だったので、駅に向かう3人にさよならを言って、余り時間をホテルの部屋で休んで調整する。
つくづく、この会場を選んでくれたCちゃんに感謝だ。

しばらくして戻ってきたせいうちくんは、名古屋のアキバゾーンとでも言うべき場所に行ってしまったんだって。
でも欲しい古本マンガはなかったので、回転寿司を食べて手ぶらで帰ってきたってさ。
ちゃんと日比谷花壇からお花のアレンジメントを受け取ってきてくれていた。

14時20分頃に一緒に出て、星乃珈琲店まで送ってもらった。
彼はこれからビックカメラに行って電気製品でも見るつもりらしい。
まだまだ待ち合わせにはずいぶんあるから、席順表に名前を書いて外に座ってればTちゃんが来る前にお店に入れているかも。

しかしGW終了前日の午後の星乃珈琲店はそう甘くなかった。
15時直前になっても、私はまだ外に座って本を読んでいた。
そしたら電話が鳴る。Tちゃんだ。
目を上げると、そこに不確かそうな顔をしたTちゃんがいた。
そうね、この頃では待ち合わせの相手に声をかけるより先に電話をかけて本人かどうか確かめるみたいね。
人違いしちゃったら恥ずかしいもんね。
私はメガネを頭の上にはね上げてうつむいて本読んでたからわかりづらかったんだろう。

「きゃー」「ありがとう!」「こちらこそ、駅前まで出てきてくれてありがとう!」と女子的挨拶を交わし、また外の椅子で待つ。
今度はもう、店内にいるのと変わらないからおしゃべりしてればいい。
はっ、相手はお母さまを亡くしたばかりだったんだ、とにわかに正気に返り、
「この度は本当に…」「いえいえ、もう、本人が苦しくなかったのが何よりで」と大人の挨拶。
でもどうしてもすぐきゃいきゃいしちゃう。

そのうちに名前を呼ばれて席に案内される。
2人テーブルもいっぱい空いてるのに6人座れるかもの大テーブルに案内されてビビる我々。
「いいのかしらね、こんな広い席を2人で取っちゃって」と言いつつ、メニューを見て2人ともスフレのセットにする。
Tちゃんはアングレーズソース、私はチョコレートソース。

ここで、用意の紙袋入りアレンジメントを渡す。
「えーっ、ありがとう、でもこんなことしないで」
「Tちゃんのお母さまにはお世話になったから」
「なんにも世話してないがね」(時々つるっと名古屋弁になるTちゃん)
「高校の頃も卒業の後も、みんなを一緒に招いてくれたじゃない。おもてなししてもらったよ」
「そう言えば、うちから初詣に行ったことあったね」
「そう。だから、これは気持ちばかり。受け取ってお母さまのお仏壇の前に飾ってちょうだい」
「ありがとねー。ちょうどよかったのよ。お葬式で出た花をもらって帰ってきて飾ってたんだけど、そろそろ傷みかけてきたんだわ。これ飾らせてもらうね」
「うんうん、そうして」

という儀式を終えたあとは、葬式というものの面倒くささとお金がかかる話。
「『もう全部一番安いのにしてくださいっ!』って言いそうだったわよ。決めることがいっぱいあり過ぎるし」
「Tちゃんとこは姉妹しかいないから、お墓は誰が管理するの?」
「今んとこは長女だから私がやってるけど、ゆくゆくは墓じまいをするか、うちのダンナの墓に改正して使っていくのかなぁ。もう、お墓はめんどくさいからあんまりほしくないよね」
「うちはお墓がないんだよね。父母の墓がどこにあるのか、車で2度連れて行かれただけだからどこだったかよく覚えてないし。海への散骨を考えてたけど、特に海が近いわけでも好きなわけでもないから、今は樹木葬を考えてる。毎年抽選に申し込んでるよ。まだ当たらないけど」
「樹木葬、最近人気よね。近くにいいところがあるんなら、いいんじゃない?」

そこからは子供の話。
うちのはあいかわらずでコント師になりたがってるけどそれで食えてない現実があり、奥さんが働いているから何とかなってるけど子供ができたらどうなるのかなー、と私が言えば、娘さんの1人が結婚してもう孫が2人いるTちゃんは40近いのに結婚しない長男が気になってしょうがないらしい。
「独身男性38歳かぁ…ビミョーだね。38歳って言うとまだまだ若い気がするけど、数年で40になっちゃったら、ちょっと引かれ気味になりそう」
「そうなのよ~。でも本人、まるっきり結婚する気がないの」
「普段、勤めから帰ると何してるの?休日とか?」
「プラモとゲーム」
「プラモは何?」
「ガンダム」
「ガンプラオタクかぁ。ゲームは課金しすぎてない?」
「そんなの知らないけど、貯金は貯まって行ってるからそれほどは課金してないと思う」
「ガンプラにゲーム課金とくるともう言い逃れできないオタクだからね。同じ趣味の人を探せばいいじゃん。ソーシャルゲームで知り合って結婚する人って、いるよ」
「そもそも結婚したいって全然思わないみたいなのよねー」
「いっぺん家を追い出してみたら?実家にいるとカノジョできにくいよ」
「そりゃそうだわね。考えてみなくっちゃ」

とまあこんな風に名古屋の高校で知り合った半ば不良の悪目立ちする読書家と、おとなしく目立たず、内向的で細やかで繊細だった2人は「名古屋のおばさん」になって星乃珈琲店を占拠し続けたのであった。

遺産相続の話などもしっかり聞けて、やっぱり親が姉妹に公平だったこと、その結果姉妹が仲良かったことがいい結果を生むんだなぁと感銘を受けたよ。
もめごとのない穏やかな相続の話を聞くのは久しぶりなので、心が洗われるようだった。

さすがに2時間以上たったので、解散した。
Tちゃんも今度東京へおいでよ。うちのへんはただの住宅地だけど、せいうちくんが東京駅にお勤めの間はお店とかも調べてくれると思うよ。
一緒においしいもの食べよう!

ホテルに帰って、ばったり。
せいうちくんはすでに日本酒を飲んでばったり倒れていた。
明日はCちゃんが10時に迎えに来てくれて「明治村」見学に行く。
せいうちくんはとても楽しみにしている様子。
iPad Proでちょこっとだけ定例ZOOM飲み会に顔を出し、さあ今日も早寝だ早寝だ。

23年5月6日

朝の10時にCちゃんが車で迎えに来てくれて、今日はせいうちくんがウキウキと楽しみにしていた「明治村」。
名古屋の子はみんな小学校の頃に社会見学か遠足で行くから慣れてるよ、と威張っていたが、実は私、誤解していた。
明治時代の街並みをそのまま残してあるんだとばかり思ったが、違うんだ。
明治時代の有名な建物を複製したり移築したりして、「明治を知るための空間」を作ってあるんだった。
「絶対見るべきなのは、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテルの入り口よ」とCちゃん。
サイモン&ガーファンクルも歌っていたなぁ、「So long, Frank Lloyd Wright」って。

名古屋市内から高速使って40分ぐらいで着く。
駐車場はまあ五分の入りってとこ。
GWなのにけっこう空いてるのね。
近いから、長期の休みに行くとこじゃないのかもしれない。

中はものすごく広いんだそうで、昨日すでに空港で一万歩以上歩いてしまった私はすっかり怖気づき、せいうちくんの提案で入り口に並べてある車椅子を借りることに。
自分ちにもすでに折り畳み式の車椅子を買ってしまってあるけど、本格的に外で乗るのは初めて。
もちろん押す側のせいうちくんにも初めての体験。
ちょっと恥ずかしいのを除けばかなり完璧で、ただ、スロープへ入る道が砂利敷きの上り坂だったりするとせいうちくんも苦しそう。

建物内部の資料館はたいてい階段がたくさんあるから、私はほとんど外で待っていた。
せいうちくんは非常に興奮していて、何もかもがすばらしい!と歓声を上げていた。
洋食屋で「オムライスセット」を食べたり(私はトマトソースだが、あとの2人はデミグラスソースだった。人にはいろんな好みがある)、カフェで「オールドファッション・ワッフル」を食べたり。

面白いことにコスプレも売りのひとつらしく、施設内には袴をはいたはいからさん、シルクハットにつけ髭の紳士、書生さん、茶人のいでたちの人、そしてバッスルスタイルで肩をむき出しにした夜会服姿のご婦人などがいた。
3500円で1日扮装を楽しめるらしい。
コスプレ写真を撮るだけなら600円と、なかなかリーズナブル。

「世界の建物ミニチュア館」があったので私も入った。実はミニチュア大好き。
バッキンガム宮殿や凱旋門、エッフェル塔、国会議事堂などのミニチュアが展示してあった。
ただちょっと作りが甘いというか、石膏の角がゆるい気がした。
こういうのは海洋堂に作ってもらってはどうだろうか。

たっぷり4時間ぐらい歩き回って堪能し、最後は奥の方から乗り合いバスに乗って門まで戻ってきた。
バスの後部にはちゃんと車椅子を乗せるスペースがあって、私の乗ってきた車椅子もたたんで乗っけてくれた。
せいうちくんは、
「名古屋に住んでいたら毎週でも来たい」というほどの感激ぶり。
公演や散歩道、ちょっとした山の散策なども楽しめる豊かな施設だった。

せいうちくんは、お土産に、明治のミツボシビールとサイダーを買っていた。
家で大事に飲むつもりなんだろう。
それとも定例ZOOM飲み会で自慢するかな?

駐車場のCちゃんの車に戻ったのが16時前。17時半の新幹線には悠々間に合う時間だ。
車の中でも明治村を歩きながらでもいろんな話をしたが、Cちゃんは「結婚を考えたことはない」と言っていた。
ご両親の仲が悪かったせいもあるが、とにかく自分は結婚には向いていない、と強く思ってきたそうだ。
なので東京の大学を卒業後、就職で帰ってきて公務員としてバリバリ働いていた間にお母さんから持ち込まれる見合い話にはうんざりしたと。
「こっちから是非にとお願いしたんだから、お断りはできないわ」などと言われて何度も困ったんだって。
「あんたはB級品だから、お見合いのような正規のマーケットに出す気にはなれない。お姉ちゃんにはいい縁談がたくさん来るけど。あんたはあんたを気に入るような変わり者を勝手に見つけなさい」と言われていい気分はしなかったことを思い出したよ。

気を鎮めるために一首詠もう。

 特級のお姉ちゃんに降る見合い B級品のあんたは出せない

「自分の人生に満足してる?」と尋ねると、Cちゃんはちょっと首をかしげて、
「そうねぇ、本当を言えばもうちょっと世の中の役に立ちたいというか、国際的にも活躍したかったわね。でも、80パーセントぐらいは満足よ。自分のマンションがあって気に入ったソファが買えて、猫と遊んで暮らせたら幸せ。あとは死ぬまでお酒が飲める健康体でいたいわ」と答えてくれた。
この人は本当にブレないなぁ、と感心した。

「家族と、女友達がいればいいわ。別にそういう趣味だってわけじゃないのよ。でも、女友達が最高なの」
「それで私にもこんなに親切にしてくれるんだね?」
「お互い様ですもの。貴女はせいうちさんがいれば他には何もいらないし何でもできちゃうみたいだけど、私にはそういう人はいないから」と笑っていた。

名古屋駅まで送ってもらって、車のトランクから荷物を出して、あわただしいお別れ。
猫ちゃんが小食すぎて吐いてしまったり食べ過ぎて具合が悪くなったり難しい子だから、
「もう長い旅行は無理だわ。あなたのところに弾丸旅行で行くわよ」と言うCちゃんは、今乗ってるトヨタのサイをそろそろ手放して、彼女の車人生の最後10年を飾るレクサスに買い換えたいのだそうだ。
東京だとどっちかと言えば引退したら小型車に買い換える人が多い気がしていたので、名古屋人の車人生すごろくはレクサスで上がりなのか!と驚いた。
今度名古屋に来たら、レクサスであちこち連れてってくれるってさ。
またね、Cちゃん。本当にいろいろありがとう!

列車の時刻まではまだ少しあったので、ヱビスのビアショップでビールを飲み、お弁当にサバの押し寿司と柿の葉寿司をひとつずつ買った。車内で半分こして食べよう。
帰りも行きと同じぐらい混雑していたが、大阪―東京間の新幹線だったのでかなりマシだったかもしれない。
すぐに車内販売ワゴンが来てしまったのでお寿司を食べる前にゆっくりコーヒーを楽しんだ。

今は姉の家になっている実家、私が大学に入ってすぐに引っ越してしまったのでなんの想い出もない。
帰省すると車で迎えに来てくれたので、1人ではたどり着けないだろうと思う。
どこにあるか、わからないのも同然だ。(これは父母のお墓も同じ)

 ふるさとで 女子会だけが開かれる きょうだいも親も実家もなければ

と一首詠んでみた。
この先も、私が名古屋を訪れるのは友人たちに会うためだけにだろな。
せいうちくんとの小旅行、とても楽しかった。
全面的にお世話してくれたCちゃん、どうもありがとう。
また会おうね!
Tちゃんも元気出して、これからの自分たちの老後を大事にしていこう。

23年5月7日

すべてのイベントが無事に終わり、GWも今日が最後だ。
いろんな人に会い、話し、名古屋にまで行ってしまった身としては頭がぐるぐるして止まらない。
「今日は1日、安定剤をのんで横になっていること。心身ともにとても疲れているはずだから」とせいうちくんから言い渡され、ぼーっと南勝久「ザ・ファブル」全22巻とそれに続く「ザ・ファブル The Second Contact」既刊6巻を読んで過ごした。
(明日、最新7巻が出る予定だから、これまでの分を読み返して備えたい。そんなことばっかりしているから始終読み返しをする羽目になるんだ)

Cちゃんとせいうちくんが村上春樹の話で盛り上がっていたので、「意外なところで趣味の合う2人だね」とLINEしたら、お返事で「私も、あなた方はヘミングウェイ、風と共に去りぬ、吾輩は猫である、の話がさっと通じて嬉しかったわ」と言ってきた。
知的レベルが同じぐらいということか。
萩尾望都の「ポーの一族」新作シリーズにもついてきてくれてるCちゃんの方がよっぽどありがたいよ。
雑誌連載ではもうアランも目覚めて、40年寝ていて世界が進んでいるのに驚いているよ。

旅行中はけっこう重いものを食べ続けていたので、2人とも1日中あまりおなかがすかなかった。
晩ごはんは「揚げ玉うどん」(タヌキうどんって言えばいいのか)。
明日から仕事のせいうちくん、ゆっくり休んで頑張ってね~。

23年5月8日

旅行に行く前に食べた豚バラ肉と白菜のミルフィーユ鍋、せいうちくんは牛ベースで味をつけてスープを作るので、残った中身と汁を保存している。
今夜は私が適当にインスタント味噌煮込みうどんを食べてしまったので、彼は鍋の残り汁で豆腐を煮て夕食にしていた。

そしたら、23時ごろに突然「うう~」とうめき始めた。
「どうしたの?」
「おなかが痛い」
トイレに飛び込むまでは普通だが、どうやら吐いてもいるらしい。
胃弱の私と違ってめったに吐くことの人なので、これはもしや食中毒なのではないだろうか。

蒼白になって出てきた彼に聞くと、まさに「古くなって傷んだ食べ物にあたった」症状らしい。
気休めに正露丸をのんで、あとはひたすら布団で丸まってるのとトイレに駆け込むのを繰り返していた。

0時頃に少し収まってきたので寝る、と言うが、身体が冷えて寒いらしい。
クロゼットからシングルの掛布団を運んできた。
「悪いけど、僕は薄い羽根布団の上にこれをかけて寝る。たぶん夜じゅう、キミが近づける温度じゃないだろう」と言われた通り、寝る前のハグをしにそっちの布団に入ってみたら、もわっと暑くて、薄い羽布団でさえ暑いと感じる私は2分と入っていられなかった。
すみやかにお休みを言い、いつもの続き物の物語を語ってもらって、さっさと退散。

おなかが痛いのはつらいよね。
でも私、あんまりそういうの心配してあげる優しい心を搭載してないもんだから、ひたすら「抱きついて寝られないなんて、自分にとって不都合」とぷんぷんしている。
それをぶつけるほどの人でなしじゃないけどさぁ。
早く良くなってね、私のために。

23年5月9日

今日も腹痛が続いているせいうちくん。
食欲がなくて、夜ご飯に普通のものは無理、と言ってキャンベルのクリームチキンスープを飲んで済ませていた。
「キャンベル、いいよぉ。滋養があってあったかくて、とてもおなかに良い気がする」
私はまたインスタント味噌煮込みうどん食べよう。
名古屋以来、すがきやのこのインスタント麺の世話になりっぱなしだ。
今では東京でもスーパーによっては袋麵売り場に5袋入りを売っているんだよ。
昔はすがきや本店から30袋入りひと箱を取り寄せる以外、入手方法がなかったもんだが。

おなかが痛い時に、テレワークはとてもいいと思う。
人間、トイレの近くにいると心強いものだ。特におなかがゆるい時は。
私が緩下剤としてマグネシウム錠をのんでいてもほとんど苦にならないのは、外出することがほとんどなく、いつでもトイレの周辺で暮らしているからに他ならない。

それにしてもせいうちくんも災難だ。
節約精神が仇となったわけで、本人も、
「これからは古いものは食べない。なるべく早く始末する」と決意を語っている。

23年5月10日

今日は出社日なので出かけたせいうちくん、もうおなかはほとんど大丈夫らしい。よかった。
私が昨夜ちょっとおなか痛くて、「もしかしてノロだった?」と動揺していたが、すぐ治ったところを見るとなんでもなかったらしい。
どうみてもせいうちくんのは食あたりだもんなぁ。

私も心療内科と心臓の検診のダブルヘッダーにしている日なので、まずは隣町まで出るついでだからと予約しておいたマッサージに行く。
ひざ下のオイルマッサージに力を入れている店で、旅行で疲れた脚にはとても心地よかった。
全身を揉んでもらっている間には不覚にも眠り込み、寝言まで言ってしまったよ。
自分で自分の寝言で目が覚めた。恥ずかしい。

心療内科はとても混んでいたので手短にすませた。
せっかく減薬しようとしていた矢先にコロナが始まって、それ以来せいうちくんの仕事関係が忙しくなり、やむを得ず薬をじりじり増やしている状態だ。
ドクターとしてはこれ以上は増やしたくないようだし、私も身体が重かったり口が乾いたりめまいがしたり、良くない面が出ている。
「何もしなくていいんだ」を合言葉に確認し、薬をもらって帰る。

帰ってぐんにゃりしていたらせいうちくんが帰ってきた。
まだまだ仕事は続くが、こうして日中会えると元気がわく。
もう今日はスキップしてしまおうかと思っていた心臓の検診にも行く気になれたよ。

17時半に行ってみたら、待合室は空っぽだった。こういう日もあるのか。
今日は血液検査、尿検査、心電図、レントゲンも撮る予定だったが、もう検体の引き取りが来てしまった後なので、採血と採尿は次回にしましょう、と言われた。
来るのが遅すぎたか。
3カ月に1度、採血・採尿がある時は早めに来るようにしよう。

レントゲンと心電図をすぐに取ってもらえて、心臓は少ししゅっとしてきて肥大がおさまって来ているし、心電図の異常波はもうずっと出ているのでこれはこれで安定しているそうだ。
ワーファリン値は「2.7」。
少し高いが、前回「1.6」で薬を増やすことも考えたのを思うと、様子を見ておいてよかった。
基準範囲内なので、このままの用量で続けて行く。
現在の私はちょっとだけ心肥大で心電図に異常があるがどうということもない、つまりほぼ健康体なわけだ。

それでも6回目のワクチン接種券が来たと言うと、
「うさこさんは基礎疾患があるから、打っておいた方がいいわね。いい?」と聞かれて、すぐに3週間後の予約が取れた。
これに関しては少し話し合いがあって、最初は5月31日を提示されたがついでに診察を受けたいと希望したら、
「それなら月が替わってからの方がいいわね。6月2日はどう?」。
でもよく考えたら6月3日に息子の大きなライブがある。
万が一ワクチン熱が出て入場できなかったら困るからそう告げると、
「じゃあ翌週の月曜にしましょう。6月5日の16時。それでどう?」
問題ないのでそこでお願いすることにした。
いろいろ事情を汲んでくれてありがたい。

家に帰ってせいうちくんにそう言ったら、
「またそういうことを言う。朝晩に最新の心臓の薬をのんでやっと保てている状態なんだよ。健康体だったら薬なんかいらないでしょうが。まったく、毎月医者に行って検診しなきゃいけないってことの意味が全然分かってない!」と猛烈に怒られた。
だってさ、子供の頃は熱がないのに気分が悪いとか頭が痛いとか言うと「仮病でしょ」って叱られたから、ちゃんとエビデンスのない不具合はNGなんだよぉ。

せいうちくんと結婚してよかった、と毎日のように思うのは、彼が私のこういう思い込みと代わりに戦ってくれるからだ。
もちろん彼の側のどうしようもない思い込みとは私が戦っていて、それはそれでウィンウィンだ。
お互い、なぜ相手がこんなに実家の呪いに弱いのかイヤと言うほどわかってはいるが、同時に「そこまでわかってて変われないものかねー」とあきれてもいる。
人の振り見て我が振り直せ。
相手をロールモデルにして、自分の心を自分の手に取り戻そう。

23年5月11日

人に貸していたマンガが大量に返ってきたので、また自炊をしなければ。
「ダーウィン事変は評判ですが、おススメですか?」とマンガ友達ミセスAに聞かれ、「現在の私のイチオシです!」と答えたのがGW前。
GW中に読み進めたらしい彼女にうっかり「弟も出て来て、波乱の予感ですね」とLINEしてしまったら、まだ出てきてないんだそうだ。
4巻までダッシュしてくれ!

で、「ダーウィン事変」をやっと読み終えたらしいミセスAはママ友から、
「『BEASTARS』読みました?大好きなんです」と言われて、そう言えば私からも勧められたことがあったなぁと思い出したようだ。
「おススメですか?」と聞かれて、「今世紀最高です」と、次々と何でも「最高」と勧めてしまう自分に嫌気がさす。
でも、どれもすごくいいんだもん!
板垣巴留は天才のDNAを受け着いた恐るべき2世マンガ家だぞ!

うちの「BEASTARS」はもう全部自炊しちゃったから読ませてあげられない。
しかし、これはもう絶対読んでもらいたい。
「ウサギと牡鹿の正常位なんて、普通考えないでしょう」と叫んでまんがくらぶのZOOM飲み会でさえ顰蹙を買ったほど入れ込んでいるんだ、手塚治虫を超えるケモナ―の作品を、勧めたくてしょうがない。
いっそ全巻セットをAmazonから送りつけようか。
状態のいいマンガ喫茶流れのモノなら4千円ぐらいで買える。
ご贈答してもちっともおかしくない価格だ。
しかし相手の家の本が増えるのは望ましくないだろうし…うーん、悩む。

23年5月12日

なんとか2週間分の日記を書き上げた。
スゴイ開放感が襲ってくる。
結局、私の機嫌のいいも悪いも日記の進捗状況次第なんだな。

昨夜、せいうちくんから仕事の話を聞いていて、
「そこがポイントだよね」「それじゃ証明できないじゃん」といった一般的な感想を語ったのだが、せいうちくんはいたく感銘を受けたらしい。
「僕の部署の人に説明するんでも、そこまでスムーズにキモを理解してくれる人は少ないよ。キミはまったくの門外漢のくせに、生まれ持ったバランス感覚と良識でなんでもすぐに理解しちゃうんだね。偏見や予断がないからなのかな。とにかく思い込みが少ない。僕とは真逆だ。僕は思い込みで仕事してるから」と大絶賛。

頭がいい、って誉められると嬉しいんだよね。
今は亡き母が、私についてたった2つほめてくれたことは、「頭がいい」(成績は別。姉は常にオール5。私は2から5まで散らばってた)のと、「戸締りやガスの元栓がしっかりしてる。お姉ちゃんなんか、いくら頼んでも元栓閉めずに寝ちゃうから、あの子が寝るまで安心しておちおち眠れない。1人暮らしなんてさせられないわ」という点。
だからこの2点については張り切ってしまう。
実際、細かいことが気になる性格だし、無駄に頭の回転速いし。

そこで一首詠む。

 頭いい! もっと聞きたい 君からも ママが誉めてた唯一の取りえ
 
短歌はなかなか面白い。ちょっとハマってる。
ホントは1日百首ぐらい詠まないとハマってるうちには入らないのかもしれないけどね。

【車中泊の旅最終6日目・3月19日】

長かったようであっという間の6日間の車中泊の旅も今日で終了。
最後の行程で日光を通るので、せいうちくんは「いろは坂を通りたい」とわがままを言っていたが、Gくんに、
「この時期はまだスノータイヤでないと危険。そんな装備はない」と一蹴されてしゅんとしていた。

代わりに通った山道、前橋に抜けるまでの間に自販機ばかりが並んだ掘っ立て小屋に遭遇した。
なんと「うどんの自販機」があった。
これは駒場寮時代に寮の入り口にあったのとまったく同じもので、徹夜で飲んだ早朝に〆の麺類が食べたくなったらこのうどんか、生協前のカップヌードル自販機の2択だったものだ。
うどんの方は天ぷらも乗っていたし、何より毎朝食堂のおばちゃんが「刻みネギ」を補充してくれる。
味気ない自販機のうどんでも新鮮なネギがのっていると実にうまかった覚えがある。
部室に使っていた寮の部屋には、なぜかクリーム色のプラスティックのうどんの容器が20個ぐらい積まれていた。
何で捨てなかったんだろう。誰かが食器として使っていたのだろうか。

さて、このなつかしさを素通りはできず、全員車を降りて自販機に向かう。
せいうちくんと私はうどん、Gくんはそばを食べていた。
だが、ここにはネギを供給しに来るおばちゃんがいないらしく、両方ともネギ抜きだった。
ネギのあるなしでこれほど味が違うとは。

天ぷらがのっていたか天かすだったかを記憶をたどって言い合いをしながら山を下る。
前橋を過ぎて景色が開けてくると、なんと目の前に古墳があった。
低くゆるい弧を描く緑色の細長い物体は、確かに古墳だ。
「観音山古墳」というらしい。
慣れてるGくんは「こんなもん、あちこちにある」と言っていたが、仁徳天皇稜以外に古墳を見たことがないせいうちくんはものすごく興奮していた。
「やっぱり昔はこの辺まで海が来ていて、文明があったんだろうなぁ」と大感激。
「さいたまの大宮なんかも、昔は海沿いだったと聞く。海岸線は時代によってずいぶん違ってたんだんだなぁ」

興奮したまま古墳に向かって走り出し、登っていた。
古墳の上に立つのは初めての経験だっただろう。
Gくんのおかげでいいもの見たね。

そこからはもう一路我が家を目指す。
八王子でトイレ休憩のためだけに巨大スーパーに寄ったが、5日間あまり人に会わずに山道を走っていたい我々にとって、日曜の昼間に買い物に来る群衆は大変な人出に見えたよ。
ああ、また世間が休みじゃない時にのんびり車中泊の旅がしたいなぁ。

この記録は私の記憶がいい加減になってるせいで、Gくんから「場所が違う」「行った順番が無茶苦茶」とさんざんこき下ろされた不正確なものだが、もう書いてしまったのでそのままにしておく。

初めての車中泊はとても楽しく、「観光地を目指さない旅」をこれまで経験したことがないので非常に新鮮だった。
どこにでも見るべきものがあり、そしてどこにでも道の駅はある。
Gくんの親切な組み立てのおかげで風呂もたっぷり入れたし、緩下剤をのんでいる関係でトイレに大いに不安を感じていたのにほぼまったく苦労はなかった。
ちょっとでももよおしてきたら、たいていの場所に巨大スーパーか道の駅があり、そして日本の技術力の素晴らしさよ、ほぼ9割のトイレにウォシュレットがついていた。
ついてなかったのは山奥の道の駅ひとつと餃子食べに寄った「さつき餃子」だけだったと思う(後者はもしかしたら和式だった)。

車中で2人で寝る経験をさせてくれたり、初漫喫を体験させてくれたり、多少鬼軍曹ではあったがGくんの手ほどきは実に細かく行き届いていた。
何より、彼は機嫌が変わらない。
いつでも平常心で、うまくいかなくても怒らないしいい状況の時にも表情はさほど変わらない。
一緒に旅をする相手として、これ以上の人はいないだろう。
狭いバンの中で6日間過ごして、怒られたり機嫌悪くされたりしたことは一度もなかった。
彼の性質の、最も偉大な点であろう。

家に帰り、布団や荷物を降ろしてGくんとはお別れだ。
清算はのちにおこなったが、各自の食料品代はそれぞれで持つので、うちがGくんから請求されたのは1万4千円ぐらいだった。
我々の食事代や払ったガソリン代なども全部計算したら、6日間2人分で6万5千円ぐらい。(先ほどの1万4千円はそこに含まれる)
1人頭3万円強で6日間遊んで食べて歌って飲んで泊まって風呂入って、1100キロを走った。
それが1日1人5千円強で賄えてしまったのだ。
泊まるだけでも普通は1万円かかることを思うと、贅沢で豊かな旅だった。

ついで旅行中の食事について記しておこう。
我々は基本、寝る前に寄るスーパーか寝る場所の道の駅、また朝出発する時に昼ごはん分まで買っておくようなスタイル。
私はおにぎりやサンドイッチ、ネギトロ巻がほとんどで、旅の後半は後部座席で食べるポテチにハマってよく食べた。
せいうちくんは厚揚げに醬油の小瓶を買ってかけて食べたり、レタスを買って持参のマヨネーズかけてかじったり、わりと健康的な食生活。
Gくんは、いつも同じようなやり方だそうだが、食パンと刻みキャベツを買って、そこここでコロッケやメンチカツなどのお惣菜を買っては挟んでマヨネをかけ、「適当サンドイッチ」をメインとしていた。

最初に行ったスーパーで彼がマヨネーズを買おうとしていたので、
「Gくん、マヨネなら我々持ってきてるよ」と止めた。
家を出る時に残り野菜をスティックに切ってタッパーに入れ、旅の途中でつまもうとマヨネーズも持ってきていたのだ。
のちにGくんは、
「『マヨネあるよ』はわかるが、そのあと使う時に『賞味期限切れてるけどね』とあってしかるべきじゃないのか。もちろんわしは賞味期限なんて気にしないが、その流れにならなかったのが意外だった」と語っていた。それは失礼しました。

このように楽しく終わった車中泊の旅だが、「3人での軽バンの旅だけはもうごめんだ」とGくんが主張しているので、次は前部座席に3人並んで座れて後ろは常にベッドとしてスタンバイできるハイエースを借りてみようかと計画している。
我々だけで軽バンの旅も考えたが、まだまだ初心者で、師匠から完全な免許皆伝をいただいていない。要するに自分たちだけではおっかない。
あと1、2回はつきあってもらいたいものだ。
個人的には金沢方面とか行ってみたい。
いずれにせよせいうちくんが1カ月仕事をしなくて済むようになってからの話。
Gくんによれば1カ月の車中泊は、レンタカー会社の3千キロ以内というシバリにひっかかるのでなかなか難しいそうだ。
1日に100キロしか進めないわけだからね。普通に3、4時間も走ったら100キロ行っちゃうもん。

いずれにせよ、未来に大きな楽しみを残してくれた、素晴らしい体験だった。
何度でも言おう、Gくん、ありがとう!また一緒に行こうね!


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