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年中休業うつらうつら日記(2023年11月11日~11月17日)

23年11月11日

昼まで寝ていた。
せいうちくんは買い物に行ってくれて、私はずっとベッドにいた。
ありがたいことだ。

「仕掛人梅安2」を観るために1カ月の無料契約を始めたLeminoというサブスク、入ったのが10月13日だったが、「仕掛人梅安2」は11月1日からの配信だった。
それで無料期間の半分を無駄にしてしまったわけだが、梅安を無事に観終えて(いい映画だった!)、途中で例によって寝ていた私が全部を観てしまうまでに時間がかかったのと、せいうちくんが1からもう1回観たいと言い出して、そこで私がまた寝て…を繰り返していたら、都合4度ずつぐらい観てしまった。
「何回観てもいい。トヨエツの梅安と七之助の彦さんは若干BL寄りに描いている気がするが、2人の特別な絆を確認できる、いい作品だった」とせいうちくんはご満悦。


そこから、うっかり見つけた宮部みゆき原作の「名もなき毒」全11話を観始めてしまった。
これは原作としては「誰か Somebody」と「名もなき毒」を前半後半で通してやってしまうという大変なドラマだ。
これを観たら続編の「ペテロの葬列」も観ずにはいられない。
せいうちくんも、
「宮部みゆきってずいぶん面白いんだねぇ。先が読めないよ。キミが大好きなのもわかる」とかなりハマっている。


「大きなコンツェルンの会長の娘婿が広報室の仕事なんかしてると、知らない人があれこれインタビューに答えてから相手の正体を知って、『なにか会社の批判をしなかっただろうか』『会長の悪口言っちゃってないだろうか』って不安になるんだよ」とお風呂で熱心にネタバレして、ドラマ「名もなき毒」の最初のシーンを観ながら、
「ね?次長さんがびびってるでしょ?」と聞くと、「へ??」という反応。
よく聞いてみたら、彼はお風呂で私が話した内容を全部忘れていた。というか、聞いてなかった!
人間ここまで人の話を聞かずにいられるものだろうか。しっかりした相槌も打っていたというのに、
私が常時しゃべっているタイプだからって、あんまりだ~!

せいうちくんは私のことが大好きだと耳にタコができるぐらい毎日言っているが、その本心を疑う瞬間。
「あなたが大好きなのは私じゃなくて、私を大好きなあなた自身だけなんだよ。だから、私が何を話そうが、関係ないんだよ!」と怒ってしまった。

さてさて、実は40年以上続いているこの問題、いつかは解決するだろうか。
これに認知症による物忘れが加わったら、私はせいうちくんと暮らせなくなるのか、いっそあきらめがつくのか。

さあ、「ペテロの葬列」視聴開始。


23年11月12日

「ペテロの葬列」を観続けている。
明日の夜いっぱいを使っても観終わらないだろうから、サブスクの無料期間を越えてしまう。
せいうちくんは、
「いいよ、ひと月分ぐらい」と言う。
実際、アマプラとかで観ると1話330円かかるので、あと10話も残っているんだからサブスクに払っちゃうほうがお得。
長老やGくんは「それがサブスクの罠だ」と言うだろうが。

夢中でドラマを観ている間に、Yちゃんの招集で臨時のZOOM飲み会が開かれているらしい。
観終わったら入ろうと思っていて、11時頃、せいうちくんがもう今日はここまででいいやと言ったので入ったが、誰もいなかった。
ZOOMメッセンジャーグループに「誰もいない」と書いたら、それを見たSくんが「入りましょうか?」と言ってくれて、2人で始めたらすぐにYちゃんも戻ってきたし、Gくんも来た。

「ブックオフで110円の棚から取ったつもりが、いつの間にかそこをはみ出しており、レジで「530円」とか打たれるのを見て「あっ!」とは思うものの、「それ、やめておきます」とは言えない、と話したら、当然「なにゆえ?」と聞かれる。
「恥ずかしい」と答えると、本屋のSくんに「本を定価で買っていない時点で、もうアウトです!」と厳しく言われる。
話は値引き問題に移り、30%引きのシールが貼ってあるものを買おうとして横で同じものに50%引きのシールを貼る作業をしている店員さんがいたら、「これも大丈夫ですか?」と聞けると豪語するYちゃんと、カゴにいったん入れたものを引っ込めることは、たとえレジで自分の間違いに気づいても絶対にできん、と主張するGくんの間で論戦が展開されていた。
謝ることと間違いを認めることが大嫌いなGくんらしい話だ。

そのあとは夫に帯同しての開発途上国への赴任経験豊富なYちゃんの「値切ることが前提の値段設定」経験談と、Gくんの「値切るのが大の苦手で、だから中古のハイエースも全然買いに行く気にならないのだ」という話に発展し、
「今度、せいうちくんとレンタカーでさいたまに行くから、一緒に中古車屋を回ろう!」と私は叫んだ。

12時になって私が抜けたあと、夕食中で抜けていた長老が戻ったらしいが早寝しようと入らずにいたら、結局Gくんと長老の2人で明け方までやっていたらしい。
酔っ払いとのZOOMは怖い怖い。寝ちゃって正解。
前は私も明け方まで下ネタで大笑いできたんだが、最近のこの眠気と疲れは何だろう。
どうもコロナ罹患以来な気がするぞ。

23年11月13日

今夜もずっと「ペテロの葬列」を観ていた。
私は原作を何度も読んでいるし、ドラマも観たことがあるのでどうなるかだいたい知っているのだが、何も知らない視聴者せいうちくんはかなり夢中だ。
「どうなるのか全然わからない。宮部みゆきがこんなに達者だとは」と驚いているようだった。


カルロ・ゼン×東條チカの「幼女戦記」をオトナ買いして読み始めた。
来週うちでやるせいうちくんの代のまんがくらぶ同期会のためにずいぶん会ってない人たちに連絡を取っていたら、「最近は幼女戦記を読んでいます」と言う人がいたからだ。
タイトルから「ロり物?」と思って全然読もうとしたことがないんだが、どうやら魔力と帝国と軍服の世界らしい。
「術式展開!」って、「呪術廻戦」かい。
自炊した分から読み始めているが、なかなか面白い。

「幼女戦記、オトナ買いしました!」とメールで報告したら、当該人物からはなぜか「申し訳ないです」と返事が来た。
駄作を進めたと思ってるのかな?
早いとこ最新巻まで読んで、「面白いよ!」と伝えたい。
彼は遠方なので直接参加はしないが、せいうちくんが同期会当日にZOOMで参加可能な時間帯を設けるつもりのようなので、顔を見て挨拶できるかもしれない。

23年11月14日

やっと「ペテロの葬列」を全11話観終わった。
昨日のうちに終われていたらサブスクにひと月分の会費を払わないで済んだんだが、梅安2作と宮部みゆき2作(ドラマにして22話)を観られたので、安いものだ。
せいうちくんは大満足なようで、これはそのうち宮部みゆきを読み始めるかもしれない。
作品数が多いので大変だよ。
時代物にするのかファンタジー系にするのか正統にミステリで行くのか。
「杉村三郎シリーズ」の続きを読むのがいちばんおススメかな。
「希望荘」とあと2冊もあるよ。

明日の晩、息子が泊まりに来てくれる。
「何食べたい?」と聞いたら元気よく「カレー食べたい!」。
タンドリーチキンも漬けてあると言ったらどうなるかな。

最近、私の調子が良くないので、「顔見せにきて」と頼んだら、「はーい。お疲れ系かな?」と返ってきた。
うん、まさにお疲れ系だ。
息子たちの結婚式やらせいうちくんの同期会やらが一気にくるその背後から、年末という大きな波が押し寄せつつある。
例年、とてもくたびれる季節だ。
新しい年がやってくると思うからやっとなんとかガマンもできる、師走前の早くも先生が助走に入るこの時期を、頑張って乗り越えよう。
ホンモノの師走の忙しさはこれぐらいじゃすまないのだから。

23年11月15日

結婚式の前に見栄えを良くしておこうと歯のクリーニングを歯医者にお願いする。
待合室のTVで宝塚で自殺者が出た問題をワイドショーでやっているのを見た。
学生時代からずっと宝塚に関わりたくて阪急電鉄に入った知人が頭を下げていた。
気の毒で気の毒で仕方なかった。
くわしくは知らないニュースなので何もコメントできないが、宝塚と言えば鉄の規律の体育会系、いじめやパワハラに発展することもあるだろう。
団に対する忠誠心や誇りの在り方も昔とは違うのかもしれない。
いずれにせよ、彼にとっては思いがけない交通事故のようなもので、本当に不運としか言いようがない。

会社にいた年数が短かったので、セクハラ、パワハラにあった覚えはない。
と言うか、そういう言葉がまだなかった。
女性ばかりの部署にいた時はこちらの態度が悪すぎて「いじめ」にあった、というよりあきれられていただけだった気がする。
最初に入った部署で英文ワープロの前で腕を組んで文案を考えていたら、男性係長から「女のくせに、腕組みなんかするな!」と叱られた、あれは今ならばっちりセクハラだろう。(今でも彼のフルネームが忘れられないぐらいムカついた)
いやはや、社会というものは大変で、そこから守られてずっと暮らしてこられた自分の運の良さとせいうちくんへの感謝の念がこみ上げてくる。

今日は息子が泊まりに来てくれるので、せいうちくんがカレーを仕込んでいる。
「何食べたい?」と聞いたら瞬時に「カレーお願い!」と返ってきたのだ。
特に電子圧力鍋を使うようになってから、うちのカレーは美味しいらしい。
高校の頃は、家に泊まりに来た友人たちに「せいうち家のカレー、じゃがいもでかい!」と驚かれて、「手抜きなんだよ」と生意気なことを言っていたが、今のカレーにはじゃがいもは入れていない。
鶏もも肉とにんじんと大量の玉ねぎが入っているだけ。
じゃがいもの皮むきはカレーの一番面倒なプロセスなので、ぐっと楽になったのは事実。

仕事明け、20時頃に来ると言う息子。
アルバイトとは言え、そんな定時に働いているのかと何やらほっとする。
これまで来るって言うと深夜だったから。
今でも週末は下北沢のステージに立っているので帰りは終電になるらしいが、平日は早く帰って妻と語らう時間も持てるだろう。

昨日まで観ていた宮部みゆき原作の「ペテロの葬列」で最後にせいうちくんが「ええっ、離婚しちゃうの!?」と驚く結末だが、夫婦の間で会話が少なすぎると感じて観ていたものだ。
息子もよく「Mちゃんとはよく話し合っているよ。お互いの気持ちはわかっている」と言うんだけど、Mちゃんに聞いてみると「あまり話す時間が取れなくて…」てなこともあるから、十分気をつけてもらいたい。

その息子は勤め先の学童から歩いてきたようで、約束の20時を40分まわってやってきた。
そことの間は近いようでいて電車の連絡が悪く、乗り換えに次ぐ乗り換えになるので気分転換にずっと歩いてみたらしい。
早く会いたい私としてはぐっとこらえる場面だ。
前に住んでいたマンションの近くを通って来たらしく、わざわざ少し回り道をして幼なじみの家の前とか通ってきたそうだ。
「ああ、しゅうの家だなぁ、いるかなぁ、って訪ねて行きそうになった」と言うので、
「ピンポンしてみればよかったじゃない。いたかもよ」と答えると、
「まあ、来週結婚式で会えるしね。もう遅い時間だし」って言ってもまだ20時過ぎなんだから、それほど非常識に遅いわけじゃない。
「しゅうのママとは今度保育園の同窓飲み会で会うよ」と言ったら「それはよかった!」と喜んでいた。
うん、やはり結婚式をしたばかりのりょうたの母と、結婚式の話で盛り上がるだろう。
りょうたの結婚式には息子もしゅうくんも呼ばれたし、今度はその2人も息子の結婚式でまた会うはずだから。

「寒かった~」と上着を脱ぐ息子に「お風呂入る?」と聞くと、
「カレーの匂いがする。とにかくカレー食べたい」とどんどんお皿によそって食べ始める。
食卓の向かい側にせいうちくんと並んで座って、いろいろ話をした。

「結婚式の準備は進んでる?」
「うん、もうね、毎日Mちゃんがいとおしくて仕方ないんだ。その気持ちがどんどんつのってくる」
「それ、Mちゃんにちゃんと言ってあげてる?」
「うん、毎日言ってる」
「Gくんあたりが聞いたら、『あんたんちは気持ち悪いんだよ!そんなこと思う息子も気持ち悪いし、それを親にしれっというあたりがまた気持ち悪い!』って叱られそうだなぁ」
「それはGさんの考えだから、自由だよ」てな話。

「でも苦手分野もあるよ。掃除用具の置き方とかさ、なんべん言われてもちゃんとできない。そういう事柄は『履修中です』って言ってるんだけど、なかなか履修が進まなくてね」
「あなた、それは履修届を出しただけで授業にちゃんと出てない状態なんじゃないの?お父さんもすごくよくある。なんべん言っても聞いてくれない。そうした方がいい理由を説明して『わかった』って言ってるけど、忘れる。人間、理解したことってきちんとできるもんじゃないの?」
「僕はお父さんに似てるんだなぁ」
「あんまり続くと、人はキレるよ。Mちゃん溜め込みそうだから、気をつけてあげてね」
「僕は押さえるところはきちんと押さえるタイプだから、大丈夫」
「何年か経って、Mちゃんがあなたに愛想をつかして離婚届を突きつけられた時に、あなたがそう言ってたってことを思い出させてあげるよ」
「ぜひお願いします」

せいうちくんはずっと横で、
「僕にそっくりだ。僕の血だ。呪われたように僕の血統だ」と頭を抱えてうめいていた。

こないだお風呂でずっとしていたドラマの話を、上がって観始めて「ほら、ここんとこの話、下でしょ?」と聞いたら、内容どころか聞いたという事実すら覚えていなかった件を憤懣たっぷりに息子に語ったら、ひとこと、
「もう60歳なんだからさぁ」ですまされた。
せいうちくんは頭を抱えたまま、うめき声のトーンが少し変わった。
血統的に必ずやってくる認知症の日々は、避けられないとわかっていても彼にとって不安と恐怖のタネであるらしい。
私は身内がほとんどがんで早死にしているので、そこの心配はするが、認知症になるほど長生きした例がむしろない。
夫婦で、将来の心配はそれぞれ別のことだ。
私の心配は死に方や時期ではなく、それまでにたっぷり遊べるかどうかだからなぁ。

結婚指輪の交換をするかどうか聞いてみたら、
「考えもしなかった。すっかり頭から抜け落ちていた。他のことが忙しすぎて」と言うから、
「こないだ会った時、Mちゃんは『指輪交換は儀式としてとてもいいですね。安いのでいいから指輪を用意したいです』って言ってたよ。あなたのその『僕らはよく話し合って、分かり合っているから』ってのは怪しいし、傲慢じゃないかな。Mちゃん的にはじきに『この人は言っても無駄』って思っちゃうよ」
「大丈夫だよ~」
結婚式を前にした男というのはこれほど鈍感で根拠のない自信に満ちているものなのだろうか。

「そうだ、おばあちゃん(せいうちくん方)からLINEの申し込みがあった。受けたら、『結婚おめでとう』って書いてきた。アメリカのおばちゃん(せいうちくんの従姉)のとこにお父さんの妹さんの娘のRちゃん(つまり息子の従妹)が遊びに行ってる時、おばちゃんから『親族がややこしくなってるのは知ってるけど、あなたの結婚の話、Rちゃんにしていい?』って聞かれて、『いいよ』って返事したんだ。隠すようなことじゃないからね。それでもおばあちゃんからLINEが来た時は、Rちゃんにかる~く、『言いやがったな!』って思ったけどね」
「まあ、お祝いを言ってくれたんだから、いいじゃない。もしお祝い金が来たら、LINEでお礼を言って受け取っておけばいいよ」
せいうちくん「接触には気をつけてね。特にMちゃんに嫌な思いをさせないように。すごく偏見の強い人だし、もう年寄りだから大丈夫だと思うけど、昔はどこにでも勝手に行ってしまって勝手に話を聞いてきちゃってたんだよ。僕らの結婚式の会場に行って『お料理のランクが低い。差額は出してあげるから、ランクを上げなさい』って指示してきたりね。父さんが今でも許せないのは、娘ちゃんが生まれた時に、両親である僕らより先に主治医のところに行って、障害が残るかもしれないって話を全部聞き出しちゃったんだよね。しかもそれを僕らには言わずに、名古屋のおじいちゃんに文句言う電話をかけた。彼女の中では今では『向こうから文句の電話が来た』ってことになってるけど」
息子「それはひどい。許す必要なし。医者もひどいけどね」
せいうちくん「だからさ、Mちゃんのお母さんが義絶している状態の、亡くなったお父さんの実家にまで連絡しようとしたりすると厄介なんだよ」
息子「十分気をつけるよ」

途中で生卵を落として混ぜたカレー(「久住さんの『ダンドリくん』を読んで以来、ハマっちゃって」)を食べ終え、リビング部分に席を移して話は続く。
ハンコックの「神々の指紋」はもう流行らないのだと思い知り、それでも地軸90度傾く説を息子に解き、エジプトもさいたまも昔は海辺だった、浦和って名前がもう水辺だし、スフィンクスには明らかに下の方に水の浸食による横線が何本も入っている、といったせいうちくんの大好きなトンデモ話を、息子も意外と好きなようだ。
話が彼らの結婚式に戻ってくるまでずいぶんかかった。

夫婦で式に来てくれる従兄が私のように母と、それに加えて祖母(つまり私の母)からの様々な圧力を受けて波瀾万丈の少年時代を送り、今は東京で暮らしているが精神的に不安定な件について、彼の受けた特に「教育虐待」についてひとさらい話すと、息子にとってはまとまった形で頭に入っていなくて、「そうだったんだ!」と驚く点が多々あったらしい。

「僕も、彼を見捨てて逃げ出したことが1回あるんだよね。名古屋のおばあちゃんちに1人で行った、あれは高校時代かな。なんかですごく雰囲気が悪くなって、おばちゃんとおばあちゃんがものすごく彼を攻撃するんだよ。特におばあちゃんがすごかった。30分以上ずーっと怒鳴ってた。僕はもう、気分が悪くなって一刻もそこにいたくなくて、お母さんたちに電話して『助けて!こんなとこ、いられない。ものすごく空気が悪いんだよ』って訴えたんだよね」
「ああ、あったね。2、3泊して下呂温泉にみんなで行く予定にしてたところを、お姉ちゃんに『高校の部活にどうしても出なきゃいけなくなったから、今から帰してやって』ってお願いしたんだよね。すっかり予定を組んでいたお姉ちゃんは、『どんな「やんごとなき」用事か知らないけど』って怒ってたよ。当然と言えば当然で、失礼なことをしたとは思うけど、『お姉ちゃん、そこは「よんどころない」用事だよ』って内心で思ってた。あの人、本を読まないからね」
「今思えば、あの時おばあちゃんたちに『彼を責めるの、やめてあげて』って言うべきだったんだよ。でもとにかくそこから逃げ出したくて、彼をほったらかして逃げちゃった」
「そういうことはお母さんたちにもあるよ。中学生ぐらいの彼が車の中でおばあちゃんと大ゲンカして、『おばあちゃんは横暴だ!僕だって言う権利がある!人権侵害だ!』って幼い理屈を一生懸命訴えている時に、『ママ、もうやめたげて。ママの方が間違ってるよ』って言えなくて、後部座席で2人して震え上がってた。そもそもうちは大声を上げたり子供がいるところで大ゲンカするようなことがなかったでしょ?」
「うん。なかったね。お母さんは怒鳴る人じゃないし」
「ま、つまりお母さんが育った環境ってのがそういうところだったわけよ。そこで徹底的にお姉ちゃんと比較されて、無視されて、見下げられた。だから母さんは生きてて楽しいって思えない病気に罹っちゃったんだよ」

と、せいうちくんが口をはさむ。
「でも、お母さんはそれでもまだ、おばあちゃんが大好きで、おばあちゃんに愛されたいってかなわない夢を捨てられないんだよ」

私の頬を涙がつーっと流れ、息子はびっくりした顔になっていた。
「そうなの?!それは初めて聞いた。あんなおばあちゃんを、大好きなの?」
「うん、そうなんだよ。死んじゃっていなくなって、たとえ生きてても無理な願いだってわかってても、『ママ、うさこだけを見て。うさこが世界で一番好きって言って』って願っちゃうんだよ。結婚以来30年以上、なんべん父さんにしがみついて泣いたかわからない。『ママ、ママ』って」
「そうなんだ…」
「母さんが、おばあちゃんのこと憎んでるだけだと思ってた?」
「うん、そんな扱いを受けたら大嫌いだろうなって思ってた。嫌いな人に心の底を支配されてて、苦しいんだろうなって」
せいうちくん「大好きをやめられないから、苦しんでるんだよ。父さんは自分の母親についてどうしようもないってあきらめてるけど、母さんはあきらめ切れないんだよ」

息子はまっすぐに私を見た。
「美しい。こんなに美しいものを、僕は見たことがない。本当に美しい気持ちだ。お母さんは、なんて心の美しい人なんだろう」
せいうちくん「純粋な人なんだよ。ちょっと他にはいないぐらい、無垢で、純粋な人なんだ」
泣きながらも、「よせやぁい」って気分になったね。嬉しいけど。
「子供だってだけだよ」
せいうちくん「その子供の心を保ったまま、クリアな大人の頭も持ってるんだから、君のお母さんは大した人なんだよ」
息子「本当だね。すごいよ」
なんか今日はものすごくほめられてしまった。

そのあとはノートPCに移しておいた「我々の結婚式」での友人たちのスピーチを見せた。
「Nさんだ。若いねー。細いし。昔っから話すのうまかったんだねー」
4人分見てもらったが、うち2人が物故者であることにいまさらながら年月が経ったことを思う。
息子「なるほどね。スピーチってこんな感じなんだ」
せいうちくん「会社の人とか、年長の人をほとんど呼ばなかったから、全体に短いよ。エライ人や年長の人のスピーチは長いことが多い」
「僕らの式にもスピーチ頼もうかな」
「しゅうくん、来るんでしょ?彼、大学時代、ジャグリングやってたじゃない。やってくんないの?母さん、昔っからあなたの結婚式にしゅうくんが出席してジャグリングを披露してくれるの、夢だったんだよ」
「頼んでみようかな」とスマホを手に取る息子に、
「今はやってないんだったら、残り10日じゃキツイよ。母さんたちだって何カ月も前からギターとフルートの練習してるんだよ」
「んー、そうだね。明日、聞くだけ聞いてみるよ」

そのへんでビール1杯飲み終えた息子は風呂に入りに行き、しばらくして解散、それぞれ就寝した。
私はいろいろ話した興奮ですっかり頭から湯気を吹いており、せいうちくんに「頭がすごく熱い」と笑われた。
息子が来るといつも興奮しすぎちゃうんだ。
安定剤を多めにのんで、寝よう寝よう。

23年11月16日

結局4時まで宮部みゆきの「ペテロの葬列」を読み返していた私は9時に起き、せいうちくんはすでにテレワークに入っており、息子はリクエスト通り10時に起こしたが、久々の「あと10分」のリフレインを聞くことになった。

10時半近くなってやっと目を覚まし、シャワーを浴びてカレーを食べたあとは元気に帰って行った。
また歩いて職場に行くんだろう。
「なつかしいあたりをさまよってみるよ」と言う彼に、せいうちくんは、
「さまよわないで、もうちょっといなよ」と頼んでいたが、「やだよ~」と一蹴された。
まったく、宮藤官九郎がエッセイに書いていた通り、「よく実家に行きたくなる。でも5分で帰りたくなって、帰っちゃう。だけどまたすぐ行く」ってな場所なんだろう、実家ってのは。

面白かったのは息子ががちょうど今、図書館から借りた「ペテロの葬列」を読んでいると聞いたこと。
「偶然だね!母さんたちがドラマ観たばっかりなのに!母さんは昨日の夜、それ読み返してたよ。『杉村三郎シリーズ』には前も後もあるって知ってる?」
「え、彼は、これの前にも何か活躍するの?」
「『誰か Somebody』で始まって、『名もなき毒』があって、それで『ペテロの葬列』だよ。そのあとに『希望荘』とあと2冊あるよ」
「そうかー、じゃあ先にそっちを読もうかな」
「電子で読むの、イヤでなければ、母さんの電子本棚にどれもあるよ。宮部みゆきと東野圭吾は、たぶん全部そろってると思う。図書館になかった場合とか、見てみて」
「電子で全然かまわないよ。読ませてもらうね」
うーん、シンクロニシティ。

言いながらコーヒーのペットボトルを1本所望して、手に持ったまま彼は帰った。
歩きながら常温のブラックコーヒーを飲むんだろう。
せいうちくんは仕事に戻り、私はなんだか悲しくなって薬をのんで寝た。


夕方、仕事の終わったせいうちくんと恒例の「今日は何を観ようか」会議。
いやいや、とにかく「大奥」でしょう。火曜日から録画したままだよ。
それで「安部正弘~」ってたっぷり泣いたあと、同じよしながふみ原作の「昨日何食べた?」を観て、たまたま録画した金田一耕助シリーズの「神隠し真珠郎」を観たら、2時間サスペンスのあまりのできの悪さに大いに悲しんだ。
「他の金田一シリーズと全然違うじゃん!」
「古谷一行も年取りすぎたかな」


こういう時は景気をつけて寝ないと熟睡できないと思い、貯めてて未視聴の「パリピ孔明」を1話観る。
マンガの方はイマイチだと思ったが、向井理の演じる孔明は何やらとても名参謀っぽく、森山未來の三国志オタク店長も非常にいい味だ。
今後、孔明にプロデュースされるであろう歌手の女の子がちょっと素人っぽすぎるけど、ここから化けるのか、あるいは彼女の「素」を売って行く孔明の手腕の見せ所なのか。
せいうちくんは、
「寝る前にとってもいい気分になれた!これからも観るのが楽しみだ。いつもいろいろ録画しておいてくれてありがとう!」と盛大に感謝して、寝た。
孔明が謀を巡らせたりして頭を使うと、巨大な帽子から湯気が出てくる表現が、私の頭がくるくる回っている時に非常な熱を発して陽炎が立つかと思える現象とそっくりなのが気に入ったそうだ。


原作マンガの「パリピ孔明」最新巻まで買ってはあるが2巻ぐらいでほったらかしてた。
今から読み直すべきか、それともドラマを観終わるまで封印か…これは、封印だな。
今はとりかかってる「幼女戦記」を読もう。

週末にうちでやるせいうちくんの同期会、出席者からワインが先に届いていたりするし、タンドリーチキンは漬けてある。
明日の夜からハヤシライスとローストポークの仕込みに入って、土曜のお客さんを待とう。
楽しみだなぁ。
でも、私は同期ではなく、まして同大学ですらないのだから、主催者の妻としておとなしくしていなくっちゃ。

23年11月17日

昨日、気になってMちゃんに指輪の件をLINEで聞いたら、「忙しくて後回しになっていたけど、私も指輪のことはずっと気になっていました」と返事をもらった。
ネームや日付の刻印を考えると時間的にはギリギリなので、息子に思いっきりはっぱをかけるように勧め、なんなら刻印はあとからでも、と提案する。
せいうちくんから、
「あんまり干渉すると嫌われちゃうよ」とやんわり注意を受けたが、「プライベート過ぎない?」と彼に止められそうになった「顔パック30枚セット」、式の1カ月前にAmazonから送り、「お肌の調子を整えるだけでなく、お風呂上りや寝る前にゆったりした時間をとってください」とLINEしておいたものが、息子によれば「めっちゃ使ってる。すごく喜んでた」という結果になったりするので、様子は見つつ、好意と関心は伝えたい。

カルロ・ゼン×東條チカ「幼女戦記」はかなり面白い。
最初に「幼女が戦争に参加している」ことへの嫌悪感やこだわりを捨てさせる一手が打ってあるところがにくい。
「術式展開!」と叫ぶのが「呪術廻戦」みたいだ、とZOOMでSくんに語ったら、
「幼女が戦力になってるところでもう、魔力は不可避でしょう」と綺麗に説明された。ごもっとも。

今夜はパーティの仕込みが終わったら「パリピ孔明」の続きを観よう。
もちろん毎晩必ずやっている中島みゆき「糸」の合同練習も。(これは19時ごろまでには終わらないと近所迷惑になると思ってるので、急ぐ)
明日が楽しい同期会になりますように!

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