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息子が"私のお腹"を選んだ理由

「ぼくは宇宙からきてんで。」

夜ごはんを食べていると、息子が唐突にそう言った。


息子がうまれる少し前に「かみさまは小学5年生」という本を本屋で立ち読みして以来、「胎内記憶」や「生まれる前はどこにいたのか」などにすごく興味があるので、そういう話は大好物な私。

作者のすみれちゃんがウソをついてるなんて到底思えないし、作り話にしては壮大すぎるし、ウソか本当かは置いておいたとしても、「本当に生まれる前の世界がそんな感じならいいな」と思ったので、私はその世界観を信じている。




"もしかしたら、息子も生まれる前の記憶を持っているのかもしれない。"




鼻の穴がふくらみそうなくらいに興奮しはじめる気持ちをおさえて、冷静に、何食わぬ顔で、「そんなの当たり前だけど?」みたいな調子で、私は息子に言葉を返した。



「そうなんや。りんりんは、宇宙にいるときは何してたの?」

「パパとママがいたよ。やさしかったし、楽しかったよ。」


ほほう。宇宙でもパパとママがいたのか!



「なんで母ちゃんのところに生まれてきたの?」

「母ちゃん、さみしそうだったからさ。」

「え!?母ちゃんさみしそうだった?父ちゃんもいたし、バーバとジージもいたし、友達もいたけどな。」

「そのときは、父ちゃんはまだいなかったよ。母ちゃん一人ぼっちに見えたよ。」


父ちゃんと出会う前から、私のところに生まれてこようと思っていたのか!?父ちゃんとは出会って3年で結婚したから、少なくとも4年くらいは生まれるのを待っていたということかしら。そして私は、一人ぼっちに見えたのか。



「どうやって母ちゃんのお腹の中に来たの?」

「ビューン!ってお腹の中に入ったよ。」


息子は左手の親指と人差し指でマルを作って、頭の上からお腹の方へと勢いよく振り下ろした。おおよそ「かみさまは小学5年生」の本に描かれていた世界観と同じでドキドキした。




次は何を聞こう?何を聞こう?

聞きたいことがありすぎて、そのあとの言葉がつまってしまった。

その沈黙を破るようにして、息子がハッとした顔で私に言った。


「あ!これは作り話やったわ!」

「え?そうなの?りんりんが作ったお話?」

「そうそう!」


作り話なんだと言われたら、もうこれ以上聞けることはない。そのあと息子はのりたまをかけた白ご飯をパクパクと食べて「ごちそうさま!」と言って食卓を離れていった。



なーんだ。作り話だったのか。


ちょっとずつ胸のドキドキがおさまってくるのを感じながら、夜ごはんの後かたづけをした。

でも私の頭の中はすっかり「生まれる前の世界」のことで満たされてしまっていた。


5歳の息子が、6年前まで居た場所。
33歳の私が、34年前まで居た場所。


その高い高い場所から、「どのお母さんのところに生まれようか」と選んで、私は母のお腹を選び、息子は私のお腹を選んで生まれてきたのだとしたら。

偶然なのか、必然なのか。
たまたまなのか、意味があるのか。

私じゃなきゃいけなかったのか、
私じゃなくてもよかったのか。


そんなことは、いくら考えても答えなんてわからないけれど。


今いる場所から、家の屋根をぬけて、夜空を抜けて、地球を抜けて宇宙まで、私の意識が広がっていく。

なんだかフワフワと心地がよかった。


何が本当か、何が作り話かなんて、
どうでもいいのだ。


息子が宇宙から地球を見下ろしていると、さみしそうな私がいた。だから息子は私のところに来てくれて、今私の心を温めてくれている。


息子の作り話が、私の胸に刻まれた。

そしてその作り話が、また私の心を温める。

それでいい。




また別の日。

息子と家に帰り、お風呂に入って、夜ごはんを作ろうとすると、息子が「お手伝いするー!」と言い出した。


「今日はおそくなっちゃったから、母ちゃんがササッと準備するわ。また時間のある日に手伝って!」

そう答えると、息子は不服そうな顔で反撃してきた。



「ぼく、母ちゃんを手伝うために生まれてきたのに!!そんなのひどいよ!!」





そんなこと言われたら、もうどんなにおそくなってもいいから手伝ってもらおうと思ってしまった。



上機嫌でトマトを切る息子。

私はその横で野菜とお肉を炒める。

頭の中はまたもちろん、キッチンの天井を抜けて、夜空を抜けて、地球を抜けて宇宙へ。


息子がどうして私のところに生まれてきたかの物語に思いを馳せる。

息子は私を手伝うために生まれてきたのかもしれない、と。




私はこれからも毎日毎日、息子と過ごす。
私はこれからも毎日毎日、息子と言葉を交わす。

息子が私のお腹を選んだ理由が、その1日1日を積み重ねるごとに、どんどん濃ゆく深くなっていく。色鮮やかに広がっていく。


しょせん作り話でしかないその理由たちが、いろいろある現実を乗り越えていく"力"をくれているような気がしてならない。

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