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#72 技術の進歩で生まれたはずのゆとりが…デッドラインフル活用

テレビ局の報道は、毎日毎日締め切りに追われています。朝のニュース、昼のニュース、夕方のニュース、そして夜のニュースがあります。

もちろん放送する時間ギリギリ、たとえばお昼のニュースが始まる午前11時30分に原稿が来たような状態では、アナウンサーが下読みする時間がありませんので、基本的にはどんなに追い込んでも五分前までには原稿を用意している状態になります。

そして原稿ができただけでは駄目なんですね。原稿が出来上がると、紙に印刷されます。それを二重三重にわたり、チェックする人がいます。例えば時制が昨日のニュースのままになっていないか、漢字の読みは合っているか。日本の場合「にほん」なのか「にっぽん」なのか。これよく迷うんですよね。会社によって決まっています。そういうチェックを経て、アナウンサーの手元にわたります。またその原稿を参考にテロップを書いたりもするので、5分前でかなりギリギリなんです。10分前に揃っているのが理想。そういう世界です。

僕が入社したのは今から22年前。LINEはありませんでした。原稿は、現場で書いたものをメールで送るのですが、まだスマホはなかったので、携帯を見ながら中継する、という発想がなかったんですね。携帯に対する信頼度もそこまで高くありませんでした。バグったり、スクロールできなくなった瞬間にもう終わりますから。

紙に書き写すか印刷するか、もしくは中継車にFAXがついてるのでそのFAXで送ってもらうか、そういった方法をとっていました。

今、もう皆さんご存知の通り、テレビを見ているとみんなスマホを見て中継しています。古い世代の僕からすると、やっぱり不安なんですよね。電源落ちたらどうしよう、とか。

ただ原稿はLINEでぱぱっと送ることができるようになりました。そして本社チェック後の完成した原稿も、同じようにして受け取ります。映像もスマホで撮ったものを直接本社に送り、そしてそれを編集にかけて放送する。

昔はテープでしたので、テープの映像をどこか伝送設備を使って送らなければいけません。東京都内ですと、例えば永田町に送る設備がります。新宿支局からも送れます。そうした都内に何ヶ所かあるところに、いかに早くテープを持ち込むか。自分で持ち込んだ方が早いのか、それともバイク便に頼むのか。そんなことをしていたんですけれども、今ではもうその場でネット回線を使って送ることができますので、仕事をする環境は飛躍的に確実に良くなってるんですね。

ここまで技術が進歩すると、締め切りに対するゆとりが僕は生まれるんじゃないかと思ってたんですね。
すなわち、今までつまり昔ですね、20年ぐらい前のときは原稿をメールで送って受け取ったものを紙に書き写す時間が必要でした。FAXを受け取るにしても、時間がかかります。だからかなり前もって送るんですね。

今はもうネットさえ繋がればどうにでもなるので、ギリギリまで取材できるわけです。そうなると時間的にゆとりができるんじゃないか、と思ったのですが、ここまで技術が進歩しても、やっぱり追い込むんですね。

放送時間のそのデッドラインギリギリまで作業をする。映像もギリギリまで撮影する。原稿も本当に直前になって中継原稿が記者の手元に渡ってくる。20年前と全く変わってないわけです。

締め切りギリギリは最良のものを出すため

つまりみんなこのデッドライン、締め切りに向かって最良のものを出そうと努力していくわけです。だから技術が進歩して、ハード面でそういった不便さがカバーされたとしても、それによって生まれたゆとりの時間は同じく作業の時間に充てられるわけですね。

だから、人間の心理って不思議だなと思うんです。時間にゆとりができたら、その時間を使い果たしてブラッシュアップさせてしまう。だからよりいいものが生まれていくとは思うんですけれども。なので、テレビ業界の考えからするとこの締め切りにむかってのギリギリの時間は、より良いものを出すため、そして追い込めば追い込むほどいいものを作っていこうとする、そういう性質のものなんですよね。

だからかどうかわかりませんけれども、僕の場合はもう本当に追い込まれないとひらめかないんですよね。

中継なども、例えば現場に着いてから、いろいろ思いつくわけです。事前にいろいろ用意してたとしても、現場に着いてから、そして中継時間が差し迫ってくるに従って、脳みそがフル回転してひらめくんですよね。なので、締め切りに対しての考え方というのは、ゆとりを持ってやるってことはできません。おそらくこれはもう死ぬまでそういった生き方はできないんじゃないかなと思っています。

ただし、ここで一番重要なものはそれをサポートしてくれる仲間が大切だということです。自分1人で中継してるわけではありません。

僕の思い付き、その場での突然の思いつきに対してのカメラワークをカメラマンも考えるわけです。本社側もですね、当然それに振り回されることになります。そのようなチームワークによって皆様の目にお届けする形になっているんですね。

なので、締め切り間際のそうしたひらめきや発想、私達の場合はチームワークがあってこそ。理想の仲間によるチームワーク、そのおかげで実現しているとも言えます。

(voicy 2022年8月28日配信)


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