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組織でどう生きるか:『はじめての経営組織論』(有斐閣、2019) ブックレビュー#5

我々は、生まれたときから「組織」と共に生きている。

生まれて間もないころは家庭という組織に守られて。
保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学といった教育機関で社会の構成員になるための手ほどきを受ける。教育機関も組織である。
そして、教育機関を離れ、会社などの営利団体その他の組織に属して生計を立てる。あるいは、家庭という組織の運営メンバーになる。

「組織」における自らの立ち位置や組織構成員との関係性、組織間の問題など、我々は、組織にまつわる悩みを多く抱えている。

組織にまつわる悩みを解決し、あるいは、組織と個人との妥協点を見出すためには、「組織」を知らなければならない。

ところが、「組織」というものを体系的に学ぶ機会を経ずに、組織の構成員として日々を過ごしている人が多いのではないだろうか。

本書は、「組織」を学ぶ最初の一歩に寄り添ってくれる。

経営学での学説の対立などを書き連ねるのではなく、我々の周りで起こる「組織にまつわる悩み」を解決するための糸口、思考の大枠を提供してくれる。
「経営組織論」というタイトルからすると、専らビジネス上の話のようにも感じられるが、「経営」を「運営」と置き換えれば、どんな組織にとっても示唆がある。組織の運営に全く関与していない人というのはほぼ存在しないといっていいからだ。

家庭の問題が複雑なのは、それが極めて濃い繋がりで感情と不可分だからだ。また、他の組織と異なり、自ら関係を断つということが極めて難しい。
家庭も一つの「組織」であるという視点を持つと、感情に一定の折り合いがつけられるかもしれない。

会社の問題も同様に複雑なのは、個人の生活と不可分だからだ。昨今では、個人で副業をするということも一般化しているが、その名のとおり「『副』業」であり、主たる業務(=会社という組織に属した上での業務)の存在が前提であり、多くの場合、主たる業務が当該個人の日々の家計を支えている。また、会社においては、個人が日常的に多くの時間を共有するため、場合によっては家庭と同等程度、繋がりが濃くなり、感情と密接な関係になるからだ。
会社が組織ということは誰しもが疑わないが、「組織」を組織ならしめるもの、組織の構造、外部環境と組織の関係などを学ぶことによって、「組織」が相対化され、「組織」との付き合い方の妥協点が見えてくることもあるはずだ。

なお、働く上で、「感情」とどう向き合うかについては、以下でレビューした書籍が参考になる。

アドラー心理学では、人間(個人)の悩みは、すべて対人関係の悩みだと語られるが、これは、人間が組織というものと無関係ではいられないことに由来するともいえる。
つまり、人間関係の悩みは組織の構成員としての悩みなのだ。

「組織」を知ることで、悩みが全て晴れることはない。根治不能な悩みであるということに気付き、絶望を味わう可能性もある。知らないというのは、ある意味幸せなことでもあるのだ。

ただ、知ることで乗り越えられることもある。知ることで折り合いがつけられることがある。

「組織」を知り、「組織」を相対化することで見えてくる世界が必ずあるはずだ。


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