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仕事で感情との板挟みに苦悩する方へ:『のびのび働く技術』(早川書房、2020) ブックレビュー#2

「働く」という言葉から連想する言葉を挙げてください。
と問われたら、どんな言葉が浮かんでくるだろうか。

・生産性
・効率的
・論理、ロジック
・統計、客観的な数値
・裏付け、エビデンス

上記のような言葉は比較的すぐに浮かんでくるのではないだろうか。

一方で、「感情」という言葉はなかなか出てこないのではないだろうか(財務・会計・経理の素養がある人は「勘定」という言葉が浮かんだかもしれない。)。

「働く」という文脈において、無視されがちな「感情」というテーマに真正面から取り組んでいるのが本書である。

特に、生活における仕事の比重が高く、深夜土日祝日問わず、仕事が頭の片隅にあるようなタイプの方にとっては、健全な心身を保つため上で役に立つ内容が盛り沢山である(そういった方には、「心身を健全に保つため、仕事と適度な距離をおく」というタイトルの2章だけでも目を通すことをおすすめする。)。

仕事に没頭していると、どうしても自分の役割を過大評価しがちになる(その過大評価によって、自らを奮い立たせている側面もあると思われる)。
でも、自分一人が稼働できなくなったとしても、組織も社会も当たり前のように回っていく。
本書では、自分の存在を過大評価せずに、自分の限界を知っておくことの重要性についても語られている(本書45頁)。

自らの「感情」の取扱い方だけではなく、相手の「感情」を踏まえて、どう振舞うべきか、具体的なアドバイスがされている。

例えば、相手が気持ちよく受け止められるフィードバックについて、本書は
「具体的な点について伝える」
「隔たりをどう埋めるかの観点で伝える」
「伝えかたが大事と心得る」
とのコツを示している(本書208頁)。

フィードバックをする際に、直接的な表現を避けるために、「少し検討が足りていない」「表現を工夫する必要がある」といったような抽象的なフィードバックをしてしまった経験は誰しもあると思われる。
しかしながら、このフィードバックの仕方には「感情」という側面で問題があると本書では指摘されている。
というのも、曖昧なフィードバックは相手の自信を失わせるし、ぼんやりした批判では役に立てようがないためだ。ぼんやりとした批判は、批判の先が成果物なのか、成果物の作成者自身なのかという区別が曖昧で、その矛先が相手自身に向いてしまう可能性があるともいえるだろう。

「隔たりをどう埋めるかの観点で伝える」「伝えかたが大事と心得る」というコツも、フィードバックを「感情」という観点からとらえているからこその発想といえる。

フィードバックはどんな形であれ、相手の感情を害することは避けられず、だからこそ、それを克服することでどんなメリットがあるか、「隔たりをどう埋めるかの観点で伝える」必要があるのだ。

また、どういった環境下でフィードバックを受けたいかは、相手によって異なる。画一的なフィードバックの仕方に依存するのではなく、相手によってフィードバックの仕方を変えることも求められる。相手にあった形での「伝えかたが大事と心得る」ということだ。

本書のタイトルは『のびのび働く技術』だが、実践するためには、自らのそして他者の「感情」にスポットライトをあてて、これまで良しとされてきた価値観の再考察も必要となる。

その意味で、「のびのび働く」のは一筋縄ではいかない。「論理」と「感情」の狭間で複雑に絡まった縄を解きほぐし、「感情」と手を取り合った先に「のびのび」とした働き方が待っている。


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