バカンス入ったから自家製ワイン作りに挑戦する①
今年はコロナの影響でバカンスが6月にずれ込んだ。というわけで初のバカンスを楽しんでいることになるのだが、この2カ月間の暮らしと何も変わらないから特に変わりはない。6月1日からは劇場で練習させてもらえると聞いていたが週に1度しか使えないようでそれなりに落ち込んだ。
外出規制はなくなったものの長距離の移動は禁止されている。ブリヤートで仕事が休みになっても日本に帰れなければ全く休暇にはならない。
とても時間がある生活をしているから、これまで様々なものを作ってきた。パンやヨーグルト、アイスクリーム…。
そして友達がnoteでワインを作ったという壮大な記事を書いていた。
ワインは簡単に作れるらしい
出口くんによると、ワインの作り方は
ブドウを潰す→放置→完成
というこの上なくシンプルなものだ。日本酒には麹が必要だしビールも調べてみると中々めんどくさそうだった分、ワインがここまで簡単というのは魅力的だ。
簡単にできるからワインはずっと愛され続けてきたのだろう。フランス人が昼間からワインを飲んだりするのは、当時は安全な飲み水を手に入れる方が難しかったからなのだそうだ。
水が豊富な日本人にとっては不思議な話に思える。ブドウは一番多く生産されている果実なのだそうだ。
ということで近所のスーパーでブドウを買ってきた。500gで150円ほどの色の薄いもの。日本ではブドウは高価な果物のイメージだったがドイツもロシアも安い。ドイツでもシベリアでも全く同じパッケージのブドウが売っているのもおもしろい。シベリア横断鉄道は偉大だ。
本当は出口くんが使っていたような黒々としたものが欲しかったが、それが売っていそうなスーパーにまで歩く気にはならなかったから最初から妥協した。色の薄いワインになりそうだが、気合を入れすぎると失敗したときのショックが大きい。
ロシアは家で酒をつくってもいい
日本は1%以上のアルコールは自分で飲むためだけだったとしても禁止されている。「重要な財源である酒税」が減らないようにするためだ。
どうやって人が家で酒を作っているかがわかるのだろうと思ったが、実際にどぶろく裁判という事件があったらしい。幸福追求権を主張したものの罰金30万円をとられたらしい。
酒税を多く払っている酒飲みほど、誰でも作ってよくなったら自家醸造してしまうからなのか。ケチな法律だ。
ロシアはそのような法律はない。むしろ日本くらいしかそんな法律はないらしい。
ロシアはウォッカの販売が禁止されてもみんな家でウォッカを作ってしまう国だが、やはり基本的にみんな売っているものを買うらしい。
ということで日本ではできない醸造もロシアではやり放題だ。今度帰国したら麹を持ち帰って日本酒を作ってみよう。
水洗いしない
ブドウは表面に天然酵母が付いているため、イーストを足す必要がない。この表面の白いカビのようなものが重要な働きをするらしい。だから洗ってはいけない。
ロシアの割と低クオリティなスーパーで売っている、シベリア横断鉄道で何日もかけて運ばれていそうなブドウを洗わないのはそれなりに抵抗があった。スーパーから帰ってきて全てをアルコールティッシュで拭くくらいに気を付けているのに一体何をしているんだろうというやるせない気持ちになったがあまり気にしすぎてはいけない。
「最高の体調」にも現代人は菌と接することが減りすぎていると書いてあった。大事な酵母を洗い流してはいけない。菌を大切にしよう。
ブドウを潰すのが辛い
道具がないから肉叩きでブドウを潰した。出口くんも書いていた通り、ブドウは思いの外固くて潰すのは中々に重労働だ。
しかも黒いブドウではないから果汁の色も全く黒くないし本当にワインのようになるのか心配になった。ひたすらに潰す。手で握りつぶした方がまだましだったかもしれない。
随分つぶしたが、皮が中々細かくならない。棒で果肉をボウルの側面にへばりつけてそれを押しつぶすような作業を繰り返した。ちょっと妻が引いていた気がする。
ブドウ選びは妥協したが自分の作業を妥協してワインができないという結果は許されない。ひたすらに潰す。
こうすると水分の量がかなり増えて飲み物のようになってきた。ここで少し舐めてみたが雑草を砂糖水にいれたような不快な香りがした。恐らくこの草のような臭いは種が潰れてでたものに違いないと思うようにした。
だいぶ細かくなりそれを水筒にうつす。
2日目の様子
特になんの変化もない。発酵が始まるのに1日から2日はかかるらしいがちゃんと菌が働いてくれるのか心配になる。ジュースは十分に甘かったが、ちゃんとアルコール度が上がるように砂糖とはちみつを投入した。
酵母がブドウ糖を食べて二酸化炭素ガスとアルコールに分解するらしい。化学っておもしろい。
3日目
なんの変化もない。2日はかかるらしいから大丈夫だろうとは思いつつ心配になる。しかし腐ったような臭いはしていない。これだけ暖かいところに3日も放置して腐っていないから大丈夫なはずだと自分を勇気づける。
4日目
朝起きて蓋を開けてみると、若干アルコールの匂いがした。ワイン風の香りだ。
シュワシュワとかすかに音が聞こえて、かき混ぜてみると泡が立ち確実に発酵していることがわかった。ただ放っておいただけだがこの感動はなんなのだろう…。
「表面に酵母が付いていて潰して放っておけば酒になる」など知識として信じてはいたものの全く目に見えないものだから不安があった。しかし目に見えないところで菌がちゃんと働いているのを実感するとなんとも言えない達成感があった。
子どもの頃にこれを体験していたら化学に興味を持っていたかもしれない。すべてはこんな小さな世界の積み重なりでできているんだなと壮大なことまで考えながら、熱帯魚の水槽でも眺めるような気分で水筒をのぞき込む。
ペットを飼っているような感覚に近いものがある。
5日目
発酵はもっと活発になり、水筒に耳を澄ますとはっきりと発酵しているおとがふつふつと聞こえる。菌が糖分を食べている音よと考えると少し怖いがペットに餌をあげている気分だ。かき混ぜると勢いよくシュワーと泡立ち楽しい。
酸素と糖が必要らしいから頻繁にかき混ぜてもよいらしい。あまり放っておくと表面がかびてしまうのだそうだ。
しかし放置の心配はない。私はこういうものはしょっちゅう見ずにはいられない性格だからだ。いじりすぎて失敗することが常だから、たくさん覗いても大丈夫なワインづくりは向いているはずだ。
あまりにもしょっちゅう蓋を開けていたから妻がちょっと引いていたがワインをおいしくするためと誤魔化していこう。あと9日ほどで完成するはず…
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