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Math<学習指導要領とMYPの融合>

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究の実践を日々迷いながら模索しています。これまでに1年間、PYPのカリキュラムで7ユニット、MYPのカリキュラム(数学)で4ユニットの実践をしてきました。
このnoteでは算数の学習指導要領と概念的理解を育むMYPのMathの考え方を融合した授業実践について考えていきたいと思います。

私なりの解釈

Mathの授業で目指しているのは、「世の中を数学的に見れる人を育てる」こと、同時に算数数学の基本的な知識とスキルを同時に育めるような実践を模索しています。なぜこのような考え方を大切にしているのかには、次の「OECD生徒の学習到達度調査」データが根拠にあります。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント(リンク

この結果はOECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイントで解説されているものになります。この結果からわかることは、実生活における課題を数学を使って解決する自信が低く、また数学を実生活における事象と関連付けて学んだ経験が少ないと感じている生徒が多いことです。
その一方で、日本の算数数学の平均得点を見てみます。この結果からは、日本の数学的リテラシーがOECD加盟国の中で高いことが分かります。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント(リンク

「そもそも数学的リテラシーとは何か?」

◆数学的リテラシーの定義
数学的に推論し、現実世界の様々な文脈の中で問題を解決するために数学を定式化し、活用し、解釈する個人の能力のことである。それは、事象を記述、説明、予測するために数学的な概念、手順、事実、ツールを使うことを含む。この能力は、現実社会において数学が果たす役割に精通し、建設的で積極的かつ思慮深い21世紀の市民に求められる、十分な根拠に基づく判断や意思決定をする助けとなるものである

この2つの情報から、日本では「現実世界の様々な文脈の中で問題を解決するために数学を定式化し、活用し、解釈する個人の能力」がスコアとしては高いのに対して、学習者の目線では、OECD平均に比べて、実生活における課題を数学を使って解決する自信が低く、また数学を実生活における事象と関連付けて学んだ経験が少ないと感じている生徒が多いことがわかります。

この結果を踏まえて、どのような算数・数学の授業実践をしていくのかを考えたときに、日本の学習指導要領で書かれていることをベースに、MYPの数学のカリキュラムの考え方と融合することで、数学的リテラシーを高めつつ、実生活における課題を数学を使って解決できるスキルやマインドを育める授業になるのではないかなと思いました。

さて、ここからMYPのMathの考え方と日本の学習指導要領を組み合わせた実践を紹介していきます。今回紹介するのは「数」の領域になります。

「そもそもなぜ、私たちは数を学ぶのか?」

生徒は、数を用いてパターンを表現したり、実生活の状況を描写したりする行為の起源は人類が最初に出現した時期にまでさかのぼるという事実や、数学が多文化的な起源をもつという事実を理解する必要があります。

「数学」指導の手引き

私たちは、数学と聞くと「どこか難しい」と感じてしまい、数学の持つ利便性よりも公式を覚えることや公式を当てはめて問題を解くことに難しさを感じて実生活の様々な状況を描写するのに数学が用いられている価値に気づかないまま数学を学んできたように思えます。そこで、そもそもの数の起源をたどることで今使われている数のシステムが洗練されていることや様々な地域で、生活において数というシステムが重要であったことが感じ取れると思います。
そこで、今私たちが学んでいる数の概念がない世界を想像するところからUnit1の学習をスタートしました。

Unit1のカリキュラム内容

こちらが、Unit1のカリキュラムの概要になります。

【Statement of inquiry = 概念的理解】
人間が相互作用するにつれて、さまざまなシステムと表現の形式が発達する。
【重要概念】形式
【関連概念】表現、システム
【グローバルな文脈】文明と人間の相互作用
【事実的問い】
・数とは何か?
・数のシステムとは何か?
・数にはどのような表記方法があるのか?
【概念的問い】
・どのようにして数のシステムは発達してきたのか?
・どのようにして数の表現形式は発達してきたのか?
【議論的問い】
・どのような数のシステムが一番有用性があると言えるのか?

MYP Mathematics1 by Oxfordの教科書を参考

次にこの内容で取り扱う日本の学習指導要領で書かれている知識の部分を整理してみます。

「そもそも知識とは何か?(リンク)」
国際バカロレアの学校では、社会構成主義という考え方が取り入れられています。社会構成主義で構築していく知識というのは、教授主義で捉えられている知識の捉え方とは異なり、客観的で普遍的な知識は存在しないと考えられているので、知識は学習者が他者という人的環境を含む環境と関わりながら構成されるものと考えられています。
ここで、知識というものをどのように扱っていくのかを定義していけたらと思います。

引用元:DIKW pyramid Wikipedia(リンク

DIKWモデルでは、データ、情報、知識、知恵の4つを以下のように分類します。
・データ=数値や実験結果、文章、音声、動画など人間の解釈の素材となるものすべて
・情報=データを整理・分析し、解釈できるようにしたもの
・知識=情報を通してデータや情報、体験を通じて得られた理解ノウハウ
・知恵=知識を深く体得することで身につく、普遍的な問題解決能力発想力

参考「DIKWモデルとは? データをDXや経営に生かすために必要な「昇華」って?
リンク)」

このモデルで示されているように、教科書に載っている事象は情報に値します。例えば、歴史のユニットにおいて、一つ一つの出来事は情報になります。ここで、戦争が起きた原因について複数の事例をもとに検討し、あるパターンが見えてきたとします。ここで出てきた理解というのが知識にあたると考えています。さらに、ここで学んだ知識を実生活レベルや別の場面で活かせるスキルに昇華したときに知恵になるのではないかと考えています。さて、今回の実践の紹介では、算数数学の分野で考えていきます。このユニットでは、「数のシステムから始まり、整数の性質(最小公倍数、最大公約数)、更に高校で学習するN進数のシステム」に発展していきます。
「そもそも私たちが何気なく使っている数のシステムについて説明できる人はどれくらいいるでしょうか?また、どのようにして世界の共通言語である現在の数のシステムが発展してきたのか?」数の起源から探っていきます。

さて、ここからは具体的な実践について紹介していきます。まずは、状況の設定で、現在の数のシステムや数字の記号がない時代にタイムスリップして、ミッションを伝えます。

更に、16人を4つのグループに分けて、4人グループになってもらい、それぞれにミッションを与えます。この段階では、4人の集団に共通の数について伝えるシステムはありませんが、お互いにそれぞれの数のシステムを使って情報を伝え合う中で、共通言語となる数のシステムを作ってもらいました。

次に、各グループごとに数のシステムと表記方法が誕生し、4つの数のシステムが教室の中に生まれました。

もはや、この板書を見ただけでは、算数の授業の黒板には見えないと思います。それぞれのチームに数のシステムについて、現代使われている言語を用いずに説明+問題を出してもらいそれぞれのシステムについての共通理解を深めていきました。

それぞれの特徴を分析すると…
A:現在使われている0から9の数字を別の記号に置き換えた記数法の仕組みと位取りの考え方を応用して生み出した考え方でした。

B:現在使われているアラビア数字の形を0から9までで体で表現した記数法の仕組みと位取りの考え方を応用して生み出した考え方でした。

C:・を1(量)とし、それを10個集まると10という量を表記する記号を作成し、この記号を10個集めた100という量を表記する記号を作成するというように、10^0(10の0乗)10^1,10^2,10^3… というように10の累乗をそれぞれ表記する記号を作成して、並べることで数を表現していました。

D:〜を1(量)とし、それを10個集まると10という量を表記する記号(◯)を作成し、この記号を10個集めた100という量を表記する記号(◯の中に◻️)を作成するというように、10^0(10の0乗)10^1,10^2,10^3… というように10の累乗をそれぞれ表記する記号を作成して、並べることで数を表現していました。

それぞれの数のシステムのパターン(共通点)を探す中で、AとB / CとDがそれぞれ似ていることに発見するチームも出てきました。そして、ここから数のシステムの有用性について考えていきました。
「このAからDのシステムを生活に取り入れるならどのシステムが良いか?」という問いで、グループの中で意見が真っ二つに分かれました。次の時間では、一人ひとりにどのシステムが一番良いのかと理由について分かれてディスカッションを行うワークを行います。

子どもたちの探究は続いていきます。

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