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フィンランドで見つけた【幸せに生きる力】を育む手段としての自由研究の進め方?

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、学校で学んでいる概念型探究を日常生活の学びにどのように応用できるのかも考察していけたらと思います。

今回のnoteのキーワードとしては「手段と目的」と「概念レンズでの探究の深め方」についてまとめていきます。


自由研究の目的を違う角度で考える

夏休みに入り、多くの学校で課される夏休みの自由研究。自由研究を進めていくフォーマットのようなものが様々ある中で、今回のnoteでは概念レンズを用いると自由研究がどのように変化するのかについて実際の事例を用いて紹介できたらと思います。その前に…

「そもそも自由研究とは何のためにあるのでしょうか?」
「自由研究を通してどのような知識やスキルを獲得できるのでしょうか?」

学習者の目線では、どんな課題に対しても、与えられた課題をそのまま素直にこなすのではなく、この課題を通して自分自身は何を学べるのか、どんなスキルを活用して新たにどんなスキルを身につけたいのかというような、課題の先にある目的のようなものを考える癖をつけることが重要だと思います。また、課題を与える側も、この課題を通して学習者は何を学べるのか、どんなスキルを使って、新たにどんな知識、スキルを育むことができるのかを考えることが重要だと思います。

もしかすると、私たちは自由研究という課題に対して、受験や評価のためにアウトプット(成果物)の質だけに目を向けたり、学習者の主体性ばかりに目を向けて放任してしまうことは起こりうると思います。もちろん、アウトプットの質も学習者の主体性のどちらの要素も大切ではあるのですが、それに加えて、自由研究のプロセスにも目を向けることが大切だと思います。具体的には、学習者がどんなスキルを使って、どんなスキルを磨いてほしいのかを明確にすることで、学習者が学び方をさらに洗練できる、言い換えるとPBL(問題解決学習)という学び方に繋げられるといいのではないかと考えます。

ここでいうPBLとは、次のように定義します。

問題解決の過程において、反省的思考reflective thinkingが働き、それによって新しい知識や能力、態度が習得されるとする学習の方式。課題解決型学習ともいう。1910年にアメリカのJ・デューイが『われわれはいかに考えるか』How We Thinkのなかで述べている。

引用:日本大百科全書(ニッポニカ) リンク

PBLの詳細については以下のnoteにもまとめています。

もし、自由研究の目標をコンクールで賞をとることとするなら、過去の優秀作品や他の自治体の優秀作品の成果物を分析し、結果のある程度分かっている類似した研究を行い、ある程度保護者が伴走してまとめることで成果としては得られると思います。もちろん、評価されている作品を分析して、自分自身のオリジナリティを少し加えて評価をもらえるスキルも受験や就職活動においては大事なスキルになることもあります。IBでいうATLのリサーチスキルの部分に少し当てはまるかなと思います。この受験や就職活動で相手のニーズに自分自身のニーズを合わせるスキルを身につけたいなら、このような学びも1つかもしれません。

しかし、相手のニーズに合わせただけのアプローチでは、実際に入学後や就職したときにミスマッチが起きる可能性は高まると思います。自分自身のニーズや価値観とうまくつながっていなかったり、自分が持っている知識、スキルとは違うものが求められたりして、その先で苦しくなってしまうことは起こりうるのではないのでしょうか?
「では、ミスマッチをなくすにはどのようにしたら良いのでしょうか?」
答えはすごくシンプルだと思います。

人生で大切なことは、自分のしたいことや自分自身の心を自分で知っていること。

「自分自身の現在地を知ること」が大切だとスナフキンが教えてくれています。自由研究は、自分で探究のテーマを設定することができるので、自分の興味関心を探る良い機会とも考えられます。

更に、フィンランドの教育では、義務教育(プレスクールから高等学校)の過程の中で「コンピテンシー」という概念をカリキュラムの中に取り入れています。このコンピテンシーというのは、知識やスキルが与えられた状況で、応用(転移)できる能力と定義されており、自分自身を知ることと、コンピテンシーを育んでいくことが「自分の人生を自分で選択し続ける力(≒人生のコンピテンシー)」につながっていくんじゃないかなと思います。

自由研究の進め方

さて、ここからはどのように自由研究を進めていくとよいのかについて具体的にまとめていきたいと思います。私は、自己理解とコンピテンシーを育む手段としても自由研究は効果的に活用できるのではないかなと考えています。こちらの図が私が考えている学習モデルです。ベースには、概念型探究とDIWKモデル、ATLの考え方、ラーニングピラミッドの考え方があります。では、この考え方は、様々な学習場面で応用できるのではないかと考えています。

・ STEP0:自分の気になる探究の種を見つける

まず、身の回りから自分の気になるものを見つけます。この時に大事にしたいのが、直感で自分の好きなもの、気になるものを複数出せるとよいと思います。サポートする大人は、ここでよい種と悪い種というようにジャッジしないことが大事だと思います。

・ STEP1:探究の種と自分の価値観とのつながりを探る

次に自分の選んだ探究の種と自分自身の価値観とのつながりを考えてみます。例えば、サツマイモをトピックに自由研究をしたいと考える児童がいました。ここに「なぜ◯◯◯(サツマイモ)をトピックに探究をしたいのか」を深掘ってみると、その子は「砂糖を食べることができなくて、甘いものを食べるにはサツマイモしかない!」と考えたことがきっかけとなり、サツマイモの探究をしたいと思ったみたいです。もしかするとここには、「何か自分自身の生活に制限がある中でも、諦めるのではなくできる限り試してみたい!楽しみたい!」という価値観があるのかもしれません。探究の種と自分自身の価値観のつながりを考えることで、自己理解にもつながり、探究への動機づけも強化され、探究に独自性も生まれるのではないかと思います。

・ STEP2:探究の種について知っていることを明確にする

STEP0で出てきた探究の種について、既に自分が何を知っているのかを明確にします。学習者が、既知の知識を確認することの重要性は、認知心理学や教育学の理論に基づいています。

スキーマ理論
スキーマ理論では、人間の知識はスキーマ(知識構造)と呼ばれる枠組みで組織されています。新しい情報は、既存のスキーマに結び付けられることで理解されやすくなります。新しい概念を学ぶ際に、既存の知識を確認することは、学習者が新しい情報を適切なスキーマに統合し、意味のある理解を構築するために不可欠です​​。
構成主義
構成主義の視点からは、学習は個人が既存の知識と新しい情報を関連付け、意味を構築するプロセスとされています。このアプローチでは、学習者が新しい概念を理解するためには、自分の既存の知識を活用することが重要です。

「How people learn」の書籍を参考にChatGPTが生成

例えばサツマイモの研究では、サポートする大人が子どもにそのトピックについて何を知っているのかを問いかけ、さつまいもについて既に知っていることを話してもらい、そこから考えることや疑問が出てくるとよいと思います。「子どもの思考が見える21のルーチン: アクティブな学びをつくる」の本にも紹介されている「See(事実)-Think(解釈)-Wonder(疑問)」のルーティーンを用いて、親子の会話でも、何が事実で、何が解釈なのかを整理しながらコミュニケーションを取ることで、自分の知識の曖昧なものに気づき、さらに理解を深める問いを見つけることにつながると思います。私たちは、無意識のうちに自分の中で曖昧なものを他者や周りに事実のように伝えてしまっていることって起こりうると思うので、子どもの頃から事実と解釈を分けて考える癖をつけておくことも大事だと思います。

・ STEP3:探究の流れと問いをつくる

次に、自分の探究の種を具体化していきます。この時に、何を探究していくのかを*キーコンセプト(重要概念)を使って問いをつくり、複数の視点を用いて探究の流れを3つ考えていきます。既に、STEP2の段階で、子どもからいくつかの問いが生まれてきていると思うので、出てきた問いをキーコンセプトで分類してもいいかもしれないです。

*キーコンセプト(「重要な問い」としても表現されます)は、教師と児童が世界について考えたり学んだりする方法を考えるときの助けになり、児童の探究を発展させたり、深めるための挑発の役目も果たします。
1. 特徴 (Form)

定義: すべてのものは、観察、特定、描写そして分類可能な、認識できる特徴をもつ形式があるという理解
重要な問い: それはどのようなものか?(What is it like?)
2. 機能 (Function)
定義: すべてのものには、調査可能な目的、役割、行動方法があるという理解
重要な問い: それはどのように機能するのか(How does it work?)
3. 原因 (Causation)
定義: 物事は理由なく起こることはなく、起因関係があり、行動には結果が伴うという理解
重要な問い: それはなぜそうなのか?(Why is it like it is?)
4. 変化 (Change)
定義:変化とは1つの状態からまた別の状態へ移るプロセスであり、普遍的で不可避なものである、という理解
重要な問い: それはどのように変わっているのか(How is it changing?)
5. 関連 (Connection)
定義:  私たちは、個々の要素による行動が他のものに影響を及ぼす相互作用システムをもった世界に生きているという理解
重要な問い: それは他のものとどのようにつながっているのか(How is it connected to other things?)
6. 視点 (Perspective)
定義: 知識はものの見方によって制御されており、異なるものの見方は異なる解釈・理解・発見を生み、ものの見方は個人的、集団 的、文化的そして学問的でありえるという理解
重要な問い: どのような見方があるのか(What are the points of view?)
7. 責任 (Responsibility)
定義: 人々は自分の理解にもとづいて選択を行い、その結果として人々がとる行動は違いを生むという理解
重要な問い: 私たちにはどんな責任があるのか?(What is our responsibility?)

参考:PYPの作り方

この重要概念という考え方を取り入れることで、探究を広げたり、深めることにつながります。問いを出していくとどうしてもある特定の概念に偏ってしまうことは起こり得ます。

例えば、サツマイモの探究を行なっているこの児童は、「特徴」という概念から、名前の由来、栽培時期、特性、栽培場所についてリサーチし、「変化」という概念を用いて、食味の変化、条件を変えて育てることでどのように成長していくかの違いを比較、「関連」の概念では、サツマイモが私たちにどのような影響を与えたのかをリサーチしていました。探究の流れができたところで早速リサーチや実験を始めていきます。

・ STEP4:調べた情報を繋げて知識に引き上げる

引用元:DIKW pyramid Wikipedia(リンク

ここからが、情報を集めただけの自由研究と、複数のリサーチした情報からつながりやパターンを見つけて自分なりの知識を作りあげた自由研究の大きな分かれ道になります。情報を集めただけの研究は、どうしてもパソコンや本等で調べた情報を知った状態で止まっており、理解まで到達していないので、日常生活に転移させるレベルには達していないと思います。「では、どのようにすると情報から知識に引き上げることができるのでしょうか?

例えば、サツマイモの名前の由来についてインターネットでリサーチし、情報が出てきました。これを要約して自分の言葉でまとめるスキルは発揮できていますが、この情報は果たして日常生活の他の場面で活用することができるでしょうか?ここで転移できないものが情報です。
例えば、ここでこんな問いを立てるとどうでしょうか?「青木昆陽さんはどのようにして、新しいもの(サツマイモ)を知らない土地(薩摩)で広げることができたのか?」この問いを探究していくと、マーケティングで応用できそうなアイデアが出てくるかもしれません。私たちの身の回りにある浸透しているものも、最初は人々にとって馴染みのないもので、広める人がいたから、新しく入ってきたものと私たちの暮らしにつながりが生まれ始めました。複数の事例からパターンやつながりを自分で発見することで、他の場面でも応用できる知識になるかもしれません。サポートする大人は、「なぜ?」「どのように?」と問いかけてあげることで、学習者の概念的理解に引き上げることができるかもしれません。さらに、子どもがもし自分なりの一般化したアイデアを言ってきたら次はこのように問いかけてみて下さい。「What makes you think/say that?(何があなたにそう考えさせるのですか?)」この問いで尋ねることで、子どもは具体的に自分のアイデアの根拠を伝えるために、事実となる情報を整理して、情報をもとに自分の考えを伝えるスキルを身につけることにつながると思います。

・ STEP5:アウトプット&フィードバック

引用:リンク

いよいよ、自分でたてた問いについてリサーチし、情報を整理し、複数の情報のつながりやパターンから自分なりの知識を構築したことを誰かに伝える段階に入ります。なぜ、プレゼンするのかというと、自分以外の人に知識を伝えるには、自分自身が理解していないと伝えることができません。また、プレゼンをして終わりではなくて、聞いてくれた人にフィードバックや質問をもらうことで、自分の理解を広げるきっかけになります。

・ STEP6:自己評価と自己理解

一通り探究のサイクルを回し、最後は自己評価を行います。この探究を通して、自分の知識やスキルはどのように変化したのか?新たに何を学び、どんなスキルが身についたのか?また、自分自身の興味関心から生まれた探究の種でもあるので、この探究を通して、自分自身の価値観がどのように変化したのかも振り返り、言語化を行います。これによって、自分が何に興味があるのか、この興味は自分自身の信念や価値観をどのようにつながっているのかを理解することで、自分が進んでいきたい方向性が見えてくるきっかけにもなると思います。

さて、かなり長くなってしまいましたが、フィンランドで見つけた問いである「人は幸せに生きる力をどのように身につけられるのか?」私なりの仮説しては、「自分の人生を自分で選び続ける力」と考えており、そのためには「自分自身を知ること(自己理解)+コンピテンシー」が必要になってくると考えました。そして、このnoteでは、この自己理解とコンピテンシーを育むのに、夏休みの自由研究が効果的なのではないかという仮説が生まれたので、それについてまとめてみました。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日からフィンランドにいって、新たな学びを吸収してきます。

moimoi!

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