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7年前に見た夢

誰の手も借りず契約をものにしたいと思ったのに、元総理の森喜朗が商談に付いてくることになってしまった。

頼んだわけではない。
森が俺をサポートする理由などあるわけがないが、世の中には理解できないことはいくらでもある。
商談相手はテレビCMをガンガン流している大手家電メーカー。
商談場所の本社は、田園地帯を見渡す丘の一番高いところに、古城のように建っているけど、○○ポイント2倍セールなどと書かれた大型バナーがかかっている品のなさが笑える。
本社玄関まで数百メートル続く坂道は、商談に訪れる業者たちが列をなして歩いていた。

場面は、商談ルームに替わる。

商談相手は、ケチで知られている高田社長。
驚いたのは、同席した担当部長が中学の同級生だった。
俺は、資料を説明しながら正攻法で商談を続けていた。
ふと、隣に座った森が目配せした。
言葉は発さず「早く渡しなさい」と合図してきた。
俺は、汗ばんだ手でポケットからとった1万円札をくしゃくしゃのまま同級生に握らせた。同級生は、一瞬いぶかしげな表情を見せたものの、俺を蔑むような目はしなかった。あーわかりました、というさりげなさで、1万円札をポケットにしまった。
俺はその場から逃げたくなった。

行動に移した。
森のことなど眼中にない。
坂道を駆け降りて走り続けた。
空港へ向かった。
夢中で逃げた。 

外国のホテルの一室。

俺はプロサッカー選手のC・ロナウドが泊まるホテルのベッドで目が覚めた。
バスローブを纏って立つロナウドが、
「シャワーを浴びてくる。さきに寝ていてくれ」
いやな予感。
なんとしても避けたい。
俺は慌てて、日焼けした自身の脚や腕から皮を剥いてベッドに並べた。
高級シーツの上に汚い皮を並べる変態行為。
これなら、ロナウドも肉体を誇示する前に俺に幻滅してくれるだろう。

ふと気づくとボーイスカウトの子供たち7、8人がリーダーに率いられてベッドルームに入ってきて、僕も知っているキャンプファイヤーを囲んでよく唄う歌を歌いだした。
いつの間にか、バスローブ姿のロナウドも楽しげに唄っていた。

ボーイスカウトの別のリーダーが駆け込んできて叫んだ。
「津波が迫ってきた。早く逃げろ!」

俺は、全員を連れて飲食店が入っている雑居ビルに逃げ込んだ。そのビルがなぜ安全だと考えたのかはわからない。
エントランスの案内板で2階に寿司屋があることを知り、ひとりで階段を駆け上って寿司屋へ。暖簾を分けて引き戸を開けたら、そこに見覚えのある顔、板前の恰好をした日本人がいた。

思い出した。大学のスキー部の先輩の田中正明さんだ。俺は高橋さんからキャプテンを引き継いだのだった。
「た、田中さんですよね」
「・・・」
「福田ですよ。合宿の時、起床時間より早く起きたからって、高屋さんに正座させられた福田ですよ」
「おー、福田か」

スマホのアラームで目が覚めた。 

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