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白サシ養殖装置の紹介

はじめに

今回は自分が数年間使用している白サシ(ハエ幼虫、ウジ虫)養殖装置を紹介。

注意事項として、この養殖装置は必然的に風下に腐臭を流す構造であるため、近隣住民とのトラブルの元になりかねない。
設置する際は"必ず"「私有する土地」かつ「半径100m以内に住宅が無い土地」を利用しなければならず、そのために実用性や汎用性は低い物となる。
しかし、仕組み自体は他の装置にも流用できる部分もあると思われるため、ここに記録する。

また、記事内にはウジ虫の集る生レバーやウジ虫の群れ等の画像が掲載されているため、それらが苦手な方はブラウザバックを行う事を強く強く推奨する。

これらの点をご留意した上で閲覧いただきたい。





用意する物



装置を作る際に必ず用意するものは

・大型の容器(漬物樽)
・それよりも小さな餌容器
・乾燥した砂

の3つ。
必要に応じて金網の蓋や重石などを使う。

養殖装置の設置例。
餌として生レバーを使用。
必ず雨の当たらない場所に設置する。
長時間日光に当たる場所では日除けをする



装置の構造

構造は単純で、餌容器内に産みつけられ成長したウジが蛹化場所を求めた徘徊を行う際、それを餌容器の外にある砂へと集める装置だ。

蛹化場所を求めて徘徊するウジ

上記の画像でも分かる通り、水分を纏ったウジは垂直な壁を登る事ができ、餌容器壁面には這い回った跡が残されている。
その傾向が特に顕著となるのは、高温等により生息環境として不適切となった時、餌が無くなった時、もしくは終齢幼虫となり蛹化が行える状態になった時の3つで、湿潤な環境ではほとんど蛹化しない。ある程度乾燥した環境に辿り着いた場合に蛹となる。

終齢幼虫となり蛹化場所を求めて
砂上に辿り着いたウジ


蛹化場所を探して餌容器を登り切ったウジは行き場を失い、必ず砂上へと落下する。
その際、ウジ体表の水分に砂が纏わり付く事で登壁能力が完全に失われるため、ウジが養殖装置の外に出ることは無い。辿り着いた砂中内で蛹化せざるを得なくなる。
そうして砂中に集まった囲蛹いようまたは前蛹ぜんようふるいによって簡単に回収できる。

使用しているザル
蛹の回収にはザルや味噌漉しを用いる




負の走光性と餌容器


尚、餌が十分であるにも関わらず、非終齢幼虫が徘徊を行って餌容器外に出てしまう事も時折ある。

ウジは"負の走光性"という生態により、通常時は光を避けて暗所に向かう傾向がある。
餌容器を予め黒色のゴミ箱等にする事で餌容器内に留まる確率を上昇させられる可能性も非常に高い。

この案は野食ブログ"ざざむし。"より引用させていただいた。
当記事の最後に、引用元記事のURLと謝辞を掲載する。


メンテナンスの注意点

メンテナンスは必ず夜間に行う。昼に行えば産卵に来たハエに纏わり付かれながら作業をする事となるためだ。
昼行性であるハエ類は夜になると養殖装置周辺から姿を消すため、その時間帯を狙って作業を済ませる。
なるべく悪臭や砂塵を吸う事が無いように、風上に立って行う。



使用する餌

ニクバエやキンバエを誘引するため、餌容器内には生肉や生魚、ザリガニ等、動物の死骸を入れる。
自分は近隣の湿地で捕獲したウシガエル幼生やアメリカザリガニ、またはコイやオオクチバス、アメリカナマズ等を入手したならば、それらの侵略的外来種を冷凍保存して適宜使用していた。
ごく近隣で捕獲した個体であれば細菌を含めた外来生物の再拡散が起きる可能性は低いため、ウジが食べ尽くした後の残滓を私有地に埋める事で処理している。
それらが手に入らない場合は市販されている鶏肉やレバー、ドッグフード等を使用する。

また、餌を野菜クズ等を含む生ゴミにする事で誘引対象をイエバエやアメリカミズアブなどに変更する事も可能。



注意点

繰り返しになるが、トラブルを避けるため、養殖装置は必ず近隣に住宅が無い私有地に設置する。

また、この手法は餌の採取も含めて必然的に野外に生息する生物資源と栄養の循環を一方的に奪う事に繋がってしまうため、気休め程度にしかならないが、3割〜5割ほどの囲蛹は必ず羽化後に野生へと帰る事ができる場所で管理している。


トラップとしての白サシ養殖装置

この養殖装置は飛翔能力を持つスカベンジャーが溜まるトラップにもなり、長期間の設置によりそれらの季節消長を観察する事もできる。
自分は自宅周辺に養殖装置を設置した事で、数多くのスカベンジャーの生息を初観測できた。
確認できた種類はクロシデムシ、ヨツボシモンシデムシ、オニヒラタシデムシ、ヒメヒラタヒデムシ、モモブトシデムシ、オオモモブトシデムシ、エンマムシ、大型のハネカクシ等。
特にモモブトシデムシ類やエンマムシ類等のウジ食昆虫は狙って得られる機会が比較的少ないため、それらの採集データとして参考になるかもしれない。

特に比較的珍しいとされているオニヒラタシデムシが自宅周辺に生息しており、この養殖装置で大量に捕獲できた事は確実に貴重なデータであると考えている。
専門家である丸山宗利氏からは上記のスカベンジャー達の同定と周辺環境のお墨付きをいただいた。
今一度、ここに感謝を申し上げる。

大量に集まったオニヒラタシデムシ
春に集中して見られる


その他、いくつかの寄生蜂やヒゲブトハネカクシ類といった、ハエの蛹に寄生する生態を持つ昆虫も複数確認できた。
野外では数多くのスカベンジャーが集まる事で短期間で遺体が処理されてしまい、それらの観察を行う事は運の要素が多かった。
しかし、常に動物遺体の資源が保たれるこの養殖装置では恒常的にハエが発生しており、寄生昆虫においてもそれなりの個体数を頻繁に観察する事ができたため、何らかの改良を行う事でさらに効率的に長期間の観察を行えるものと思われる。

腐肉に飛来したアカアシブトコバチと
思われる寄生蜂
ハエ囲蛹を損壊し、内部の
寄生蜂蛹を取り出す様子。
上記のアシブトコバチとは異なる種類。
ハエ囲蛹内に寄生していた蜂の蛹。
複数の蛹が付着している丸い物体は
体液を吸われて縮んだハエの蛹

試作段階の養殖装置

3年前に製作した最初期の養殖装置
餌容器内には余分な水分を吸わせるために
鯉の餌を入れた
2年前の試作段階の装置。
アメリカミズアブ養殖装置の
前蛹回収手段を参考にした。
砂中もしくは餌容器下で蛹化している
鳥獣避けとして金網と重石を使う

蛹の冷蔵保存

蛹化した後は冷蔵保存を行えば生きたまま半年ほどその状態を保つ事が可能となり、羽化に適した気温の場所に1週間ほど置くとまばらに羽化を始める。


ちなみに、知人の農家に当記事のハエ養殖法を紹介したところ、冬季のハウス栽培に使う受粉用のハエを購入せずとも充分に賄う事ができたと聞く。
その際は近所の水路のザリガニを用いて繁殖を行い、秋のうちに回収し冷蔵保存した蛹を用意。
作物の開花時期の少し前にハウス内の一角に蛹の入った容器を置く事で羽化したハエ成虫による受粉を成功させたようだ。
そして元々持っていた農業資材や廃材を装置作りに、付近の外来種を餌に用いたため、その元手は0円だったという。

確かにこの手法であれば他地域のハエや細菌を持ち込む事なく栽培が行える上に、受粉用昆虫生体の購入費用が大幅に節約できる。
そして逸出してもほとんど問題が無い。
こうした農家の視点は自分一人では気づく事ができなかったので、非常に大きな刺激となった。


自分はこの養殖装置で増やしたウジや蛹を各種生物の餌、釣り餌として使用しており、それらには利点の他にも注意点や欠点が存在する。
今回は多忙のため、そちらは今後の記事でも紹介していきたいと思う。
当記事も定期的に追記を行なっていく予定だ。




関連記事

白サシを使用して飼育したクロナガオサムシ飼育記事。
成虫幼虫共に白サシを与えて飼育できる。



参考記事


こちらはハエと同じ双翅目であるアメリカミズアブの繁殖を効率化させた先人の記事。
自分はいくつかの言語のアメリカミズアブ資料を見てきたが、最もインスピレーションを受けたのはこの方の記事だったように思う。
当記事で紹介した「ウジは乾燥した場所で蛹化する」という生態が共通しているため、アメリカミズアブの養殖装置に求められる構造も似た物となる。
尚、リンク先には大小様々なウジ虫が大量に掲載されているので一応は閲覧注意であると警告しておく。

上記記事の筆者である"ざざむし。の人"氏には当記事を閲覧とリツイート、さらには上記記事への引用と賞賛をしていただけた。
何とも光栄であり、改めてここに感謝を申し上げる次第である。




追記履歴

・2023/03/01
 寄生蜂等の画像を追記

・2023/03/02
 "ざざむし。の人"氏のブログ引用、謝辞を追記

・2023/03/02
負の走光性と餌容器の項目を追記

・2023/11/03
関連記事に『白サシ給餌感想③タイコウチ』を追加

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