誕生秘話ならぬ、販売秘話としての物語。映画「テトリス」レビュー
Apple TV+ で独占配信されている本作は、超有名ゲーム「テトリス」のライセンスをめぐる、実話に基づいた物語だ。
当時、アーケード版はセガが展開していたが、家庭用ゲーム機は任天堂が自社ハード向けに展開しており、セガのゲーム機向けには販売されないという謎な状況になっていた。
セガはライセンス上の問題を抱えていて、予定されていたメガドライブ用のテトリスが販売中止になったという噂はゲームファンの間でそれなりに話題になっていて、自分も「さすがにそれは殺生やなあ。任天堂こわぁ・・・」とか思っていた。
後にポケモンでヒットしているので忘れがちだが、ゲームボーイが売れたのも「テトリスを独占できたから」と揶揄されていたくらいで、その結果は印象に残っているものの、どういった経緯でそうなったのかまでは詳しく知らなかったため、興味を持って鑑賞させてもらった。
物語は「テトリス」のライセンスの許諾を受けた者同士の権利の取り合い(主張し合い)、許諾するソ連側の権力者間の争い、ライセンシーの1社で本編の主役であるBPS社のヘンク・ロジャースとテトリスの作者、アレクセイ・パジトノフの友情の3つを軸に展開する。
BPSは「イロイッカイズツ」で(オールドゲームファンには)おなじみの「ザ・ブラックオニキス」というファンタジーダンジョンRPGで有名で、自分もパソコンゲーム雑誌の広告等でよく見ていたのでなじみがあった。ゲームのグラフィックが洋ゲーっぽく、普通に海外のメーカーだと思っていたのだが、この映画を見て実は日本の会社で、ヘンクの嫁さんが日本人であることを知ってビックリした。
ライセンスの話は、最初ソ連の国防省配下の権利元企業が儲けに無頓着で雑に権利を許諾した結果、権利を受けた側が「すべてのハードの権利を取得している」「いや、PCだけだ」「PCとゲーム機の定義の違いは?」など、お互いの権利を主張することで混沌としていく様子が描かれる。
「テトリス」に商機を見出し、家まで抵当に入れていたヘンクには後がなく、作者であるパジトノフとも直接コンタクトを取り、エンジニア同士のクリエイティビティで通じ合い、友情を深めていく。
(ここの下りで、4ライン消しはヘンクのアドバイスで実装されたみたいな描写になっていましたが、これはさすがに脚色じゃないかなと思います)
権利に群がる面々を前に、これはタダ事ではないと交渉を有利に進めようとし始めるが、私腹を肥やそうと裏取引を始めるソ連側の権力者も現れ、旧ソ連の趣として情報が筒抜けで圧力をかけられたり、最後は権利書の奪い合いで派手なカーチェイスまで行われるなど、脚色としてもやや強引な展開となりますが、まあ、その辺りは許容範囲かなと思いました。
むしろ、ライセンス中心の話とは言え、もう少し「テトリス」自体がどのようにして生まれたのか、という部分に触れてくれると期待していたので、そこがすっぽり抜け落ちて「TETRISは、あります!」から始まって、その後もほとんどスルーされたのは少し残念だった。
物語としては、主人公が当時まだなかった”携帯ゲーム機”を新たに定義して、ゲームボーイ用の権利を取得し、それで得たお金を元にパジトノフを日本に招いて、めでたしめでたしといった形になっているが、変に映画として成立させようと脚色が入った(っぽい)展開となっていたことで、類型的に感じられる描写が散見され、リアリティが失なわれている嫌いがあった。
また、個人的に「テトリス」がこれだけ熱狂を生み、長く愛される作品になったのは、元のルールが素晴らしいのはもちろんだが、アーケード版に実装されていた”スーパーローテーション”、”T-Spin”と呼ばれるピース接地後に「悪あがき」ができるアレンジが大きかったのではないかと考えているため、売る側だけではなく、こうした作る側、遊ぶ側の視点ももっと加えてもらえたらより愛着の感じられる映画になったんじゃないかと思う(幻のメガドラ版、遊びたかった・・・)。
マジで似てました・・・