小説 永遠に0(第一回)

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

あらすじ
ゼロとは何か。窃盗の累犯で捕まった俺は、留置所、拘置所、刑務所と移送され、その都度ゼロを思い知らされる。
男はゼロに何を見出すのか。リアルをとことんまで追求した『受刑者というお仕事』小説。

俺は今、『ゼロせん』で戦っている。

『ゼロせん』で突っ込むとロクなことにならない。それどころかかなりの辛い目に合う。といっても第二次世界大戦の話ではない。

  これはれっきとした令和の話だ。

  俺は令和4年の春に窃盗の容疑で逮捕された。食うに困ってのことだ。柿ピーと第三のビール、締めに食うカップ麺を誰にも見られないようにエコバッグに入れた。会計を通さずに店を出たところで店員に捕まり、警察を呼ばれた。弁当持ちだったから必死に「他で買ったものだ」と抗ったが、防犯カメラにはっきりと映った自分の姿に黙らざるを得なかった。弁当持ちとは、過去に執行猶予の判決を受けて、その猶予中に再度捕まった者のことで、W執行猶予など今時ありえないから、起訴されれば裁判後に刑務所行きということになる。まだ今回の判決は出ていないが、求刑一年なら量刑相場で懲役8月というところだろう。1年6月の弁当持ちだから、すなわち合計2年2月の懲役刑になる。

『ゼロせん』の話に戻そう。俺は食うに困っていた。つまり俺には金が無かった。そう、持ち金0円で刑事施設に入った奴を『ゼロ銭で来た』と揶揄するのである。

ゼロ銭で留置所に入ると、精神、特にプライドが大きく削られる。ここからはゼロ銭で来た奴を便宜上ゼロ銭と呼ぶ。留置所での生活には洗面道具と着替えが必要だが、ゼロ銭はこれらが買えないため、借りる必要がある。警察署にはゼロ銭のためにそれらが準備されている。それより大変なのは、切手、便箋、封筒が買えないことだ。これらは借りることができない。よって外部と連絡が取れない。唯一連絡を取ることができる弁護士は何もしてはくれない。

ゼロ銭でない者たちは、外部交通によって、金銭や着替え、本などの差入れを受けられる。彼らはその領置金で自弁の食事を取ったり、ジュースを飲んだり、お菓子を買って食べたりできる。俺たちゼロ銭はそれを指を咥えて見ているしかない。黒飴の一つでも、恵んでもらえたら、それ以上を望むべくもないのである。

第2回https://note.com/tomonan21/n/n37b1c4159202
第3回https://note.com/tomonan21/n/n2a9bce98efb1
第4回https://note.com/tomonan21/n/nee4356d8f42b
第5回https://note.com/tomonan21/n/nfe8e5b04216f
第6回https://note.com/tomonan21/n/n200866d35c1b
第7回https://note.com/tomonan21/n/n695d219ebf70
第8回https://note.com/tomonan21/n/nd9a22c7aefb3
最終回https://note.com/tomonan21/n/nfe855c7175bd

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