小説 永遠に0(第二回)



  逮捕されて16日後、俺は起訴された。現在の裁判制度では起訴イコール有罪だ。奇跡的に無罪になるものは、ドラマでは99.9と言っていたが、実際には10000件に2件しかない。
起訴されて公判日が決まると、拘置所に移送される。拘置所では初めに手紙セットが売っているが、ゼロ銭にはもちろん買えない。弁護士への連絡が週一回FAXでできるのみだ。
  拘置所は服装が割と自由なので、冷暖房完備の中、皆Tシャツとハーフパンツで過ごす。しかしゼロ銭は青緑色の舎房着を切るしかない。留置所では週一回だった洗濯も、週二回になるので下着は4枚持っているとうまくまわせるが、ゼロ銭には関係ない。なぜなら繰り返しになるが、私物を差入れてもらうことも、購入することもできないから、支給された白一色のトランクスを履くしかない。逮捕時に履いていたパンツは一ヶ月の間に、俺に溜まったストレスのように汚れていたため、廃棄した。
  ゼロ銭だが財布は持っていた。自身の持ち物は預かられている免許とマイナンバーカードだけ。プライドはとうに削られて残っていない。
  拘置所では、買える物の種類が格段に増える。日用品、お菓子など食品、文房具、新聞、雑誌や単行本、コーヒーなどの飲料などである。週三回の風呂の際に他の舎房が見えるが、皆本を数十冊、お菓子を種類毎に、それこそ店を営業するように並べている。それを見て羨ましい気持ちと自らをこの境遇に置いた何かが憎い気持ちが、風呂の度にない交ぜになる。
  花粉の時期は鼻をかむのに、官物のちり紙をもらうのだが、質が悪く鼻が痛くなる。貰える量も少ないため、手鼻をかんだ方がましだ。私物の柔らかなちり紙を受け取っている向かいの舎房の奴が憎い。
「コーヒー、開缶報知器」の放送も、朝の願い事でもらえるバーコード式の購入願箋も、ゼロ銭には必要ない。ただで借りることができる官本と、全舎房に流れるラジオだけがゼロ銭の楽しみである。
  正直ゼロ銭であることが、これほど精神を削るとは思ってもみなかった。持つ者と持たざる者の差をこれほど思い知らされるとは思ってもみなかった。もはやプライドなど残っていない。しかしながら、これはまだゼロ銭が受ける仕打ちの始まりでしかなかった。どん底はまだ先だったのである。

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