小説 永遠に0(第三回)



裁判で判決が出てから14日間は、上訴期間なので控訴できるが、俺はしなかった。求刑1年に対して裁判官が出すことができる最低刑は6月だが、俺の判決は懲役7月だったからだ。「これ以上まかることはない」看守が言った。

「ずいぶんまかりましたね」裁判所の待機所でいっしょだった奴に言われた。情状酌量など無かったから、ひょっとすると弁当持ちで刑が長くなることを避けたのかもしれない。

起訴されて被疑者から被告人になったように、今度は被告人から受刑者になった。これを赤落ちという。被疑者や被告人は犯人ではないので、お菓子などを自由に食べられるが、受刑者はイコール犯人であるから、その罪を償うための罰を受けなければならない。公共の福祉に反したのだから、権利は保証されず行動には制限がかかり、扱いは大きく変わるのだ。よくテレビで『容疑者』だの『被告』だのと報道されるが、それらは全てテレビ独自の用語だ。容疑者Xは正しくは被疑者Xだし、ルビー被告は刑事裁判では被告人のルビーが正しい。中三で習うのに間違えている人間が多いのはテレビや小説のせいだ。

受刑者は作業をしなければならない、と法律で定められているそうだ。俺は厚紙を折って紙袋を作った。いたずら書きをする奴がいるらしく、筆記用具を回収するのだが「持っていない」と言うと『大型』と呼ばれている、おそらく同じ受刑者だろう、奴に鼻で笑われた。赤落ち初日に行われた知能テストのようなものの時は鉛筆を貸与してもらった。2日ほど働くと、どうやら『大型』だけじゃなく『小型』もいるらしいことがわかった。進撃の巨人なら『超大型』がいるが、ここにはいないらしい。

次の日は、別室に連れていかれ刑務所の希望を取られた。裁判所で「どこが良い」、「あそこはダメ」など聞いていたので、寒さの苦手な俺は「北海道ならどこでもいい」と答えた。逆のように思うかもしれないが、青森以北は暖房がきいていて、建物が断熱構造になっているため暖かいのだそうだ。東北や関東や名古屋以西の刑務所はすこぶる評判が悪いからできれば行きたくない、そう思っていたら、一週間後に俺が移送された先は、飛行機に乗る必要のない北関東の民間刑務所だった。

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