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「起業すると離婚しやすい、は本当か」  by起業家妻

「起業すると家庭が上手くいかなくなる」という話はよく聞く。
実際、起業家や会社を経営している人で離婚経験者は多いように思う。
正直、旦那さん(D)を見ていると納得である。

仕事が忙しくて家庭を顧みる時間がない、仕事が優先になるという理由もあるのだが、起業家とサラリーマンとでは人種が異なるくらい考え方や見ている世界が違うという理由も大きい。
起業家という人種を理解するのは大変だが、受け入れる努力をする、というか受け入れる強さを持たないと、夫婦の関係なんてすぐに壊れてしまう。


パートナーが起業すると最初に生まれる感情は「不安」と「苛立ち」である。
創業してすぐは、会社から給与を出すことができない期間が続く。(もちろん、事業によるが)
毎月決まった額が振り込まれるサラリーマンから無収入になることは、しんどいものである。無収入の期間にある程度目処がついているならばまだしも、いつお金を引き出すことができるか分からない期間が続くと、当たり前のように不安になる。

このような金銭的な不安も辛いが、精神的に辛いのは苛立ちをぶつけられることだ。
上手くいかない苛立ち、将来どうなるか分からない苛立ちを、家族にぶつけることが時にはある。苛立ちが苛立ちがうみ、無限ループのように家庭全体に苛立ちの空気が充満する。

ただ、苛立つ気持ちも理解できるのだ。
起業すると、すべて自分で意思判断しないといけない、かつ相談相手もいないので、とても孤独である。夜寝る時に、悪夢にうなされる子供のように小さく丸まって寝ている姿を見ると、キツイことを言われても許す気になる自分がいた。


そして、少しづつ事業が上手くいきだすと「嫉妬」と「寂しさ」の感情が芽生えてくる。
事業が上手くいくことは喜ばしいことだが、さまざまな人に出会い、イキイキと仕事をしている様子を見ると、自分だけが取り残されたような感覚になる。

Dだけが仕事を通して成長している、充実した生活を送っているような感覚になるのだ。最初は、キラキラしているDを単純に「羨ましい」と思うのだが、しだいに自分の世界の小ささや、変わりばえのない生活に嫌気がさすようになり、「嫉妬」の感情へと変化する。


Dの世界はどんどん広がっていき、自分がいる世界とどんどん乖離していくのを感じ、遠い世界の人間になっていく。
一緒にいるのに見ている世界が違うというのは、想像よりもずっと寂しいものだ。
苛立ちをぶつけられることよりも、「寂しさ」の方が私は辛いと思う。


一言で表現すると、生活環境から生じる「すれ違い」であり、珍しいことではない。
ただ、このようなすれ違いによって離婚する夫婦も少なくない。それくらい、大きな溝になりうるものだ。


彼の世界は彼の世界、私の世界は私の世界と割り切る選択もきっとあったと思うし、もう無理と結論づけて別々の道を歩む選択もきっとあったと思う。しかし、私はDと同じ世界が見たいと思ったし、胸を張って隣で歩いていける人間になりたかった。
だから、Dの会社で働くことにした。


夫婦は基本的に他人同士のつながりである。
婚姻関係という制度によって守られてはいるが、自分たちで結んでいかなければすぐに解けてしまう、弱い糸だ。

起業家という呼ばれる人種は、人よりも少しわがままで、少し自信家で、少し冷酷だ。

このような側面を受け入れられるよう、私は人よりも少しだけ強い人間であろうと思う。

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