歯医者さんでファンフェ
80年代はじめ、私は小学校高学年でした。
私は富山県の田園風景広がるところ出身ですが、私の町には当時、3軒の歯科医院がありました。
一軒目は、痛いしすぐ歯を抜かれると噂のS歯科医院。待ち時間が少ないのが魅力。忙しい大人に人気でした。
二軒目と三軒目は、町の人気を二分していました。
私が小さい頃から行っているI歯科医院は、待合室がいつも人でごった返しており、廊下、玄関、外にまで、いつも人が溢れていました。待ち時間2時間は当たり前です。
名前を呼ばれて椅子に座ると、色んな機材や薬が並んでおり私は恐怖に怯えました。麻酔は抜歯でしか使われないので、治療は全て麻酔無しです。キュイーンと削られてる時も、ガリガリとされる時も、神経に触った途端に「ピキーン!」びっくり暁天痛すぎです。涙涙です。うがいの時間をわざとゆっくり長くしていました。
一年に一度の小学校の歯科検診。いつも虫歯がありませんようにと祈りましたが、毎年、何本かあって恐怖の通院に恐れおののいていました。
そして6年生。
小学校では、町の人気を二分するもう一方の、N歯科医院に行っている友達が沢山いました。待ち時間もそんなに長くないし先生が優しいよと聞いたので、6年生の歯科検診の紙を持って、初めてのN歯科医院に挑むことに決めました。
建物は少し狭め。待ち時間は、いつもの半分以下。初めての病院に、勝手が分からずそわそわしました。そして名前が呼ばれました。
治療はやはり麻酔を使わず、ビリンビリン。
先生が治療の終わり頃に、こう言いました。
「ファンフェ」
何だろう?初めて聞く単語。ここで使ってる器具の名前かな?
「ファンフェ」…「ファンフェ」…「ファンフェ」
どんどん先生の声が大きく荒っぽくなっていきます。衛生士さんなかなかファンフェという器具準備出来ないのかな?先生焦ってる?
「おかしいな、この子は寝てるのかな?」
と先生。そこで初めて私に言ってることに気付きました。
「ファンフェ」じゃなくて「噛んで」でした。
慌ててすぐに歯をぎゅっと噛みしめました。先生は滑舌が悪いのか、鼻が詰まってたのかは分かりませんでしたが、私はいつもとはまた違う汗をかいてしまいました。焦りすぎてドキドキしました。
N歯科医院に行ったのは、その一度きりになりました。
高校生になると、新しいT歯科医院ができました。そこに行くと、治療は麻酔をしてから始められて、痛くなくて嬉し〜いと感激したものです。
私の歯医者さんにまつわる懐かしい思い出です。