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社長はつらいよ

現場に出るのは社長のサボり

わたくし、今さらながらですが寅さんのファンで、ここ数年で『男はつらいよ』50作の大半を見ました。見れば見るほど、あの優しいけど素っ気ない、孤独だけど愛されている、ひねくれているけど憎めない、独特の世界観にはまり込んでいきます。

本当に寅さんってすごい性格していて、今の時代だったら〇〇障害とか診断されて、生き辛い人生だったかもしれません(架空の人物ですが)。そう考えると、大らかさがなくて世知辛い時代ですね、今は。

いや、寅さんはタイトルに掛けただけで、本題には何も関係ありません。

私は97年に独立して、曲がりなりにも24年くらいは社長をしています。法人の代表取締役としては、21年くらいでしょうか。

先日、こういうツイッターを見かけました。

これほんとにその通りだなと思って、思わずリツイートしました。社長が、社員から陰に陽に批判される定番ネタは「現場仕事をしない」。もうこれ、耳にタコができて久しいワードです。でも、現場仕事は社長のサボりなんです。

私はコンサルティングと同時に事業会社もやってますが、コンサルティングは経営層オンリー、事業会社は購買担当者がメインの話し相手です。毎日、いろいろと話をする中で、社員から一番聞くワードがこれ。「社長が現場に出てこないから間違った指示を出す」と。

「社長は他にやることあるでしょうよ」と笑いながら返すと、「ないない。普段会社の車で高級車に乗って、遅い時間に来て、掃除もしない」。

「掃除をしない」とまで陰で言われる経営者もかわいそうだなと思いながら、「御社は利益出てるでしょ?それが社長の仕事ですよ」と返すと、「そんなもん、俺らに一円も還元せずに、自分のベンツだけが新型になっていくんやで」と、社長の擁護をする私に対する声が大きくなってくる。

そこは結構利益を出している会社なので、それを一円も還元しないというのがもし本当なら、社員の気持ちもわからなくはありません。そのタイミングでベンツが新しくなっていたら尚更。でも、ベンツはリースかもしれないし、もちろんそれも会社名義なら会社のお金で払いますが、もしかしたら自分名義かもしれない。前期の利益は出ているけれど、今期に設備投資を控えているかもしれない。

掃除は・・・その意識を持たせてしまっているのは社長の責任かもしれません。誰が掃除するかは別にどうでもいいことですが、「社長が掃除しない」という批判があるのは、恐らく社内のコミュニケーションが取れていないのでしょう。

何より「現場に出ない」。現場に出ている経営者は、社長の仕事をしてないからそれができるのです。上のツイートにあるように、それはサボっているのです。

社長だの専務、常務、部長、課長などというのは、別に法的な区別ではなく、単に社内の役割分担を示す名称です。社長には現場に出る以外の役割があります。その役割を無視して現場に出ていると、機能不全に陥ります。経営的に苦しい時や、人手が足りない時などに社長が現場に出ることはあると思いますが、それが長く続くと確実に機能不全になります。

でも、社長は現場仕事楽しいんです。スキルはあるし、何より現実逃避になるから。現場仕事は社長の逃げなのです

でもね、自分がサラリーマンの時を思い出しても、「このおっさん、普段何やってんだ?」と思ったことはあります。「俺には社長業があるから」と言った時に「うそこけ、ハゲ」と心の中で思ったこともあります。いま自分がそう言われるのは、その罰に違いない。

そんなものなのかもしれません。そして、こういうことも「社員とコミュニケーション取れていない社長の責任」と言われるのです。ていうか、そうなのです。

いやあ、つらい。

『経営者は孤独』は本当か

経営者は孤独だとよく言われます。そりゃ、昼も夜も常に誰かと食事するし、経営者仲間もたくさんいる(個人差はあるでしょうけれど)ので、それはないでしょうと思われるかもしれません。

でもね、経営者同士の仲間って、割と競い合ってるんですよ。刺激を受け合う仲間ではあるし、みんな向上心があって、楽しいし学びにもなるのですが、誰かが苦境に陥ったとしたら、割と影で「あのやり方では、、、」とかの批評をしたりしてます。悪口という次元ではなく、常にテクニカルな目線なんですよね。集客、販売、技術、採用、資金繰りなどの(悪口言う奴もたまにいますが、そんな奴は即刻縁を切るべきです)。なので、テクニカルなアドバイスはあったりしますが、感情的な優しさ(=甘さでもある)はありません

それを求めているわけでもないので、テクニカルな助言がありがたいのですよ。自分もテクニカルな話が大好きだし。ただ、何というか、燃えてくる炎とじんわり温まる薪の火の違いというか。左脳と右脳というか。

プライベートな仲間は全く違って、薪の火です。でも逆に経営のことわかりません。テクニカルな話ができない(どっちやねん)。なんというか、微妙な感じなんですが、苦しい時はどっちにしても満たされないんですよ。

もちろん、家族の支えは大きいです。でも、自分が支えないといけない家族に対して、心が弱ったときにそれを知られたくないという気持ちもある。ここも人によって違いますが、少なくとも私はそれが強いようです。家族を不安にさせたくないじゃないですか。まあ、これはそれぞれの性格や関係性によってまちまちだし、私も長く経営して、様々な波を経験もしたので、今は以前とは少し違います。

そして、社員からは「現場に出ない」と非難される。直接言われるのは、まだ関係性が良好な証拠で、だいたい陰で言われてます。でも、だいたいわかりますよね、陰で言われていることくらい。

そういうのが、経営者は孤独と言われる所以じゃないかなと思います。

見栄を捨てる

仲間は大事、友達も大事、家族も大事、社員も大事。でも、最後には家族ですかね。そう思います。いろいろ言えない(というか言いたくない)こともあるけれど、それを乗り越えたらより分かり合えるような気がします。

仲間、友人、家族、社員。それぞれ立場は違うけれど、同じ人間です。機械で動いているわけではない。なんか格好悪いなとか、家族や社員に対しては強く見せたいという見栄を捨てて、ぶっちゃけて本音を話すと、相手からも本音が返ってきて、通じ合える。そんなものだと思います。見栄を捨てた瞬間に、孤独から解放されるのでしょう

経営者でなければピンとこない話でしたが、いずれにしても、それぞれを大切にしながら、今日も孤独じゃないようで孤独なようでやっぱり孤独じゃない社長業に勤しんでまいりましょう。

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