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【実際に起こった話】起業したら気をつけたいスタートアップ労務の実務トラブル5選

この記事は労務 Advent Calendar 2020として発信してます。

InsurTechのスタートアップhokanでSBO(スタートアップバックオフィス)をしています。経理財務労務法務総務広報採用営業事務など、スタートアップで浅く広く発生するバックオフィス業務全般を担当しています。

去年の労務アドベントカレンダーではこんな記事を書きました。

今年は過去に経験したスタートアップの労務トラブルについて書きたいと思います。実務作業よりです。

スタートアップが毎年多く創業される昨今、スタートアップバックオフィスの重要性も注目されるようになりました。

スタートアップのバックオフィスは労務回りから整えるべきと考えています。大切な従業員のお金や生活のことだから、創業して人を雇うことにしたなら覚悟を持ってきちんとして欲しいところ。

あとあと失敗に気づいて修正できなくはない。でも起きた事のやり直しって、初めから正しくやるよりも工数がかかります。

すごく基本的すぎて地味な内容になりそうですが、これから起業する方や起業後間もない方が、同じ苦労をせずに整える役に立てばいいなと思います。

① 住民税特別徴収とは?

- 住民税の金額を給与明細で更新していなかった

- 特別徴収の手続きをしていなかった

ことの発端は「住民税還付の手続きのお知らせ」というハガキ。
多く支払うと還付してくれます。足りないと督促されます。

特別徴収とは、事業主が社員の住民税を天引きし代わって納税すること。

内容を確認すると、今年の住民税額を反映できていなかった社員がいました。
他でも、特別徴収の手続きができていなかったり、退職社員の異動届を出せていなかったりという手続き漏れが発覚。

月次決算をしていると翌月には容易に見つけられて修正が可能ですが、長期間になると金額も大きくなるのでなかなか大変です。社員の生活へのインパクトもあります。

キャッシュの支払いはできるだけ後にするのが鉄則。でもオペレーションコストを考えると先に支払ってしまいたいところ。それでも途中退社があったりしたらさらに面倒。

あなどるなかれ住民税。

《住民税についての基本》

-事業主は給与所得者の住民税を原則、給与天引しなければならない。

-手続きのタイミングは2回。入社時と、年始の給与支払報告書提出時。

-入社時は、給与所得者の1月1日の居住市町村に異動届書類(居住市町村のHPで特別徴収を検索)を郵送して、住民税額の決定通知書を受け取る。前職で異動届を用意してもらうのがベスト。

-1月から12月の給与所得等をに基づき、翌6月から1年間で天引きを行う。


② 標準報酬月額の金額はいついくらで決まる?

ある日届いた年金事務所からの来所通知。
なんだか怖い雰囲気がするけど行かないといけないらしい。結果、怖くもなんともなくて、間違えてるから修正してくださいねということでした。

- 標準報酬月額に通勤手当を含めていなかった

- 定時改訂/随時改訂をしていなかった

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入社時に健康保険/厚生年金加入の手続きを年金事務所宛に行います。その際に標準報酬月額が決まります。

社員に支払う報酬に基づいて保険料等が決定しますが、報酬に含まれる手当の額を加味していなかったことが原因でした。

他にも、4.5.6月の3か月の報酬に基づいて毎年9月に定時改訂が行われたり、
報酬額の変更で3か月平均の額が2等級以上変わると手続きしないといけない随時改訂があります。

役員の定時・随時改訂は遡及手続きに株主総会議事録など書類が必要でこれがまた面倒。

MFやfreeeなどの給与ツールを使っていればお知らせしてくれるので抜け漏れが防げます。

《標準報酬月額についての基本》

-年金事務所で手続きをする。郵送可。smartHRだと超簡単。

-報酬額によって標準報酬月額の等級が決まり、等級で社会保険料などが決まる。

-標準報酬月額には月額の給与に通勤手当などの毎月支払う手当も含める。

-手続きのタイミングは2回+α。入社時と7月頃の算定基礎届の提出(書類が届く)。給与等の金額に改定があったときは3か月平均で2等級以上変更があれば届け出る。

-従業員が満40歳に達したら介護保険料が発生する。

-おおまかに社会保険料は会社と従業員が折半という負担がある。


③ 雇用保険って誰を加入させないといけないの?

いよいよ新入社員の入社手続きというタスクが到来。住民税も標準報酬月額も完璧。
もうひとつ残ってました雇用保険。該当者だけきちんと全員手続きできてる?

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- 雇用保険に加入していない従業員がいた

- 雇用保険料を引いていない従業員がいた

- 非該当者から控除してしまっていた

雇用保険は、適用基準を満たす人は加入しなければなりません。

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役員や学生アルバイトの給与明細(役員報酬明細)に雇用保険料が含まれていたり、加入しているはずなのに保険料引いてなかったり、、

不安になって照会してみました。いますよね加入手続きできていなかった人。

雇用保険の加入は遡って可能。でも2年以上遡るのは手続きがややこしい。資料の現場での保管義務が2年で、それ以前のものは本部の倉庫にあるから取り寄せのための書類が云云かんぬん。

結果、雇用保険料の控除をし損ねていた分は会社が保険料を負担をし謝罪。
ごめんなさい。

《雇用保険についての基本》

-ハローワークで手続きをする。

-求職者給付や育児/介護休業給付は雇用保険の制度。

-基本は転職をしても1つの被保険者番号を引き継ぐ。5年ブランクが空くとリセットされる。

-適用は正社員だけではない。扶養の範囲内で働いているパートの方なども雇用して適用基準を満たせば加入手続きが必要。

-役員は雇用関係にないので雇用保険に適用にはならない。


今は便利な人事労務系のツールが充実しています。ぜひ早く導入して給与明細の作成や社会保険の手続きの課題は解消してください! 

設定時の入力は間違えないように、、!報酬や手当の額、社保や雇用保険の加入状況、住民税の額、所得税の甲乙丙や扶養家族情報など。


④ 有給休暇多め付与はリスク!?

その会社は、有給休暇を法定よりも多く、20日付与していました。夏休みや年末年始休暇、傷病休暇も含めた意向です。いい会社〜。

ある時従業員が、雇用して6か月目で退職の意向を示し、20日の有給を取得して辞めてしまった、、!

採用時の課題はさておき、キャッシュリッチでないスタートアップがjoinして6か月の従業員に丸1か月の報酬を支払うのは正直苦しい。。

有給は本来、従業員の疲労回復や健康維持が目的。辞めていく従業員に取得の権利はあるの、、!?

就業規則にも雇用契約書にも20日と書いている。労働基準法の傘下にしてしまっては免れない。

この場合特別休暇として設計していれば、法の定めはないため、うまく運用できたかも。

一度設定したルールを不利益変更することは容易なことではありません。
創業まもなくは母数が少なくカルチャーも定まっていないため、社員のためのステキなルールも、早くから法定以上の設定をすることで後々のリスクになってしまう可能性もあります。

有給休暇はまずは法定通りに。別途特別休暇を付与して、時々の運用でカバーできるような方法をオススメしたい。

《年次有給休暇についての基本》
-労基法で「雇用した日から数えて6ヶ月間勤務を継続し、かつ勤務日の80%以上働いた従業員に対しては、10日分の有給休暇を与えなければならない。
-年5日の取得をしていない社員には時期を指定して5日間取得させなければならない。
-付与のタイミングは会社の定めた日に社員全員に一斉に付与しても、個別に入社日ベースで付与してもよい。
-買い取りという考え方はない。
-パートやアルバイトでも要件を満たせば付与しければならない。

⑤ 法定休日/振休/代休/シフトで混乱極まる給与計算


1分単位の緻密な給与計算をするにあたってぶち当たった壁は、「一部正社員のシフト制」でした。ちょっとややこしすぎるので内容は割愛します。

とりあえずパターンを増やすとルールもオペレーションも大変なことになります。業種や社員個人の都合で、みんな同じにはできないこともあるけれど、できる限りシンプルな勤務パターンの設計をしたいところです。

《勤怠も給与計算にまつわる基本》

-年俸制という名称であれ、裁量労働制であれ、深夜時間や休日勤務には割増賃金が発生する。

-社員に1週間40時間以上働いてもらうには労基署に協定届の提出が必要。

-振替休日と代休は全く別物。法律には代休という考え方はない。

-労基法で、事業主は毎週1回または4週を通じて4日の休日を設定しなくてはいけない。


カオスはまだまだ出てきますが、キリがないので今日はこのへんで。


基本的にやらないといけないことは厚生労働省が案内していて、その手続き方法は、日本年金機構やハローワークのホームページで検索すれば答えが載っています。
ネットで検索すると多数の記事がでてきますが、制度は随時変更されるので過去記事を信頼しすぎないようにしてください。

そしてMFやfreee、smartHRなどの労務ツールを導入していれば、手続きのタイミングも必要な情報も教えてくれて、計算もしてくれるので是非早めに導入するとよいように思います!


スタートアップの労務手続きは組織づくりの土台!

おしまい。


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