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流星②

祖母の兄が80年前に書いた病床日誌を読み進めると、なんとも不思議な気持ちと可愛らしさと切なさと悔しさが同時に押し寄せてきます。

不思議な、というのは、80年も前に書かれた日誌を今こうして時を超えて読んでいること。可愛らしさというのは、23歳という若い男子の憧れや欲求そのものが45歳の私にとって可愛らしさを感じます。
切なさや悔しさ。。。そんなありふれた言葉でまとめられるはずがない。23歳の若者らしく夢や希望を持っていただろうに、結核のために床に伏せる日々を送ることになり、普通に朝起きて一日を始めることすら叶わず、自分がどうなってしまうのか不安で胸が張り裂けそうな中、自分の思いと残酷な現実に折り合いをつけようと、一生懸命にこの病床日誌を綴ったことでしょう。

日誌はこの日から始まります。

昭和15年 4月30日

胸のため病の床に臥してより
はや一月は過ぎ去りにけり

今日は良い天氣
だけど僕は病床の中
雲は飛ぶけど
僕の心はさっぱりとばない

すぶた食いたし
寿司食べたし

若き胸は
食い物で埋まる

土手に上れば
さぞ美しからむ
赤くつるべに夕焼けぞする

せきも出ず たんも出でざる 常の身に
早くなりたし外は青空

寿司を思ふと
屋台店を思い出す
「鮪の赤いところ」
「ホイキタ」
熱いお茶で

食べるまぐろ
「しゃこ」だ
しゃこ旨い

そして最後は鉄火巻き

幾月か前
遠い味覺
忘れずに居る僕

その味覺を病んだ今
思い出しては
寿司にあこがれる


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