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読後感想『時間は存在しない』〜再びエントロピーの問題〜

カルロ・ロヴェッリの「時間は存在しない」をようやく完読しました。

第3部9章あたりまで読んだら、息子に持っていかれて中断。その間に「そーいえば、エントロピーって」と、思い出したことがあり、書いたのが以下のnote。

完読して、改めて感じたことと、上記で触れた「エントロピー」について自分のメモがわりに、ちょっとまとめてみようかと思います。素人考えの勝手な解釈ではありますが、お許しを。

色々な解釈があるらしいエントロピー

息子に持ってかれたときに読んでいた箇所から、26ページ後にこう書かれていました。

...生命はエントロピーを増大させるための様々な過程のネットワークなのだ。...(略)...生命は極めて秩序だった構造を生み出すとか、局所的にエントロピーを減少させるといわれていることが多いが、これは事実ではない。

ロヴェッリは、「エントロピー」について、上述のnoteに上げたこととはほぼ真逆なことを書いています。

「生命誕生」以来数年間、「ビッグバン以降、エントロピーは最小化に向かっていく」という説に衝撃を受け、それならば、と「死」について自分なりに考えたのが上記のnoteでした。

おそらく世界には、いろんな立場の様々な考えがあるのでしょう...。

いずれにせよ、「死」とは、エントロピーを最大化するんだから、なぜ死ななければならないの?というところから、お粗末ながら組み立ててみたこの自論は、あっという間に崩れていきました(苦笑)

まぁ、よく考えてみれば、そんな壮大なテーマ、一介のおばちゃんが簡単にわかるような単純なものであるはずがなく、「顔洗って出直して」と神様に一蹴されたような処かと。

過去と未来の違い

で、そのエントロピーの話以降、ロヴェッリの語り口は、ますます鋭利に、美しくなっていきます。

宇宙が存在することになったこと自体が、シャッフルによって一組のトランプの秩序が崩れていくような、緩やかな秩序化の過程なのだ。
過去と未来の違いは、過去が現在のなかに痕跡を残す、ということだ。
過去と未来の差を生み出すものは、かつてエントロピーが低かったという事実以外にない。
時間という特別な変数はなく、過去と未来に差はなく、時空もない。(略)それどころか、わたしたちのこの世界はものではなく、出来事からなる世界なのだ。


それでもなぜ、過去を過去と捉えることができるのか。なぜわたしたちは、「一つにまとまっている」と感じるのか。

それは、宇宙始まって以来の壮大なエントロピー増大の歴史の一つの結果であり、痕跡がもたらす記憶のおかげなのだそうです。

私たちの視点からは、「エントロピーの増大が過去と未来の差を生み出し、宇宙の展開を先導し、それにより過去の痕跡、残滓、記憶の存在が決まるのだ」と。

痕跡は、エントロピーが劣化して、エネルギーになった際に、熱を帯びて止まる。その時に生じるものだそうです。

だから、一度止まった痕跡が、記憶として現在に存在するものらしい。

「懐かしさ」とは

そこで思ったのは、「懐かしい」という感覚。

例えば、30年ぶりに会った高校の同級生は「懐かしい」と感じる。

でも、もし同級生と同じ職場で、毎日顔を合わせていたら、「懐かしい」とは思わない。

それって一度止まって、痕跡ができたからなんじゃないだろうか。

同級生と毎日会っていれば、懐かしいと思わないし、多分、会社に行くことが未来永劫続くなら、その間延々と同級生に会い続けることになるでしょう。

そうしたら、見た目は過去も未来も区別がないことになりますね。

実際には、日々細かく「痕跡ができる」わけで、だから顔には皺もできるし、転べば青あざができるし、白髪も増えていくわけですが。

ロヴェッリは、壮大な時間の旅を巡り、最後に、時を感じる「自分」というものに帰っていきます。

時間のない世界から、私たちの知覚がどのように生じるか。

それには、「私たち自身が一役買っていた。わたしたちの視点からは、この世界が時間のなかを流れるのが見える」とロヴェッリは言います。

自分の知覚構造の中で時間を時間として感じる。それは、痕跡、記憶があるから。だから、自分の中でしか時間は存在しない。

考えてみれば、「懐かしさ」ほど愛おしい感覚はないように思います。歳をとって、懐かしいなと感じるものが増えていくのは、逆にどんどん豊かになっていくような気がして。

痕跡が増えるということは、ある意味どんな財産よりも素敵なのではないだろうか。

「時間は存在しない」で、視点が動いた

正直物理学って、数字でしかないと思っていたのですが、こんなに美しく詩的に説明され得るものだったのかと、とても感激しています。

同じ世の中であっても「時間は存在しない」を読む前と後では、世界がかなり違って見える。それこそ、視点がすっかり動かされた気がします。

感動には、熱が伴う。熱はエントロピーが劣化してエネルギーに変わって生じるもの。そこで止まるから、痕跡ができる。

感動も過去を表す痕跡の一つになっていくのかもしれません。

こうやって、人は死ぬまで痕跡を増やし続けていく。なんだか、とても豊かな気持ちになるなぁ。

改めて「死」を考え続ける

「時間は存在しない」を読んで、「死」の謎は、より深まりました笑
また一から出直し、どころか、随分前に引き戻された気分ですが、そこはかとない爽快感が心地よいです。

考えてもわからないけれど、考えずにはおられない。

だからこそ、宗教とか哲学とか物理学といった学問が生まれ育っていったのかもしれません。

***

痕跡が増え続けると、身体の方に限度が来て、次の身体に乗り換えるのだろうか?

進化は、増大するエントロピーに耐えうる身体、視点にアップグレードさせるものなのか?

増大し続けるエントロピーは死を迎えて最大化するとしたら、死は個体として最大に進化したということなのだろうか?

***

結局、増え続けるはてなマークを抱えることになりましたが、わからないからこそ、もっと知りたいわけで、それが学ぶことの醍醐味ではないかと思います。

ありがたいものを紹介していただきました。
同書を紹介してくれた惑星ソムニウムさん、ありがとう。












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