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天井裏から愛を込めて 2

前回のお話し
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当時の遠距離恋愛といえば、手紙のやり取りが主だ。
たまに電話もしたが、お金がかなりかかってしまうので、確か月に一度か二度だったと思う。
慣れない仕事をしながらも、彼女からの手紙を読む度に頑張ろうと思った。
手紙には、今日何があったよとか、ずいぶん痩せてしまったよとか、まあそんな他愛のない報告なのだが、それだけでも十分だった。

一度、やりたいこともやらずに仕事ばかりの毎日を送る自分がかっこ悪い、みたいな事を手紙に書いて、叱られた事もあった。
仕事をしながらでもやりたい事だってできるはず。バンドをやってないとJUMBOではないよ、とも言われた。
そしていつも手紙の最後は、お互いを想う気持ちで締めくくられていた。

成田空港に就職をして5ヶ月が過ぎようとしていた頃、手紙が届いた。
内容は…忘れた。
破り捨ててしまったからだ。

別れの手紙を受け取って次の夜勤明けに、彼女に会いに行った。
どうしても諦められなくて、兎に角会って話しをしたかったのだ。
バイト先の入口から出てきた彼女を見つけて、お互いに微笑んだ。
5ヶ月ぶりの再会だった。
そして夜の公園で話をした。

彼女は、俺を好きだという気持ちは変わらないと言う。
でも側にいないとだめなのと言う。
俺は仕事を辞めるとも言ったし、北海道に戻るとも言ったが、そんな事を言わないでと言われた。
未練がましく何度も説得をしたが取り付く島もない。
俺は泣いていたと思う。
最後に一つだけ、俺をずっと好きでいると言って欲しいと頼んだ。
うん。と彼女は言った。
その言葉は嘘でも良かった。
なぜなら、そこから歩き出すために(比喩的な意味ではなく、まさにその公園から)その言葉にしがみつかなければ、踏み出す事が出来そうにもなかったから。

高校を卒業して間もない、何もかも失った気分の若者に、仕事が手につくはずはなかった。
ある日の手紙の事を思い出す。バンドをやってないと俺ではないと。

次の日、ある男に電話をかけた。
高校時代にバンドをやっていた頃の友達で、東京に出てきていると聞いていたSだ。
雑誌の名ではないが、バンドやろうぜ!という訳である。
とりあえず会うことになり、上野で待ち合わせをして、Sが来た。

その後、ホームレス時代へと突入するのだが、それはまた次回のお話し。

つづく
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ホームレスhttps://note.com/tomokitta1/n/n37ed06ebab4a



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