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天井裏から愛を込めて

(読者第1号になると言ってくれた、さえり先輩に捧ぐ)


高校3年の秋、初めて彼女ができた。
好きになったのは2年生に進級した時のクラス替えで同じクラスになった頃。
小さくて泣き出しそうな目がとても可愛い女性で、1年以上の片思いの末に勇気を出して告白したのである。

付き合う前から彼女の事が大好きだった。
どのくらい好きだったかというと…
彼女はケンタッキーでバイトをしており、ある日、その店の前を(彼女はいるのだろうか。一目みたいな)と中を伺いながら歩いていると、突然、目の前が真っ暗になりその後チカチカと星のようなものが見えて目を開けると仰向けになっていた。
…電信柱に激突したのである。
まさに、盲目になるほど大好きだったのだ。

彼女は音楽が好きで、80年半ばに巻き起こったパンクブームの影響で、ZELDA、KENZI&THE TRIPS、LAUGHIN' NOSE等をよく聴いていた。
俺は、他の学校の友達とバンドをやっていて、付き合い出す前からライブハウスにもよく見に来てくれていた。
学園祭の話題が上がり始める頃、彼女はZELDAのコピーバンドをやりたいと言い出し、俺にベースをやってくれないかと、頼みに来た。
無論、(実際は、格好をつけてう〜んまあ…などと言ったが、気持ち的には)二つ返事で引き受けた。
経験者の俺がなしくずし的にリーダーのようになってしまったので、スタジオに入り練習したり、打ち合わせしたりと、二人は急激に仲良くなっていった。
そして、学園祭も無事に終わり一息ついた頃、意を決して告白をしたのだ。
彼女は、いろいろと言っていたが、最終的にこんな私でも良ければ…的な事を言って了解してくれた。
初めての彼女。
楽しくないわけが無い。
毎日が夢のようで、甘い。
手を繋いだり、腕を組んだり、唇を重ねたり。とにかく彼女に触れるたびに胸がギュっとなった。
当然、セックスもした。
俺にとっては、初めての人だった。
だが、彼女は初めてではなかった。
それが悔しかったのか、格好をつけたかったのか、俺も初めてではないよと言った。
もう会うことはないと思うが、もしも…もしも奇跡が起きて、死ぬ前に彼女に会うことが出来たなら、君が初めての女性だったと伝えたい。

年が明けて、88年の春、俺達は卒業した。
彼女は地元の保育士の短期大学へ、俺は成田空港の飛行機の清掃整備会社へ就職した。
出発の空港には、母親(俺の)と彼女が見送りに来てくれた。
彼女は、KENZI&THE TRIPSの新譜、
Sweet Dreams Baby!のレコードを俺に返そうと持ってきていたが、そのままプレゼントした。

彼女は泣いていた。
ついでに、母親も泣いていた。

俺は悲しくはなかった。
短大を卒業する2年後には、また一緒にいられると当然のように思っていたし、結婚とか将来の事なんかを考えていた訳ではないが、何故か何の不安もなかった。

そうして、北海道と千葉県という超遠距離恋愛が始まったのである。

成田空港の仕事は、
1日目 8:00〜20:00
2日目 11:00〜23:00
3日目 20:00〜8:00
4日目 明け
5日目 休み
という5日シフトの繰り返しで、卒業したての青二才にはとてつもなくハードだった。
着陸してきた飛行機に洗剤を噴射して、3メートルのモップで下からひたすら洗う。
または、乗客の荷物をベルトコンベアに投げ(時間との勝負なのだ)る。
夜勤明けの朝は、寮の先輩達とマージャンがある。
身体が休まるわけがない。

部屋にあるのは、備え付けのパイプベッドと、実家から持ってきたダブルデッキの真っ赤なラジカセだけ。唯一の楽しみは、深夜に聴くラジオ。そして、心の支えは、田舎に残してきた大好きな彼女だった。


当時、ラジオから流れた曲
アンジーの天井裏から愛を込めて
その時の気持ちが重なります。


つづく
天井裏から愛を込めて 2
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https://note.com/tomokitta1/n/n72c6988edc40


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