『海馬を求めて潜水を』
2023年2月5日加筆修正
いくつかは変わってしまったけど
生涯思い出す場所がある
ずっと変わらないものもあれば、そうでないものも
姿を消した場所もあれば、残っているものも
そんな場所で恋人たちや友人たちと過ごした
ひとときを今でも思い出す
亡くなった人も入れば、生きている人もいる
僕の人生で出会った愛しい人たち
「記憶」という言葉からは「天才的な記憶力が有りさえすれば、僕の人生はもっと素晴らしいものになったに違いない」とかつい思ってしまう浅はかものの僕ですが、この本を読んで「記憶」についてもっと深く考えるきっかけになった本です。
『海馬を求めて潜水を』には確か二年ほど前に出会いました。
ノルウェーのジャーナリストの姉(ヒルデ)と心理神経学の准教授の妹(イルヴァ)、姉妹が“記憶”の正体を探るべく旅をします。
まずは、表紙の海馬(たつのおとしご)の話しから始まり、脳内の海馬の話しにうつる。
今では、考えられないことだが、1950年代てんかん発作の治療の為、海馬の摘出手術が行われていた。
この手術がきっかけで「記憶」が脳のどの部位で定着することの足がかりになっている。
脳科学それも「記憶」に特化した内容だが、難しい話しだけではなく、ノルウェーの姉妹が「記憶」をテーマに色とりどりの「記憶」を紡いでいきます。
ザ・ビートルズ『ノルウェーの森』
この本を読む時はビートルズをかけながら読むといいですよ!
と言うのも、この姉妹はどうもビートルズの大ファンのようで文中にビートルズがよく出てきます。
ザ・ビートルズ『ノルウェーの森』の流れで村上春樹の『ノルウェーの森』も出てきたりもします。
脳の手術によって、記憶が無くなってなっしまった人
忘れることができない人
水中での記憶実験
アルツハイマーの謎
音楽と結びつく記憶
マドレーヌと記憶(プルースト)
ノルウェー国家のトラウマ
スカイダイバーの記憶
タクシー運転手の記憶
正常な記憶に忍び込む虚偽記憶
専門用語も出てきますが、文学的な要素も沢山感じられる作品ですね。
ノルウェー国家のトラウマになったウトヤ島の記憶
若年性アルツハイマーを発症した言語学者がモデルの
『アリスのままで』
実験や事件、身近な疑問と「記憶」にまつわるエピソードを紹介していて、興味深く、時には絶望感も味わいながら読み進めるも、最後には清々しい気分になるそんな本です。
ヒルデ:私はもっと忘れたいわ。つまり、人生における否定的な経験を。
そんなの永遠に消えてくれたらいいのに。忘却は過少評価されている。
イルヴァ:悲しい思い出だって真珠のネックレスの一粒なのだから
忘れることが必ずしもよいことだとは言えないわ。
それでも私は、日常生活の忘却については異議を唱えたかったの。
いつでもどんなことでも記憶しておこうという試みはやめるべきよね。
この本のエンドロールがビートルズの『イン・マイ・ライフ』です。
追伸:著者のヒルデとイルヴァには勿論感謝ですが、翻訳に携わられた中村冬美氏、羽根由氏も大変ご苦労されたかと察して感謝とエールを贈ります。