スキーマの違いを意識して合理的に学ぶ 【今井むつみ著 英語独習法】
楽してではなく合理的に楽しみながら英語の達人になろう
ー今井むつみ(2020)『英語独習法』岩波新書 帯より引用
多くの人が悩む外国語、英語。
その英語を題材に合理的な学習法について紹介されている、
今井むつみ先生の新著『英語独習法』をご紹介します。
あなたの英語学習法は合理的?
日本に住む多くの人は、学校教育の中で英語を学び、
もしかすると、その方法としてすぐ思い浮かぶのは、
・単語・イディオム・文法を暗記する
・文章をたくさん読む
・たくさんたくさんできることをやって頭に詰め込む
・穴埋め問題をたくさん解く
・英会話スクールに通って会話を練習する
などではないでしょうか?
私も例に漏れず、中学校から英語を習いましたが、まずは単語と文法の暗記からした記憶があります。
では、果たして、上のように「暗記」する英語の学習法は合理的と言えるのでしょうか?
本文冒頭にはこのように書かれています。
本書の第一の目的は、認知科学で知られている「学習の法則」を外国学習に当てはめ、さらに英語の特徴を勘案しながら、英語学習の合理的な学習法を提案することである。「合理的な学習法を提案する」だけでなく、「その理由としくみを解説する」ということが本書の特徴でこれまでの英語学習の数多の書物と違うところだと自負している。
ー本文「はじめに」iより。
学習法には、合理的なものと、不合理なものとの二つがあり、
そして、言語学習においても、理由と仕組みを理解する、
ということも重要なポイントであることがここからわかります。
キーワードは “スキーマ”
上の文章で「認知科学」というキーワードが出てきました。初耳の方もいらっしゃると思うのですが、認知科学とは、一言でいうと
ヒトの「心」を、例えばコンピュータのような情報を処理する主体として捉え、どのようなメカニズムなのかを実証的に解明していく科学
だと、私は解釈しています。
では、ここでいう「学習の法則」とはどんなものなのでしょうか?
その鍵となるコンセプトは「スキーマ」です。
本文中には下記のように書かれています。
本書でもっとも大事な概念である「スキーマ」について、ここで紹介しよう。スキーマというのは認知心理学の鍵概念で、一言でいいえば、ある事柄についての枠組みとなる知識である。
ー本文 p27より
例えば、本文の例を使うと、日本語が母語(ネイティブ)の人は、日本語話者のスキーマによって物事を捉えることができるため、
「着る」という一言で、「服を身につける動作」と「服を身に着けている状態」の両方を認識し、表現することが出来ます。
さらに、この動作と状態をそもそも無意識的に切り分けていません。
しかし、英語が母語(ネイティブ)の人は英語話者のスキーマによって物事を捉えることができるため、
"wear" は「服を身に着けているという状態」を示し、"put on" で「服を身につける動作」を示し、動作と状態を無意識的に切り離して考えます。
つまり、ここからわかる重要なことは、
「私たちは、無意識のうちに自分の持つスキーマによって考え方の枠が決められてしまっている」
ということです!
例えば、これを意識していないと、日本語話者のスキーマと、英語話者のスキーマが大きくことなるため、「服を着る動作」を表すのに、学校でよく教わる "wear" という「服を着る状態」の動詞を使ってしまい、
所謂「日本人のヘンな英語」が生まれてしまうのです。
つまり、日本語が母語(ネイティブ)の人は、英語を使うときに
「英語が母語(ネイティブ)の人は、どんなスキーマを持つのか」
そして、
「日本語が母語(ネイティブ)の自分は、どんなスキーマを持っているか」
の二つの違いを意識しながら、学習をしていくことが、
まさに学習の法則を応用した合理的な学習方法といえるでしょう。
質よりも量で学ぶしかない?
そして、私たちは自分の母語(ネイティブ)のスキーマを持つだけでなく、今までで身につけた言語の学習法についても
「暗記型英語学習法スキーマ」を持っているのではないかと、
本書を読んでいる時に気づきました。
特に「多読」について人々が持っている幻想について本書では語られています。
英語を苦痛なく読めて情報を読み取ることができれば大きなアドバンテージとなる。
(中略)
しかし、多読を英語運用能力を全般的に高める万能薬のように思うことは間違いである。多読がもたらす効用には限界があり、語彙の広がりと深さを得るという目的に多読はほとんど役に立たないのである。
ー 本文 p.144 より
反省的になると、私も含め、多くの人たちは「無闇に沢山覚える」「無闇に沢山読む」ということを無意識のうちに、しているかもしれません。
沢山覚えたり、読んだりするだけでは、確かに英文を読むスピードは格段に上がりましたし、理解もできるようになった実感はあるものの、
英語を使って話たり書いたりすること自体はなかなか上手にならないところは、私の悩みでもありました。
「楽してではなく合理的に楽しみながら英語の達人になろう」
ー 本書帯より
まさに、「認知科学型英語学習スキーマ」をよく表すこの一文。
帯が中身をよく表現するように、「合理的に楽しみながら」英語を学びたい人へのガイドとなる一冊です。
英語を学び直したいすべての皆さんに
「合理的」な英語学習方法を提案する今までにない一冊。
世にあふれるハウツー学習本をやってみて、なかなかうまくいかない人や、これから英語を学びなおしたい人にこそ、おすすめの一冊です!
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その他、おすすめの今井むつみ先生の著書はこちらからもどうぞ
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