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(ときには)過ぎたるはなお及ばざるがごとし(2) 『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著

5/15の記事では、情報が少ないほうがより意思決定も上手くいく5つの場合のうち、始めの2つを紹介した。

ヒューリスティックス(Heuristics)」の働き5パターン

1.役に立つ程度の無知
再認ヒューリスティックが良い例だが、直感はかなりの量の知識と情報を凌ぐ働きをする。
2.無意識の運動スキル
熟達したエキスパートの直感は無意識のスキルに基づいているため、考えすぎるとスキルを発揮できなくなることがある。
3.認知限界
私たちの脳は、忘れたり、小さく始めたりといった、過剰情報処理の危険から私たちを守る為のメカニズムが内蔵されているようだ。認知限界が無ければ、人間は今のような知的機能を備えていないはずである。
4.選択の自由の矛盾
選択肢が多いほど葛藤が生まれる可能性は増大し、ひいては選択肢の比較が一層難しくなる。選択肢が多く、品揃えが豊富で、選択の幅が広いと、売り手と消費者のどちらも損をするポイントがある。
5.シンプルさのメリット
不確実な世界では、単純な経験則の予測力は複雑な法則のそれに勝るとも劣らない。

3.認知限界

みなさんはこんなことを親に言われた経験がないだろうか?私はあった。

「智(私のこと)は小さい頃、たくさん車の名前を細かく覚えていて、もしかしたら天才なんじゃないか?って思ったんだけど、あっという間に忘れていっちゃったよね」

小さい頃、車好きだった私はそれこそ、詳しい車の名前を沢山記憶して、それをよく親に披露していたらしい。

もしかしたらそれが「電車の名前」かもしれないし、「昆虫の名前」かもしれない。小さい子はそういった具体的で細かい「名前」を覚えるのが得意なようなことがある。

しかし、成長するにしたがってそれを忘れていってしまうことが常だ。

これは「必要なことに認知資源を割くために、不要なことは忘れる」という認知システムが働いているからだ。

赤ちゃんのときには、周囲の情報の細かい一つ一つを貪欲に取り入れていく。そして、ことばを得るにしたがって、「ことば」を聞き取ること意外に不要な情報には目もくれなくなり、耳に入れなくなる。

つまり、「言語を獲得していく」ということは、「言語以外の不要な音は無視する」ということなのだ。「何かができる」ためには「何かができなくなる」ひつようがあることが、認知限界の本質だ。

機械学習の一分野である、音声認識も、ノイズを処理しなければ様々な状況で音を聞き取ることはできない。

「カクテルパーティー効果」という心理現象も発見されているが、これもまた面白い。下のような場面に出会ったことはないだろうか。

ガヤガヤしている街の喧騒の中で自分の名前を呼ばれたことに気づいた。

これは、音声認識の文脈から考えるとすごく不思議なことで、ノイズと自分の名前を聞き分けられる人間の凄さでもある。

4.選択の自由の矛盾

選択の自由は矛盾する。オプションが多すぎることは、買い手にとって大変不利益なことだ。これは認知限界にも関係していることだ。

例)携帯電話のオプション

私がこの言葉を聞いて最もはじめに思い浮かんだのは「携帯電話のオプション」だ。

携帯電話を契約したことがある人なら誰でも、「たくさんのオプション」を勧められた経験があるだろう。

しかし、そのどれも「いらない」といった回答をすることがほとんどではないだろうか?

その中にも幾つか有益なものはあるかもしれない。例えば、スポーツ観戦が好きな人は、スポーツ映像を見ることのできるサービスを利用すべきかもしれない。

しかし、「いろいろオプションがありますよ!選べますよ!」と言われても迷ってしまう。

例)サブウェイのサンドイッチ

サブウェイのサンドイッチは具材をいろいろ選ぶことができる。しかし、セットになっているサンドイッチの方が選びやすい。

たくさん選べて楽しい!という人もいるかも知れないが、実際に買っている人を(日本では)ほとんど見たことがない。

オプションがありすぎることによって、人が個人で考えられる選択肢の限界から大幅に逸脱してしまい、思考停止に陥ってしまう。

例)ブルーボトルコーヒーやアップルの製品

アップルの製品は選択肢が少ない。だからといって売れていないわけではない。単純に選びやすいのだ。

ブルーボトルコーヒーも基本的にはアイスコーヒーかホットコーヒーしかなく、「どこどこの豆のどのコーヒーをこの淹れ方で」なんて複雑な洗濯の仕方をしない。そういった選択をするのは割と、マニアックな人だけかもしれない。


5.シンプルさのメリット

そこで出てくるのはシンプルさのメリットだ。

プロスポーツ選手は特に「考えない」ことによってすべてがうまくいくようだ。

むしろ考え出すとドツボにはまって「考えてしまう」ことになり「うまくいかない」状態を作ってしまうことがある。

特にこの「シンプルさのメリット」が発揮されるのは、

「迅速な意思決定を必要とする場面」だ。

救急救命や、スポーツ、格闘技や戦闘において重要なのは、その場をシンプルに考え、直感で乗り切ることだ、と著者は結ぶ。


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