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AI時代のファンドレイジング:DIGI.RAISE 2024で紹介されたオーストラリア・ニュージーランドの活用事例

2024年5月1~2日に、オーストラリアの非営利団体Fundraising & Philanthropy(F&P)がシドニーで開催したデジタル・ファンドレイジングのカンファレンスDIGI.RAISE 2024に参加してきました。

本記事では、同カンファレンスのセッション「AI for fundraising – understand it, embrace it – a panel discussion」とセッション「The age of AI has arrived. A practical session on how to use AI in your marketing and fundraising」にて、オーストラリアにおけるファンドレイジングへのAI活用の事例が具体的にシェアされていたので、個人的な注目ポイント等をまとめています。

本記事の執筆時点で、私の知る限り、日本においてはAIを活用し始めている団体はちらほら出てきているものの、シェアできるくらいの知見までには至っていないかと思います。
本記事が、個々の団体のファンドレイジングにAIを上手く活用する参考になれば幸いです。


まずは「The age of AI has arrived. A practical session on how to use AI in your marketing and fundraising」のセッションでシェアされたことをご紹介します。
登壇者は、非営利団体向けにデジタルファンドレイジングやキャンペーン等のサポートを行うParachute DigitalのTania Ahmed氏、脳性麻痺やその他の神経学的および身体的障害を持つ乳幼児から大人までを支援するオーストラリアの非営利団体Cerebral Palsy AllianceのMaisa Lopes-Gomes氏。

ファンドレイジング・キャンペーンでのAI生成画像の使用

1927年にアメリカ・ピッツバーグで始まった子ども支援のチャリティ・キャンペーンVariety。
1975年にはオーストラリアでも始まり、ニュージーランドでは1989年から行われるようになりました。そのニュージーランドのVarietyの2023年クリスマスのファンドレイジング・キャンペーンでAI生成画像と実在する人間を起用した画像を使用した結果の比較が共有されました。

キャンペーンに使用したAI生成画像(スライド資料より)
実在する人間を起用した写真(スライド資料より)
AI生成画像と実在する人間の画像の結果比較:SNS(スライド資料より)
AI生成画像と実在する人間の画像の結果比較:Eメール(スライド資料より)

紹介された結果は、実在する人間を起用した写真は2700ニュージーランドドル(約256,500円)は、AI生成画像を使用していた方が8300ニュージーランドドル(約788,500円)。クリック率(CTR)はAI生成画像の方が約2倍となっていました。

※本記事の執筆時点での1ニュージーランドドル=約95円で計算。

個人的な感想として、この事例からは、「AI生成画像を使っても集まる金額にネガティブな影響はない」程度の学びに留めておいた方が良いと思っています。
というのも、「比較」というのは、可能な限り諸々の要素を揃えて比較したい部分だけを変えることで、効果の検証をできるようになります。
この事例の2つの画像では、「画像の場面」や「子どもの身体的特徴」が異なっていますし、画像以外の部分まで見てみるとSNSの方のテキストは各画像にあわせた異なる描写がされているので、AI生成画像を使った方がファンドレイズの成果が出ると素直に評価できる程の事例ではないという印象でした。

コマーシャル動画の制作

続いて、退役軍人や戦争による未亡人とその子ども達の支援を目的として1923年に設立されたLegacyという非営利団体の事例が紹介されました。現在、同団体は経済的困難を抱えているご家庭への支援にも活動の幅を広げているようです。

同団体はAIを使用して、数分で30秒のコマーシャル動画を作成しました。最終的には、音声の微調整やフォントの修正が必要でしたが、初稿を迅速に作成できたことを利点として挙げていました。

また、そのコマーシャル動画は、オーストラリアの民間テレビネットワークであるチャンネル9とそのストリーミングプラットフォーム9Nowが提供するNine Ad Managerを使って、多くのオーディエンスにリーチをしたそうです。500オーストラリアドル(+税)から、自分のビジネスの広告を同プラットフォーム上で視聴されているTV番組の広告枠に表示することができるサービスだそうです。

TV番組の広告枠を使うので、Youtube等で表示される広告映像と異なり、スキップすることができず、オーディエンスは必ず広告映像を観るような仕組みになっています。

(私が把握している限り、日本に類似のサービスは無いかと思うのですが、どうでしょう…)

イベントページの最適化

自閉症児に対する早期介入を提供することを目的として2005年に設立されたAEIOU foundationが主催するファンラン(Fun Run)のイベントページに盛り込む情報や文言のブラッシュアップにChatGPTを活用した事例です。

ちなみに、ファンラン(Fun Run)は、欧米諸国でよく行われているチャリティイベントの一つです。過去の記事でも紹介したことがあるので、興味のある方はお目通しください。

実際のプロンプトとAIからの回答もシェアされたので、日本語訳とあわせて下記の通り紹介させていただきます。

実際のプロンプト(スライド資料より)

こちらのページの登録者数を増やすために、5つの改善提案をお願いします。 https://fundraise.aeiou.org.au/event/be-awesome-for-autism/fun-run ページは慈善団体のAEIOU Foundationのためのものです。目的は、ファンランへの参加登録を促し、自閉症の子ども達のためにファンドレイズすることです。

上記のプロンプトをChatGPTと筆者で意訳
ChatGPTからの提案(スライド資料より)

1. 視覚的な魅力の向上:過去のイベントの高品質な画像や、ファンラン(Fun run)のエネルギーと目的を捉えた映像等、より魅力的なビジュアルを追加します。これにより、ページ訪問者がイベントをより具体的にイメージすることができて、参加意欲が高まります。

2. サインアップのプロセスの簡略化:サインアップボタンが目立つ場所に表示され、見つけやすくすることができます。登録プロセスを簡素化して申込完了までのステップを減らし、手早く申し込めるようにすることで、サインアップ中の離脱を減らすことができます。

3. インセンティブの設計:早期登録者に対して早割や限定グッズを提供し、早期登録の必要性を生じさせます。また、参加者に早期の登録とファンドレイジングの開始を促すため、ファンドレイジング目標に到達するための報酬をよく検討しましょう。

4. 成功事例や参加者の声の追加:参加者からの感動的な声や「アルジャックさんのストーリー」等の成功事例をより目立つ形で掲載し、ページ訪問者と感情的に繋がるようにします。ポジティブな結果を強調するストーリーは、潜在層をインスパイアすることができます。

5. 社会的証明と最新情報の発信:参加者数や集められた資金のライブカウンターを表示します。成長するコミュニティや成功を示すことで、他の人々を参加するように動機付けることができます。また、イベントがファンドレイジング目標にどれだけ近づいているかについての最新情報を可視化します。

これらの要素は、より魅力的でユーザーフレンドリーな体験を作り出し、イベントの登録者数を増やすのに役立ちます。

上記のChatGPTの回答をChatGPTと筆者で意訳

個人的には、目新しい改善提案ではない印象ですが、この提案をAIが数秒で出してくれるという点を見ると、業務効率化の一助にはなりそうです。

データ分析

次に、ChatGPTをファンドレイジング・キャンペーンのデータ分析に活用した事例が紹介されました。そのキャンペーンのインサイトを迅速に得られ、その詳細がシェアされました。

AIによるデータ分析結果(スライド資料より)

• 寄付者: このセグメントは353件の寄付から$58,116を集め、開封率は約71%、クリック率は3.33%という強力な結果を示しました。平均寄付額は約$165で、コンバージョン率は平均51.41%でした。

• 全体: この一般的なセグメントは60件の寄付から$11,023を集め、開封率は約61.91%、クリック率は3.64%でした。平均寄付額は約$184と高かったものの、コンバージョン率は36.14%と低めでした。

• 非寄付者: 開封率が62.24%とそこそこ良いものの、このセグメントはコンバージョン率が低く、32件の寄付から合計$3,005を集め、平均寄付額は約$94でした。

• Donor-original and Donor-higher(※どういうセグメントか分からなかったので原文の英語表記のままにしてあります): これらの特定の寄付者サブセグメントも寄付しましたが、主要な寄付者セグメントと比較すると重要性は低いものでした。

重要なインサイト: 寄付者セグメントは、エンゲージメントと集まった資金の両方で最も効果的であり、今後のキャンペーンの主要なターゲットとなります。全体セグメントは寄付数が少ないにもかかわらず、平均寄付額が高く、より大規模で少ない寄付に対して広いセグメントをターゲットにすることが効果的であることを示唆しています。非寄付者セグメントはコンバージョン率と寄付額が低く、これらの個人をより効果的にエンゲージしコンバートするための戦略が必要であることを示しています。

この分析は、既存の寄付者によりフォーカスする一方で、非寄付者セグメントにおけるエンゲージメントとコンバージョンを改善するための戦略をつくることを提案しています。これらのセグメントの反応に基づいたコンテンツとアウトリーチを調整することで、将来のキャンペーンを最適化するのに役立ちます。データの詳細な分析や他の側面についてさらに知りたい場合は、お知らせください!

上記のChatGPTの回答をChatGPTと筆者で意訳
AIが作成したセグメントの比較チャート(スライド資料より)

Can you please a comparison between segments in a chart?(こちらのセグメント間の比較をチャートで示してもらえますか?)というプロンプトに対するアウトプットとして、青のチャートが開封率、緑のチャートがクリック率、赤のチャートがコンバージョン率、黄色のチャートが平均寄付額というセグメント別に見比べやすいようなチャートが生成されたそうです。

AIが作成した日別のパフォーマンスのグラフ(スライド資料より)

おそらくファンドレイジング・キャンペーンのメールパフォーマンスを分析したものと思われますが、Can you please analyse performance by day in a chart?(日ごとのパフォーマンスをチャートで示してもらえますか?)というプロンプトに対するアウトプットとして、左(薄い緑色の方)から送信数、回数数、クリック数、寄付数に分けられたチャートが出てきたそうです。

この事例からも、ファンドレイジング・キャンペーンの分析を効率化するのにAIは有用であると言えるとは思いますが、これだけの分析ができる情報をファンドレイジングしながらキャンペーン期間中に収集していること、もっと言えば、準備段階から収集する情報を分かっているからここまで分析できるための情報を得ていたと言えると思います。
AI活用だけでなく、ファンドレイジングへのリテラシーが組織や担当者に無いと、この事例くらい詳細な分析をAIにしてもらえるような活用ができないようにも思います。

また、注意点として、オープンAIのような誰でも使えるAIサービスを使用する場合、入力したすべての情報が公に利用可能になる可能性があるため、団体内でそのことを認識をしたうえでデータ分析にAIを活用したり、外部支援者の場合は団体側に同意をしてもらった上で行うことが重要であると言及されていました。

Cerebral Palsy Allianceの活用事例

Cerebral Palsy Allianceは脳性麻痺やその他の神経学的および身体的障害を持つ乳幼児から大人までを支援するオーストラリアの非営利団体です。ちなみに、Cerebral Palsyは脳性麻痺のこと。

同団体が行う主要なイベントの一つにSTEPtemberがあります。これは、障害を持つ人達のためにファンドレイズをするキャンペーンで、参加者が9月中に歩数を計測し、寄付を募っていきます。参加者はチームを組んで活動し、各チームには支援する受益者(障がいを持つ当事者)がいます。このキャンペーンを通じて、参加者同士や参加者と障がい者との間のつながりをつくることを目的としています。

もう一つ事例として挙げられていたイベントで、Krazy Kosci Klimbという取組みもあります。
15人の障がい当事者がサポートチームと共にオーストラリア大陸最高峰のコジオスコ山頂(Mount Kosciuszko)を目指します。このイベントは、若者たちに挑戦と自立の機会を提供し、これまで165人以上が参加し、250万オーストラリアドル以上の寄付が集まりました。この寄付は、Cerebral Palsy Allianceのアクセシブルジムやスポーツプログラムの資金として使われています。2024年には56万8000オーストラリアドルが集まったそうです。

この事例では、参加者向けにパーソナライズされたメッセージをAIを使って作成されたそうです。具体的には、下記の例のようなイベントの参加者に送るメールの内容をAIにより調整し、よりカジュアルで親しみやすい文体に変更するなどの工夫が行われました。

AIによって作成されたKrazy Kosci Klimbへの参加を促すメール文案(スライド資料より)

Dear [受取人の名前]

私たちが一緒に経験した素晴らしい冒険であるKrazy Kosci Klimbの輝きの中で、このメッセージがあなたに届くことを願っています。イベントを振り返るこの瞬間、私たちはコミュニティとして達成したことに対し、深い誇りと感謝の気持ちでいっぱいです。

全員にスタンディングオベーション!
まず初めに、参加してくれた皆さん、サポートしてくれた皆さん、そして応援してくれた皆さんに、心からのお祝いと大きな感謝を申し上げます。皆さんの決意、精神、そして友情のおかげで、今年のKrazy Kosci Klimbは本当に忘れられない体験となりました。私たちは一緒に、物理的な高みに登るだけでなく、もっと大きなもの、すなわち団結の力と人間の精神の強さを成し遂げました。

前例のない成功
皆さんの揺るぎないサポートと寛大な寄付のおかげで、CPAスポーツプログラムのために48万ドル以上を集めることができたことを嬉しく思います!この素晴らしい金額は、若いアスリートたちを支援し、彼らが成功するために必要なリソースと機会を提供するのに大いに役立ちます。あなたの貢献は、多くの人々の生活に実際の変化をもたらしています。そしてそのことに、私たちは心から感謝しています。

新しい友情と忘れられない思い出
集められた資金を超えて、このイベントは新しい友情を築き、境界を越え、私たちの集合的な可能性を発見する美しい旅となりました。この登山から生まれた忍耐、チームワーク、そして純粋な喜びの物語は、私たちが心から大切にしている目的のために一緒に行動するときに何が達成できるかを示しています。

今後について - もう一度参加するか、広めてください
未来に目を向けると、すでに来年のKrazy Kosci Klimbの可能性にワクワクしています。挑戦に参加してインスピレーションを受けるか、意義ある影響を与えたいと考える企業をご存知でしたら、ぜひお知らせください。あなたの推薦と情報拡散のサポートは私たちにとって非常に貴重です。

寄付の最後のお願い
明日は寄付の受け入れ最終日です。最後の一押しをして、CPAスポーツプログラムを支援するためにさらに高い目標を達成するための一助となることができます。少しの貢献が積み重なって、素晴らしい結果を生み出します。

もう一度、この旅の重要な一部であることに感謝します。あなたの勇気、寛大さ、そして精神は、Krazy Kosci Klimbを本当に素晴らしい成功に導きました。これは私たちが共につくってきた「違い」のため…【原文はここまでの掲載】

上記の内容をChatGPTと筆者で意訳

イベント後には、参加者の傾向などをAIを活用して分析し、次回のイベントに向けた改善点や効果的な施策の迅速に導き出すことができたそうです。

イベント参加者のデータ分析の結果(スライド資料より)

合計金額が5ドル以下またはNULLの参加者の中で、各州ごとのエントリー数のトップは以下の通りです:

NSW(ニューサウスウェールズ州) - 7,777エントリー
VIC(ビクトリア州) - 5,555エントリー
QLD(クイーンズランド州) - 3,333エントリー
SA(南オーストラリア州) - 1,111エントリー
NT(ノーザンテリトリー) - 444エントリー
TAS(タスマニア) - 333エントリー

合計金額が170ドル以上の参加者の中で、トップ5の郵便番号と各郵便番号ごとのエントリー数は以下の通りです:

2100 - 156エントリー
2000 - 107エントリー
3333 - 106エントリー
4444 - 102エントリー
1111 - 98エントリー

合計金額が5ドル以下またはNULLの参加者のデータサブセットから、全ての列において最も一般的な結果は以下の通りです:

プロフィール完了:0.0
イベント時の年齢:19.0
受け取った寄付の数:1.0
州:VIC(ビクトリア州)
前年からのリターン:0.0

上記の内容をChatGPTと筆者で意訳

「信頼」が最重要な要素である非営利団体がAIをファンドレイジングに活用するには

ここから、パネルセッションだった「AI for fundraising – understand it, embrace it – a panel discussion」で話されたことのポイントをまとめます。

左から、このセッションのファシリテーターを務めたF&PのFiona Atkinson氏、上述のCerebral Palsy AllianceのMaisa Lopes-Gomes氏、上述のParachute DigitalからMamta Bhatt氏、以前は男性の健康問題について意識醸成を行うMovemberに所属していて、現在は心臓病予防と治療を支援するHeart Foundationに移籍したばかりのTroy Muir氏。

パネルセッションの様子(筆者撮影)

組織内の変革

AI導入にあたって、デジタルテクノロジーを扱うことに関心を持つ組織内のメンバーを特定し、彼らにAIの導入を推進させていくことや、経営層やマネジメント層がデジタル推進リーダーを育成し、組織全体でのデジタル技術の活用を促進していく内部変革をしていくことが大事であると語られていました。
個人的には、昔から言われている新しいテクノロジーやサービスを組織に導入する時のポイントそのもので、目新しさを特に感じませんでした。

AI活用の落とし穴

業務効率化の観点からは素晴らしいツールである一方で、上述もしましたが、寄付者に自身の個人情報がAIに入れられて分析等に使われることには一定のリスクがあり、予め同意を得たり説明をしていく必要があることが言及されていました。寄付者からの信頼を失わないよう、組織としてのAI活用に関する透明性も意識することがポイントということかと思います。

また、データの質は、AIが生成するアウトプットにも影響するので、正確で有用な情報を収集したり、AIにインプットするデータの取捨選択も大切であると言われていました。

加えて、AIが生成したアウトプットをそのまま使ってしまう非常に大きなリスクとして挙げられていて、常に管理とガバナンスを効かせることが重要であることも述べられていました。

まとめ

注意点は色々挙げられていたものの、AIの進化のスピードを踏まえると、AIを使わない選択肢は無い状況に日々なってきているように思うので、個人としても組織としても、いかにAIをファンドレイジングに活用するためのリテラシーを高め、いかに体制を整えていくかがカギであることが総じて議論されていたことのポイントのように感じました。

筆者としては、AIをはじめとする新しいテクノロジーは大歓迎というタイプなので、半年や1年後にどのような事例や議論が出てくるかを個人的な楽しみとして、引き続きウォッチしていきたいテーマです。

記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!