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オーストラリアのボランティア事情:SEEK VOLUNTEER REPORT 2022と現地でのボランティア経験から

オーストラリア国内の仕事・ボランティア情報をまとめているプラットフォーム「SEEK」が出したボランティアレポートを拝読。
本記事の執筆時点(2023年6月)で、8か月くらいになるオーストラリアでの生活と5つのNPOでのボランティア参加の実体験も踏まえて、日本のみなさんにとって少しでも参考になればと思い、久々に執筆をします。

SEEK VOLUNTEER REPORT 2022 はこちら

参加属性の日本との共通点と違い、リモートワーク等のフレキシブルな仕事の普及によるボランティア応募者側のニーズの変化、レポートでは触れられてませんが最低賃金の上昇(2023年7月から更に上昇)やパンデミック明けの2022年以降から増加している移民数(豪政府統計局によると2年間の人口増加幅が過去最大となる見通し)等、これからの日本のソーシャルセクターにとって示唆に富んだレポートでした。


レポートのサマリー

このレポートは、2021年7月~2022年6月末までのSEEKに掲載されたボランティア情報を元に作成されているそうです。レポートのサマリーは以下の通り。

【ボランティアの機会について】
・掲載されたボランティアの機会総数は24,000件以上。
・掲載されたボランティアの機会は前年比で3%増加。(筆者より注記:2020~2021年がパンデミックでボランティアの機会が大きく減り、現在は回復の最中にあるため、前年比増となっていることに留意)

【ボランティアのタイプと求められた要件】
・最もボランティアの募集掲載が多かった上位3つは、コミュニティサービス、高齢者と介護、教育とトレーニング。
・16%の機会がリモートでできるボランティア。パンデミック前の2019年時点での4%から増加。
・41%の機会では、特定のスキルセットを持つボランティアが募集されていた。

【ボランティア全体の傾向】
・ボランティアへの応募は前年比で25%減少、過去4年間では最低水準。
・応募の71%は、45歳以下の年齢層。
・応募の75%は女性。

SEEK VOLUNTEER REPORT 2022のINTRODUCTIONを意訳
2019~2022年度に掲載されたボランティアの機会

応募者の属性の偏りから考えるボランティアの本質

4,400の登録団体から、SEEK上に掲載されたオーストラリア国内のボランティア募集は24,000件以上。サマリーにある通り、ボランティア応募者属性のボリュームゾーンが浮き彫りになってはいるものの、このデータをもとにボリュームゾーンへのアプローチを安易に検討するのではなく、レポートにある「ボランティアは特定の属性の人達のためのものでない」というコメントは、「ボランティアは市民一人ひとりが参加できるもの」という本質をボランティアを募集する側に思い出させようとする警告のように私は感じました。

ボランティア応募者の年齢層

スキルがあり長く活動できるボランティアを求めるNPO

下記の円グラフにある通り、ボランティア募集掲載のうち8割近くが半年以上を参加期間の要件としており、募集側のニーズが如実にみえます。
私自身はボランティアでファンドレイジングに関われる機会を探して、20団体程度の募集をこれまで見ましたが、どれも半年かそれ以上の期間が要件となっていたり、特定のスキルセットも要件に記載されていました。それぞれ内容をみると、支援者管理業務や寄付者への郵送物の発送、メールや電話対応といった有償スタッフと遜色のないくらいの業務を任される印象で、オーストラリアのNPOにおいても人手不足な状況が垣間見えます。一方で、ファンドレイジングイベントであれば、当日のみのスポット参加ができるボランティアの募集は割とありました。
レポートでは、全体の応募総数の伸び悩みや参加属性の偏りから、リモートワークや時短勤務等の普及の影響もあり、フレキシブルな参加を求めている人がより増えてるのではという考察がされています。後述しますが、個人的にはこういった労働環境の変化に加えて、物価上昇+最低賃金の上昇も要因の一つであるように感じています。

掲載されたボランティアに求められる参加期間の割合

物価高の社会におけるボランティアの機会

度々、その是非が話題に挙げられる有償ボランティアについて私は金銭対価の発生によるモチベーションへの影響を主な理由として反対の立場でした。しかしながら、オーストラリアの日々上がる生活コストの中で生活していると、ボランティア募集側の経済的負担にならない程度に有償にすることも選択肢にせざるを得ないと感じるようになりました。

実際に、数人だけの募集枠のボランティアでは交通費+ランチ代として約20ドル程度を出すことを募集要項に明記しているオーストラリアのNPOもありました。一方で、大人数を募るイベント運営のボランティアでは金銭的なサポートはありませんでしたが、食べ物・飲み物や記念品のお土産プレゼントがあったり、運営を手伝った分、有料のイベントに無料で参加することができました。(後者は、日本でもよくありますね。)

日本も、様々な面で物価上昇中ですので、決して関係のない話では無いと思っています。日本よりも物価や賃金が上昇している国のソーシャルセクターの対応から学ぶことで、これから社会状況の変化に対して後手にまわることなく、ボランティア参加の機会をつくり続けられる日本のNPOが多くいることを願っています。

記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!