オーストラリアのボランティア事情2024:National Strategy for Volunteeringを発表したオーストラリアの今とこれから
オーストラリア国内のボランティア活動に関する新たなレポートが発行されたので、2つのレポートをもとに最近のオーストラリアにおけるボランティア事情を、本記事ではまとめています。
なお、参考にしたレポートは下記2つです。
オーストラリア国内で最も使用されていると言われている求人サイトSEEKのボランティア募集サイトの情報をもとにしたSEEK VOLUNTEER REPORT。
そして、オーストラリア全土におけるボランティア活動の推進と支援を目的とする非営利団体Volunteering Australiaが、2024年5月に発行したレポート「Navigating change and charting a new course: volunteering in recent times」です。
ボランティアの定義
Volunteering Australiaの定義によると、ボランティアとは、共通の利益のために、自発的に時間を提供し、金銭的な利益を求めない活動を指します(原文:Volunteering is time willingly given for the common good and without financial gain.)。この中には、組織やグループを通じて行われるフォーマルなボランティア活動と、コミュニティ内で直接行われるインフォーマルなボランティア活動が含まれます。
フォーマルなボランティア活動(Formal Volunteering)は、共通の目的のために自発的に時間を提供し、金銭的な利益を求めず、組織内で構造的に行われる活動を指します。
インフォーマルなボランティア活動(Informal Volunteering)は、共通の目的のために自発的に時間を提供し、金銭的な利益を求めず、組織の枠外で行われる活動を指します。これには、自分の家族以外のコミュニティ内の人々を助けることが含まれます。たとえば、子ども、ペットの世話、家庭や個人の支援、または専門的なアドバイスを提供することなどが挙げられます。
より詳細を知りたい方は、下記リンク先から
減少傾向にあるオーストラリアのボランティア
オーストラリアにおけるフォーマルなボランティア活動は、過去10年間で減少しており、参加率は2010年の36.2%から2020年には24.8%に低下し、記録された中で最も低い割合となったそうです。一方で、インフォーマルなボランティア活動はパンデミック中の減少は僅かだったとのことです(2019年の33.4%から2020年には32.1%)。フォーマルなボランティア活動は、近年回復の兆しを見せており、2022年には26.7%、2023年には32.6%に増加しました。しかし、パンデミックや昨今の物価高に伴う生活費増は、オーストラリアのボランティア活動に依然として影響を与えているようです。
SEEK VOLUNTEER REPORT 2023が示す傾向
ここで、2022年7月1日から2023年6月30日までの期間にSEEK Volunteerによって記録されたボランティア活動の傾向を概説しているSEEK Volunteer Report 2023のデータを見てみます。
なお、前年分のレポートの内容は、過去に別の記事でまとめてあるので、興味のある方はあわせてご参考ください。
ボランティアの機会
過去3年度でSEEK Volunteerに掲載された月別のボランティア募集件数は下記のグラフの通り。直近の2023年度は、前年比で7%増加し、2022年度の3%増加を踏まえると、年々増加傾向にある状況です。予想されていたクリスマス期間中の減少を除いて、全国的にボランティア機会の数は増加し、8月、3月、5月には3年間の最高値に達しています。
しかしながら、前年に発行されたSEEK VOLUNTEER REPORT 2022を見てみると、2019年度の掲載数(グレーの線)も含めた下記のグラフ掲載されていました。ボランティア募集の掲載は、2019年までの水準(パンデミック前)に戻っていないことが分かります。
規模
Volunteering Australiaのレポートでは、ボランティア活動はオーストラリアにおける強力なコミュニティ参加の形態として残っていると述べられています。2022年のオーストラリアにおけるボランティア活動調査によると、オーストラリア人の56.0%がフォーマルまたはインフォーマルのボランティア活動に従事しています。2022年4月には、オーストラリアの約4分の1(26.7%)が過去12か月間にフォーマルなボランティア活動を行い、約半数(46.5%)が過去4週間にインフォーマルなボランティア活動を行っていました。
多様性
長年にわたり、ボランティア活動は組織内でのフォーマルな役割から地域コミュニティでのインフォーマルな参加まで、様々な形態で行われています。人々は、スポーツとレクリエーションの分野(25.0%)から環境分野(7.0%)や動物福祉分野(5.3%)に至るまで、幅広い組織でボランティア活動を行っています。これらの組織内では、ボランティアはさまざまな役割を担っています。管理と経営(22.8%)、理事会や委員会の活動(18.5%)、ファンドレイジング・物販・イベント(24.6%)、芸術とパフォーマンス(9.3%)、社会的支援(14.4%)、緊急対応と救援(11.7%)は、ボランティアが行っている多様な活動のほんの一例であり、その活動範囲の幅広さを示しています。上記に加えて、多くの人々がコミュニティでインフォーマルにボランティア活動を行っていると見られます。
ボランティアをする人達
Volunteering Australiaのレポートによると、女性、55歳以上の人々、オーストラリアまたは他の英語圏の国で生まれた人々、より高い教育を受けた人々、首都圏以外に住んでいる人々、そして有給の仕事に就いている人々は、フォーマルなボランティア活動をする可能性が高い一方、女性や高齢者はインフォーマルなボランティア活動をする可能性が高いとされています。また、非英語圏の国で生まれた人々は、オーストラリアで生まれた人々に比べてフォーマルなボランティア活動をする可能性は低いものの、インフォーマルなボランティア活動をする可能性は高いとのことです。
また、参考にしたデータでは、住んでいる地域の社会経済的特性や、障がいの有無によるボランティア率の違いはなかったようです。ボランティア率や人々が行うボランティアの種類は、年齢とともに変化します。フォーマルなボランティア活動は、40~54歳の人々の間で最も高く。55~69歳の人々や15~24歳の若者の間でも昔から高い傾向がありますが、若者の間でのフォーマルなボランティア活動は、パンデミック以降、回復が最も遅れているともレポートに記述されています。一方で、インフォーマルなボランティア活動が、25~39歳の人々の間で他の年齢層と比べると顕著にみられるそうです。また、現在あるデータでは、ファーストネーションズ(アボリジニ等の先住民)の人々の間でのボランティア参加の正確な情報を収集していない点は、今後のオーストラリア国内のボランティア活動の正確な動向を把握するために課題とされています。
州別の傾向
SEEK Volunteer Report 2023では、下記のデータも示されていました。
全国的に見ると、5つの州および準州では前年比で応募件数が増加しました。(赤の数字がSEEK Volunteer上のボランティア掲載、紫の数字が応募者のデータ)西オーストラリア州とタスマニア州では機会の数が増加したものの、応募件数は前年比で減少。SEEK Volunteerのサイト訪問数は8%増加していて、ボランティアへの関心が依然として存在することを示していますが、この関心が応募に結び付いていないことが分かります。
重要と供給
ボランティアの定着は、多くの組織にとってスタッフの定着と同様に重要ですが、過去1年間で、SEEK Volunteer上に掲載されたボランティア機会の74%が最低6ヶ月のコミットメントを求めているもので、短期でより柔軟なコミットメントを望む人々のニーズと合っていないという指摘があります。
ボランティア希望者は、長期のコミットメントのものよりも単発のボランティア機会に応募する可能性が2倍以上高く、最低6ヶ月のコミットメントを求める機会には、1つの機会あたり1件未満の応募しかSEEK Volunteerでは集まっていないそうです。その一方で、数時間のコミットメントだけを求める機会には、1つの機会あたり平均して3件以上の応募があるとのこと。
また、過去12ヶ月間に投稿された機会の12%が、バーチャルまたはリモートで行えるものでしたが、2022年度の16%から減少しているそうです。
あわせて、レポートに記載されていたSEEK Volunteerの責任者Rebecca Miller氏のコメントをご紹介します。
ミスマッチの課題
Volunteering Australiaのレポートにおいても、異なる観点からのミスマッチの課題が指摘されています。現在提供されているボランティアの機会と、現在ボランティアをしていない人々の関心の間には、大きなミスマッチが存在していると述べられています。これは、組織の活動分野と役割の種類の両方に当てはまります。例えば、28.5%の非ボランティアが動物に関わる活動に興味を示している一方で、現在のボランティアのうちそのような役割に従事しているのはわずか4.4%に過ぎません。このミスマッチは、ボランティアの機会を人々の関心に合わせることの重要性を示していると、レポートでは指摘されています。
また、従来からボランティアに大きく依存しているサービスの需要が増加しています。例えば、高齢者ケアとサポートの労働力は、オーストラリア経済の他のセクターよりも3倍速く成長しています。この分野での労働者の需要は、2050年までに倍増すると予想されているそうです。さらに、ボランティアによって支えられているサービスの未充足の需要は、現在の生活費増のような外部要因によって一層顕著に表れるようになってきているとのことです。有給スタッフとボランティアの両方の需要を満たすことは、こうしたセクターと地域コミュニティにとって極めて重要であると述べられています。
生活費増と現在の課題
現在のオーストラリアの生活費増の中で、多くの人がボランティア活動を優先したり、交通費や燃料費などのボランティア活動に関連する費用を賄うことが難しくなっています。特に若者の間で、経済的な圧力がボランティア活動の大きな障壁となっています。2022年には、18歳から34歳の人々の25.5%が「経済的理由」をボランティア活動を行わない理由として挙げました。ボランティアを巻き込む組織もまた、サービスの提供能力やボランティアを安全かつ効果的に巻き込む能力に影響を与える財政的困難に直面してきています。ボランティアのうち約半数(54%)がボランティア活動の過程で自己負担の費用を負っているという指摘もされています。
今後のオーストラリアのボランティア
寄付やボランティアが日々の生活の中に根付くオーストラリアであっても、近年はボランティアに参加する人達や参加の機会が、パンデミックと昨今の物価高の影響で減少傾向にあることが分かりました。
今のところ、有効な打開策は出てきていないように思われますが、日本のソーシャルセクターと異なるアプローチを取っていると感じる点として、ボランティア参加促進のための戦略策定や法改正に取り組む動きがあることです。
2022年のSydney Morning Heraldウェブ版の記事では、チャリティ担当大臣のAndrew Leigh氏がオーストラリア国内におけるボランティア活動の減少に警鐘を鳴らし、ボランティア活動への参加を促進するための法改正や支援策を行っていく考えであることが取り上げられていました。
そして、Volunteering Austaraliaをはじめとした関係する諸組織や各有識者たちによる約1年におよぶ議論の末、今後10年間でのNational Strategy for Volunteering(ボランティアの国家戦略)が発表されました。
詳細な内容は、リンク先のPDF資料をご覧いただけたらと思いますが、3つの重点分野と目標および11の戦略的目標が明示されているので、最後に意訳したものを掲載します。
個人的には、オーストラリアはチャリティ発祥の国でもあるイギリスから分かれた国だけあって、行政システムとしてチャリティ担当大臣がいたり、政府側が非営利活動を促進することに前向きであることが随所に伺えるのが興味深かったです。
最後に
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