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まちづくりとリノベーションについて事例と共に考える

この記事は、令和3年5月22日に種子島 中種子町で開催された「ゆるっと地方のリノベーションまちづくり」をテーマにしたトークイベントのイベントレポートです。

加藤さんWS (3)

この事業は公益財団法人トヨタ財団 国内助成プログラムより助成を受けて実施しています。

イベント概要

種子島の真ん中、中種子町(なかたねちょう)にある旭町公民館にて、「ゆるっと地方のリノベーションまちづくり」をテーマにトークイベントが開催された。主催は、同じく中種子町で地域おこし協力隊を務めている湯目由華(ゆのめ ゆか)氏。同イベントは感染症対策として換気等を充分に行い開催された。

メインゲスト

メインゲスト:加藤潤(かとうじゅん)氏

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加藤氏は、埼玉県から南九州市頴娃町(えいちょう)へIターン。実弟と共に日本唯一のタツノオトシゴ観光養殖場を経営。NPO法人頴娃おこそ会へも所属し地域の観光開発や、地域おこし協力隊の受け入れに携わる。その後、かねてからの趣味だったDIYが高じて、地域の空き家再生も手がけるように。現在は「コミュニティ大工」として、ソフトとハードを兼ね備えた新しい大工として活躍している。

主催者:湯目由華(ゆのめゆか)氏

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岩手県出身。2020年4月に東京都から種子島へ移住。地域おこし協力隊として地域の活性化に携わる。特に、「地域の人のチャレンジを支援する」ことを得意とし、アイディアの事業化・資金調達・実施など企画から運用まで伴走できることが強み。これまで、種子島中央高校の生徒と「おさがりの文化をアプリにする取組」「コロナ禍の飲食店を活性化させるテイクアウト市の開催」などを支援してきた。2021年2月に一般社団法人LOCAL-HOOD(ローカルフッド)を設立し、中種子町のまちづくりの輪を広げるアクションを起こし続けている。

ゲスト

・今田正仁(いまだまさひと)氏
株式会社川商ハウス 種子島支店の支店長。2019年に種子島の一市二町と「種子島空き家・空き地等の利活用に関する連携協定書」を締結し、不動産会社として行政と連携しながら空き家・空き地等の対策に取り組んでいる。

・野口竜平(のぐちたっぺい)氏
旅人であり、芸術探検家。種子島へ偶然旅に訪れていたところ、このイベントへ興味を持ち参画。”移動行為によってゆらぐ制度や精神を「未知」として探検し、その刹那に生じる事態から芸術の起こりをさぐる”をモットーに活動している。


第1部 講演とトークセッション

始めに、本イベントの主催者であり、中種子町地域おこし協力隊(兼、一般社団法人LOCAL-HOOD代表理事)の湯目氏よりイベント開催の目的を説明。

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主旨は次の通り。

・お忙しい中、これだけの人にご参加いただけたことに感謝。
・このイベントの狙いは、種子島に関わりのある皆さんにまちづくりとリノベーションの関係について知り、興味を持っていただくこと。先進的な取り組みを頴娃町で行う加藤さんのお話を通じて、色々考えて周りの人ともお話をして、種子島の未来へつなげる機会になれば嬉しい。
・テーマにある通り、ゆるっとした雰囲気で語り合っていただきたい。

そして、聴衆は周りにいる参加者と3~4名でひとつグループをつくり、本日のイベントへ期待することなどを意見交換した。


続いて、加藤氏より南九州市頴娃町での活動やこれまでの空き家再生の取組を紹介。

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主旨は次の通り。

・頴娃町へ移住してから観光に携わり、NPO法人頴娃おこそ会にも所属。地域の人も移住者の人も住みやすい場所にしようという取り組みに参画する中で、石垣商店街という地域の空き家再生にも挑戦。
・今までにないことをやってみると、「あ、ここなら何か新しいことを始めても良いかも」みたいな雰囲気が出来始める。空き家を使って女性が宿を始めたり、地域おこし協力隊の男性2人がオフィスとして使ったり、交流拠点が出来たりと、色んなものが生まれた。
・空き家問題は”問題”としてネガティブに考えられがちだけど、むしろ空き家でしか出来ないこともある。石垣商店街の事例もそうだし、由華さんの取り組みもまさにそう。そのようにチャンスと考えれば、使い勝手も良い。そんなのが生まれてくると、「私もやろうかな」と次々に生まれてくる。
・空き家再生は幾らで何処を直すかみたいな”ハード”の側面ばかりに目が行きがちだけど、実はその前後にある”ソフト”が大事。改修の前にはどう契約するか、借主と貸主のコミュニケーションは取れているか、みたいなこと。後には、住居として移住者を受け入れてどう定住してもらうか。このようなソフト面こそが肝要であり、意外と知られていないところ。

次に、湯目氏より種子島中種子町の旭町商店街で取り組んでいる空き店舗再生の取組「チャレンジ拠点YOKANA(よかな)」について取組の経緯や内容を説明。

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主旨は次の通り。

・2020年に種子島に移住して1年。島民の色んなチャレンジを支援してきた。その中で、「この島は新しい事を始めにくいかもしれない」という声を聞くようになった。
・理由を尋ねていくと、集まる場所のような"ハード"と、情報やコミュニティといった"ソフト"の両方が足りていないことが要因だとわかり、何か自分に出来ることはないかと考えていた。
・そんな時に村尾さんと出会い、旭町商店街に解体しようとしている空き店舗があることを知った。町や商店街のことを想う姿に胸を打たれ、その建物を改修して誰もが挑戦できる機能を持ち合わせた"チャレンジ拠点"をつくることを決意。
・クラウドファンディングなど自力で資金調達に苦労しながらも取組を進めている。ここをきっかけに、種子島で誰もが「やってみたい」を表現し、チャレンジする人が増える未来を目指している。
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<チャレンジ拠点YOKANAについて>
YOKANAの機能については、こちらのクラウドファンディングのページをご覧ください。


ここで加藤氏より、ここまでの話を聞いたうえで感じたことや意見を、聴衆の各チームで話し合う時間を設定。各チームには熊毛支庁(鹿児島県庁の支庁)の職員、中種子町役場職員、住民らが入り交じっており、それぞれの立場などから感じたことを積極的に発言されていた。

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意見交換の後はトークセッションへ移行。進行は旅人で芸術探検家の野口竜平さん。

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野口さんは当初、このイベントに参加する予定はなかった。というより、この島の誰もが特に野口さんの存在を知らなかった。野口さんはいろいろあって種子島に旅をしていて、色々あってチャレンジ拠点YOKANAを偶然に知り、色々あってYOKANAにテントを張って泊まっていた。まさに一期一会。旅人とアーティストのキメラとでも言おうか、すごく気持ちの良い人だ。「色々あって」の部分は、ぜひ野口さんのnoteを読んで欲しい。

このトークセッションから、川商ハウス種子島支店の支店長、今田正仁氏も加わり3人でトーク。飄々とした野口さんの進行も相まって、まさに"ゆるっと"した雰囲気でトークが行われた。


始めに野口さんの進行で聴衆への質問が促されると、町民から幾つか質問があった。

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主な質問と、それらへのやり取りは次の通り(一部抜粋)。

【質問①】
空き家再生というと、やはり私たち町民は最初に資金的な面を心配してしまうのですが、自分たちがやるってなった時とか、その辺りは補助とか何かあるんでしょうか。
【質問①に対するやり取り】
加藤氏:そうですよね、うち(頴娃おこそ会)も11軒空き家再生してるって言ってますけど、補助金は5,6軒くらい使ってますんで、当たり前だと思いますよ。補助金を使うと行政も応援してくれたりして。市町村単位で大きなお金が出るところもありますし。頴娃町はなかったもんで、「地方創生」みたいな補助金の中の取り組みの一つとして、リノベーションを入れたりしましたね。だから総務省や県や市、色んなところの使ってますね。でも空き家再生は補助金をずーっと使うわけにいかないんですよね。どこかで自立しないといけない。ざっくり頴娃町の例でいうと、100万円くらいで修繕を収めて住居として貸すみたいなことをすると、わりと採算が採れることが分かってきたんですよ。まぁあとはDIYをやるとか色々工夫はありますけど、そんな感じですね。

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【質問②】
チャレンジ拠点YOKANAは、いつごろスタートする予定なのでしょうか。
【質問②に対するやり取り】
湯目氏:今年の7月を目指して着工しています。ただ、地元の工務店と協力したり、自分たちでDIYでやっているところもあるので、まずは1階からオープンになりそうです。あと上(2階のゲストハウスのこと)は、出来次第オープンのような感じですね。
野口氏:まぁ、もう僕は泊ってますけどね。
会場 :(笑い)
加藤氏:僕も作った二段ベッドで既に寝ています(笑)

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【質問③】
川商ハウスさんに質問なんですが、やはり集落とか周りの例で見ると、お盆や正月に親戚が帰ってくるとか、そういう理由で空き家のままっていう状況が続いている例を見るんですよね。そういうのって、何か間に入ってうまく取り持つとか、そういう方法はないんですか。
【質問③に対するやり取り】
今田氏:うち(川商ハウス)では他の市町でも空き家の売買とか賃貸借といったことを手がけているんですけれど、そういう事例ももちろん多いですね。僕自身、仕事の都合で別に家を借りているんですが、5部屋くらいあるうちの1部屋とキッチンだけしか借りてません。そういう契約を大家さんとすれば、全然可能ですよ。あとの部屋は入らないって約束でお互いが納得すればいいので。最近は空き家をそのまま貸して、借り手側が修繕する。その代わり、返却の時に現場復帰義務がない、みたいなスタイルが推奨されてますね。極端な話、大家さん側からすれば、固定資産税分ぐらいの安い価格で貸して、帰ってくる頃には家が綺麗になってる。みたいなこともあります。大家さん側が直さなきゃいけないなんて決まりはないですからね。

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【質問④】
加藤氏:逆に僕から村尾さん(チャレンジ拠点YOKANAの大家)がせっかくお越しなのでお尋ねしたいんですけど、むしろ由華さん(湯目氏)たちへ貸すか貸さないかとか、そういうやり取りってどうやってまとまったんですか?
【質問④に対するやり取り】
湯目氏:それはもう、村尾さんの人柄ですよね。やんなきゃって。実は、他の建物の候補もあったんですけど、オーナーさんも知らない人だったし、リノベーションするのは借り手側っていうスタイルでやるつもりだったから、それを顔も知らない人に最後にお返しするっていうのは、踏ん切れない思いもあって。でも、村尾さんなら!って。それだけですね。笑
加藤氏:それを受けて、どうだったんですか大家さんは。
村尾さん:あの建物はもともと種子屋久ツーリストの事務所だったりで思い入れもあって、なんとかできないかなって、でも無理かなってずっと思ってました。そんなとき湯目さんと出会って、なんていうか、もう湯目さんたちしかこの活性化はできないんじゃないかなって!ほんとにそう思って、もうだから、人ですよね。この人なら貸そうって。
湯目氏:めっっちゃ照れますね。笑
加藤氏:これは今日のハイライトだ!すごく素敵。

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以上をもって、当初予定していた90分が経過。30名弱が参加したイベントは閉会となった。閉会後も、参加者同士で名刺を交換し合う姿や、今日の内容について話し合う様子が見られ、まちづくりとリノベーションについて考えるきっかけとなったことは参加者の様子から明らかだった。


第2部 ランチ交流会

第2部では、感染症対策を行ったうえでランチ交流会が行われた。2部からは地元の高校に通う生徒らが参加し、大人たちと活発に話をするなど、第1部とは異なった様相で交流が行われた。

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第3部 DIYワークショップ

第3部からは旭町商店街にあるチャレンジ拠点YOKANAへ移動し、加藤氏の指導の下でDIYワークショップを開催。普段触ることのないインパクトドライバーなどの道具を駆使しながら2段ベッドを作っていく体験に、世代を越えて参加者が目を輝かせている姿が印象的だった。

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地元高校の生徒らも大人に見守られながら電動ノコギリを使って木材を切断。「やってみよう!」という精神を体現するまさに貴重なDIY体験となった。

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第3部が17時ころに終わり、本イベントの全てのプログラムが終了。殆どの参加者が第1部のみの参加となったが、総勢30名弱が空き家とリノベーションについて考える貴重な場となった。

第2部から参加していた高校生たちは、今年度に町内の空き家をリノベーションするプロジェクトに挑戦する。こうした地域で活躍するプレイヤーが更に現れてくることを、心から期待したい。


【文責】
執筆者:ゆのめともふみ (@TomofumiYunome
種子島在住のライター、エッセイスト。まちづくり・エッセイ・手間ひまかけたくだらない検証記事などを書いている。代表作「トクサネシティの"白い岩"を3か月探し続けた」で、オモコロ杯2021 金賞を受賞。不合理で何の役にも立たないようなことが大好き。

【お問い合わせ】
本記事の内容に関するお問い合わせは一般社団法人LOCAL-HOODまでお寄せください。
Mail:localhood2021@gmail.com
担当:湯目知史(ゆのめともふみ)


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