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3分でわかる:ファクト・ベースのマーケティング実務

なぜファクト・ベースなのか?

コンサルタントを長くやっていると、自分自身が全く馴染みのない商品の「マーケティング戦略」を作ることもあります。

「その商品のことを知らずして、マーケティングなんてできるのか?」と言われることもありますが、「商品知識」はあまり関係ないという立場です。もちろん、知識が全くないというのは話になりませんが、マーケターが知っておくべきことは「商品そのもの」ではなく、「顧客の行動や心理」です。

最近は、「商品や顧客を知っている」という「自覚」が、かえって仇になることの方が増えているように感じます。
絶好調だったブランドや商品がなぜ落ち目になったり、打つ施策がことどとく外れてしまったりする場合、例外なく「顧客の理解」がズレています。

しかし、当の担当者やブランドマネージャーはというと、「自分はこの道、〇年のプロだ。顧客のことは自分が一番よくわかっている!」と思っているので非常に厄介なのです。

こうならないように、マーケティングはKKD(勘・経験・度胸)ではなく、ファクト(客観的な調査結果や数字)を起点に考えなければいけません。
そして、多くの場合で当該商品やターゲット顧客に対する知識(という固定観念)がない人材の方が適任です。

この記事では、「ゼロベースでどのように顧客理解を深め、マーケティング戦略を練り上げていくのか」を、実務視点から具体的に解説します。

頭のモヤモヤを整理する

まず行うべきことは、手近な情報のインプットです。
手持ち情報(過去のアンケート調査等)の確認や新聞、雑誌、インターネットなどでの情報収集は皆さん当たり前に実施されると思います。
加えて、「売り場の観察」と「周囲の人にカジュアルに聞いてみる」を是非やっていただきたいです。

例えば、家電製品であれば近くの家電量販店に出掛けて、店員に「あの商品とこの商品は何がどう違うのか?なぜこんなに価格が違うのか?」など、根掘り葉掘り聞いてみる。
化粧品であれば、(男性の場合は)彼女から話を聞いたり、週末に一緒に百貨店のカウンセリングコーナーや店舗を巡ってみたりする。

商材によってアプローチは様々ですが、自分の目で見て、触れて持った時に感じる感想や違和感はとても貴重な情報です。
ある程度インプットができたら、考えを「仮で」まとめます。

・顧客は商品を購入・利用するまでにどういうプロセスを辿るのか?
・顧客はどのようなタイプに分けられるのか?(顧客セグメント)
・商品群やブランドの市場ポジションは?顧客セグメントとの対応関係は?
・顧客の購入・商品選択時の心理は?なぜその商品を買っているのか?
・ブランドロイヤリティはどの程度あるのか?どうすれば切り替えるか?

といったことをつらつらと考えていきます。
チームメンバーでブレストやディスカッションするのもよいでしょう。

「仮」なので、正確でなくてもよいし、「これはまったくわからん・・・」というものがあっても大丈夫です。

インタビュー調査(定性調査)

続いて、顧客インタビューを実施します。
ここで、わからないことを聞いたり、「多分間違いないけど、こうだろう」と思うことを確認したりします。

インタビュー調査の最大の利点は、「柔軟性」です。
例えば、相手が予想外の答えを返してきた時にアドリブで対応を変えたり、「もっとここを聞きたい」というものが出てきた時に時間配分を変えて深堀したり、仮説を「ふわふわ状態」から精緻化する段階でとても役立ちます。

また、「リアリティ」も大きな利点です。
インタビュー相手のひとりひとりに生活があり、すべての行動には何らかの背景(バックボーン)があります。その人の雰囲気や口調、細かい所作も貴重な情報です。

(調査会社に委託すればスピーディーに実施してくれますが、できれば手間をかけてでも自分たちで実施することをおすすめしています。また、調査会社にお願いする場合でも、必ず調査の場には立ち会っていただけるようにお願いしています。)

個別インタビューを10件ほどこなせば、顧客象がクリアになり、仮説がかなり精緻化されると思います。
FGI(フォーカス・グループ・インタビュー)は基本的におすすめしません。

アンケート調査(定量調査)

アンケート調査の目的は、仮説を「数字できっちり証明すること」です。
そして、アンケート調査は必ず「仮説が精緻化された後」で行います。

大切なポイントなので、もう一度言います。
アンケート調査は必ず「仮説が精緻化された後」で実施してください。

図3


アンケート調査のデメリットは、「柔軟性がない」ことです。
例えば、「XXの理由を教えてください」という質問に対して、「A, B, C, D, E」のような選択肢を網羅的に用意する必要があります。

図1

これを仮説がフワフワした状態で聞けるかというと、かなり厳しいです。
「選択肢がないものは、フリーアンサーに書いてもらえばいいじゃないか」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、フリーアンサーをすべて読んで分類する手間を前提にするのは非効率だし、多くの回答者は律儀にFAを書くよりも「その中にある選択肢から適当に」選ぶ傾向があります。

「数字できっちり証明する」必要がない場合は、この手順はスキップしても構いません。
例えば、インターネットサービスやECであれば仮説を早く実装して、KPIを確認した方が有効かつスピーディーでしょう。一方、大量の注文や設備投資などの「あれこれ試しながら細かいチューニングができない」ものは、調査結果を定量化してKPIの想定を作る等の作業を慎重に行うことになります。

施策のPDCA

顧客理解に基づいて、商品の打ち出し方(ポジショニング)、プロモーションのキーメッセージ、広告媒体、販売チャネル、キャンペーンの内容などを決めていきます。

PDCAを細かく回せる商材であれば、有効と思われる仮説から順に試していくことになります。
そうでない商材は、アンケートの段階で施策に関する質問を入れておき、顧客の反応を確認した上で実施可否や優先順位を決定した方がよいでしょう。
また、内容次第では追加で会場調査やモニター調査等を挟んだ方がよい場合もあります。
例えば、販売住宅を取り扱った時は、モデルルームのセットを組んだ会場にターゲット顧客を招待し、そこで模擬接客とインタビューを行いました。

まとめ

KKD(勘・経験・度胸)ではなくファクト(客観的な調査結果や数字)を起点に考えるマーケティングというテーマで、ファクト・ベースで考える意味合い、初期段階の頭の整理、インタビュー調査、アンケート調査、施策のPDCAについて、実務的なプロセスを解説しました。

ご理解いただきたいのは、「顧客を正しく理解するためには、相応の手間やコストがかかる」ということです。
「マーケティング戦略」と言うと聞こえは良いですが、泥臭くファクトを集めながら、思考をシャープに研ぎ澄ませていくプロセスが必要不可欠です。

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