見出し画像

老舗が本気で2.5次元やってみた〜FFX歌舞伎とSPY×FAMILY〜

3月は新作舞台が目白押し。その中でも演劇ファン”以外”にも注目を集めたのが、「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」とミュージカル「SPY×FAMILY」でした。いずれも松竹(歌舞伎)と東宝(ミュージカル)と、日本を代表する老舗興行会社が手掛ける”2.5次元”。それぞれ観たので、感想を書いていきたいと思います。

再現度100点満点。みんなが楽しめるエンタメに仕上げたスパミュ

漫画もアニメも絶好調の「SPY×FAMILY」がミュージカルに。しかもアーニャ役は歌えて踊れる幼稚園生を募集。
そんなニュースにみんながざわついたミュージカル「SPY×FAMILY」。東宝はこれまで「花より男子」や「キングダム」などを舞台化してきましたが、私自身(原作・アニメ履修済み)も一抹の不安があったミュージカル化。しかしそんな不安は幕上けと共に消え去りました。

一部映像を用いた大掛かりなセットに、舞台全面を用いたダンス。原作まんまのキャラクターが舞台上で動く。台詞の多くは歌でつながるため、場面転換も流れるよう。箱の大きい帝国劇場の機構をフルに使って、オーケストラの演奏で紡がれる「SPY×FAMILY」の世界に驚きを隠せませんでした。休憩中に思わず演出(G2)と振付(梅棒)を確認してしまいました。

どのキャストも役にぴったり。池村さんのアーニャは、2階席からもわかる、きゅるるんとした表情がとても可愛い。岡宮さんは初めて観ましたが、噂に違わず、演技がいい。ユーリの2つの顔(秘密警察とシスコン)をきっちり使い分けるのはもちろん、台詞がない場面でも表情や身振りで、個性や心情を表現できる役者ですね。歌も申し分ない。次回はストプレでしっかり観てみたいです。

「SPY×FAMILY」は世界観の説明がどうしても必要ですが、ナレーションや台詞を映像に映すことで、原作を知らない観客にも優しい設計。1幕はロイドとアーニャの出会いから入学試験に向かうまで、2幕は試験〜合格祝いの城遊びまでを描きました。1幕はテンポよく進みましたが、2幕はもたつきが・・・G2の脚本はどうしても「全役に見せ場を作りたがる」。なので、シルヴィアによる、あまり本筋に関係ないソロ&ダンスが2幕冒頭にあります。またフィオナは2幕にサクッと出てくるだけなので、不要に感じてしまうほど(女性キャラが少ないから入れた?)。そして1幕早々にロイドの少年時代に触れられますが、とくにその伏線回収はなし。
1幕終わった時点では「疑似家族が”本当の家族”になる過程にクローズアップしている」と感じましたが、2幕は別にそれが丁寧に描かれるわけでもない(フィオナとユーリが少しこするぐらい)ので、作品としては軸がブレブレ。”豪華なエンターテインメント作品”としては花丸ですが、舞台作品としては物足りなかったですね。同じく東宝製作で「原作まんま」だった、昨年の「千と千尋の神隠し」と比べると、脚本に難を感じました。
その点、FFX歌舞伎は優秀でした。「いま上演する意味」までも、作品に盛り込んでいました。

上演意義までも盛り込んだFFX歌舞伎

ついに(!)閉館が決定したIHIステージアラウンドで、ようやく歌舞伎が上演。・・・と思いきや、題材はゲーム「ファイナルファンタジーX」。菊之助さんのラブコールにより実現したらしいですが、特殊な劇場での上演も合わさり、歌舞伎ファンもゲームファンも怖いもの見たさでした。
私自身もゲーム未履修(直前にゲーマーさんの解説だけ)でしたが、まず行ってびっくり。客席の半数が初歌舞伎、8割以上がゲーム履修者でした。普段とは違う客層に驚き。男性用御手洗いが並んでいるのを見たのは、いつ以来でしょうか。
そんなアンケートをおこなったのは、冒頭のオオアカ屋(萬太郎)による挨拶。世界観も説明してくれるので、歌舞伎ファンにも安心。また歌舞伎初心者のために、見得をみんなで体験する時間も。見得の体験は初めてでしたね。

ステージアラウンドでしかできない演出も見どころ。180度近い開閉式の幕には、実際のゲーム画面が映し出され、スピラの世界に迷い込んだよう。(TDSのニモのシーライダーみたいな感じ)一部の回想シーンはこの幕に映像が出し、舞台転換も兼ねています。

主人公ティーダがスピラに迷い込む設定なので、シンやスピラの世界観については、台詞として説明されます。なので観客自身(ゲームをやっていなくても!)もティーダと共に冒険し、シンの謎を解き明かしていく感覚になりました。ティーダをはじめ、キャラクターたちは原作の姿・せりふ回しを踏襲しつつ、歌舞伎の要素を取り入れています。また歌舞伎の機構がない(花道などがない)分、衣装や演技、演出(宙乗り・黒衣など)で歌舞伎の要素を取り入れている印象を受けました。あた階段にLEDがあったり(波や魔法を表現)、霧に映像を投影したりと、照明が現代的な演出だったのも印象的。歌舞伎であれほど華やかな照明はとても珍しいです。

そしてラストは召喚獣たちを「連獅子」の獅子の姿で表現。前半はゲームでの召喚獣だったので、後半のクライマックスには驚きました。ゲーム演出と歌舞伎演出のバランスが全体的にちょうどよかったのではないでしょうか。

役者たちも好演。
少年らしい未熟さと威勢のよさを見事に併せ持った菊之助さんのティーダ、まさに”可憐な乙女”であった米吉さんのユウナ、過去の愁いが色気となった梅枝さんのルール―、スポーツ少年の明るさを持つ橋之助さんのワッカ。吉太朗さんのリュックはとてもギャル、彦三郎さんのキマリの笑顔はなかなかのクセ(褒めてます)。
獅童さんのアーロン、錦之助さんのブラスカ、彌十郎さんのジェクト、歌六さんのシドは、大人らしい佇まいとそれぞれの覚悟、若者たちへの愛が感じられました。
松也さんのシーモアは底知れぬ悪の姿が魅力的でしたし、芝のぶさんのユウナレスカはシンを食べてしまうほどの強烈なラスボス感。2役を演じた丑之助さんはもはや子役の領域ではありませんね。

この作品の軸となっているのは、親子の絆と世界・人の再生。ティーダ、ユウナ、シーモアそれぞれの親子が対比で描かれており、クライマックスの感動につながります。また「再生」は、菊之助さんが自粛期間中に歌舞伎化を思いついた頃からテーマとしてあったようで、劇中に何度も「犠牲」の描写が出てきます。家族や友人・恋人との突然の別れはつらいもの。でも彼らのことを時々でも思い出し、いまを生きていこうと、物語の最後でユウナは演説します。ちょうど観劇した日が震災の日だったこともあり、私はこの演説に心をつかまれました。同時に「なぜ菊之助さんはこのゲームをいま、歌舞伎でやりたかったのか」という問いの答えを見つけたと感じました。

現在の2.5次元は、流行りの漫画・アニメが舞台化する速度がかなり早まっていると感じます。また再演もほとんどないので、ただただ消費されるだけになっているようにも私は感じます。「舞台化して、評判になればシリーズ化するか!」みたいな。漫画・アニメの映画化の乱立と同じくらい、一過性が強いです。
旬の波に乗るだけなら別にいいでしょう。でも1つの作品にするなら、コスプレ・ただ2次元を3次元にしただけ以上のものである必要があります。「なぜこの作品はヒットしたのか」それを考えれば、自ずと舞台上での物語の方向性が決まり、それが上演する理由になるでしょう。まれにSNSで見かける「2.5次元舞台の虚無」も、ここが押さえられていないからではないかと思います。舞台の方向性が原作とかけ離れているものほど、ファンはがっかりです。

数年前から国産ミュージカルを海外にもっていく気運が高まっています。その中でも2.5次元は、海外からも注目を集めやすい作品であるでしょう。ですが、いまの作品たちでは弱いように感じます。原作の目新しさにかかわらず、脚本・演出が、原作の魅力をきちんと理解しなければ、2.5次元の輸出は到底難しいでしょう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?