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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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途中からネタバレ『最後の決闘裁判』解説。重要なのは「中世」であるということ。

Twitterで話題の『最後の決闘裁判』見てきましたよ!
いや~、映像すごい!中世にタイムスリップしましたね~。

今回はまだ見てない人に向けて、見る前に前知識として入れておいた方がよい中世の騎士道についてまず解説しておきます。これがないまま見ると、「え?」ってなりかねないので、そこは見る前に抑えておくべきポイントです。んで、そのあとに、それぞれの立場や考え、あとは「ここに注目してみると面白いよ!」っていうポイントを解説しますね。

私は社会人大学生でして、卒業論文を10月に執筆し、提出しました。
その中で、中世ヨーロッパ以降の服飾文化についても学ぶ機会がありましたので、服飾文化から見る『最後の決闘裁判』とかをちらっと書きますね。

【ネタバレなし】中世の騎士道とは

この『最後の決闘裁判』というのは、1386年から話がスタートします。
ジャン・ド・カルージュという騎士の妻マルグリットが、夫カルージュの親友であるジャック・ル・グリという者に強姦されたと訴えます。夫は妻の話を信じ、ジャック・ル・グリに決闘を挑むわけです。

騎士道とはなにか?コトバンクに聞いてみました。引用元

騎士道
〘名〙 中世、ヨーロッパで騎士の精神的支柱をなした道徳。キリスト教を尊び、勇気、礼儀、名誉、婦人への奉仕などを重んじた。

中世ヨーロッパには職業として「騎士」という身分の人がいました。

今でいえば、軍隊に所属する兵士が近いかもしれませんね。
戦争があった際にその戦争に参加する戦闘員のことを「騎士」と言いました。映画に登場するカルージュもル・グリも従騎士という身分で、いわばこれは「騎士見習い」といったところ。
戦闘員と聞くと荒々しく感じますよね。まぁ多分実際に戦争するわけなので、結構血なまぐさい感じの戦場だったと思います。日本で言えば戦国時代みたいな感じかなーと思ったりしました。甲冑着た幽霊、今でも出てくるみたいですしね、、、ヨーロッパでは!

ですが、時代同じくして、その現実とはかけ離れた形で「宮廷風恋愛」というものが文学の中で育っていきます。「騎士道物語」と呼ばれるジャンルがあります。有名なのはアーサー王伝説ですね。アーサー王は日本人にもよく知られているかと思います。石に刺さった王様の剣エクスカリバー、知ってますでしょ?魔法使いマーリンとかも聞いたことありますでしょ?!
アーサー王伝説というのは色々な人が創作した、アーサー王に関する物語全般を指すようです。
例えば小説「吾輩は猫である」を「夏目漱石」が書いてますが、「アーサー王伝説」という小説を誰か特定の人物が書いたとは言えないのです。
一応、「アーサー王の死」という作品があり、トマス・マロリーという騎士が書いていたり、ド・トロワの「ランスロ、あるいは荷車の騎士」などが代表的なアーサー王伝説としてありますが、最近映画化された映画『The Green Knght』の原作である「ガウェイン卿と緑の騎士」は作者不明です。

アーサー王伝説の中には聖杯を見つけるなどの冒険物語もありますが、宮廷風恋愛を扱った作品もあります。ド・トロワの『ランスロ、あるいは荷車の騎士』は「貴婦人と騎士の主従関係における宮廷風恋愛」を書け!と命令されて書いた作品です。

貴婦人とはなんぞや?だと思うんですが、これがまた複雑な話でして。。。
基本的な宮廷風恋愛(というか騎士道物語)というのはこんな感じ。

①騎士に試練がのしかかる
②騎士は準備してその試練に打ち勝つために旅にでる
③行く先々で乙女や貴婦人からの誘惑を受ける
④試練に打ち勝つ!
⑤帰郷!

この貴婦人ってのが厄介でして、既婚の奥様=貴婦人です。
百科事典を見てみましょう。(世界大百科事典 第2版)引用元

宮廷風恋愛
(1)対象は上層貴族階級の人妻に限る(夫婦間にこの愛はありえない)
(2)プラトニックではなくて官能的な愛ではあるが容易に充足されてはならない
(3)嫉妬深い夫やさまざまな障害によってかえって強められねばならない
(4)秘められた恋であり,とくに女性の名は明かされてはならない

中世の結婚というのは、基本的には恋愛結婚ではなく、政略結婚のようなもので、結婚する本人たちの意思はほとんど考えられていないんです。いやだろうが、生理的に無理だろうが、結婚するんでしょうね。
で、その後の結婚生活においても、愛のあるセックスなどもなく、セックス=子孫を作るためという感じです。
恋愛というのは結婚したあとに、夫の部下だったり、通りすがった騎士とかを助けたりして、騎士たちとするものであるという感じでした。
女性に対して永遠にお仕えすることを誓う=愛!みたいな感じですかね。
そしてひっそりと行われており、人に言ってはならないのが宮廷風恋愛でございました。私は当時の身分の高い女性たちがこのように恋愛を楽しんでらっしゃったのであれば、人として愛を知ることができるのはとても良いことだったのではないかしら?と思うのですが、中には「宮廷風恋愛なんぞ文学の中にあった幻想で、実際の騎士道ではそんなことしてなかったんだ!」というご意見もあるそうです。ふむ。

というわけで、映画を見る前に前提として覚えておくことは3つです!

・騎士=戦闘員
・宮廷風恋愛=当時流行していた文学のジャンル
       騎士が貴婦人にお仕えするスタイルで、不倫物語。
・当時の結婚=そこに現代のような恋愛結婚の末に生まれるような愛は存在ない。(政略結婚)

では、予告の動画をご覧ください!

※【注意】予告動画より先はネタバレありの記事です。

【ネタバレ】ジャン・ド・カルージュの真実

さて、ここからはネタバレありで書いていきます!
ふぅ~言いたくてしかたなった!

この作品は、
①ジャン・ド・カルージュの真実
②ジャック・ル・グリの真実
③マルグリット・ド・カルージュ(妻)の真実 の3つの章でなりなっています。

同じようなシーンを描いているのに、少しずつその表現が異なりますよね。これは黒澤明監督の『羅生門』のスタイルと言われます。
黒澤明監督の『羅生門』というのは、芥川龍之介の小説『羅生門』と『藪の中』を足して作った作品です。
『藪の中』という作品はとある事件に対して、それぞれの者が証言をするのですが、話がかみ合わない。視点が変わると、捉え方も異なるということを描いた作品です。なので、映画『羅生門』のスタイルというより、芥川の小説の『藪の中』スタイルの方が正しいかもですね。
短い作品で、青空文庫で読めますので、下記リンクからどうぞ!

さて、みなさん、①のカルージュの真実を見た時にどう感じましたか?
私は
・騎士(最初はまだ従騎士だけど)にふさわしい勇敢な男
・貢献度は高いのに友人や領主ピエールから馬鹿にされていてかわいそう。
・妻のことは大切にしようと思っている。
こんな感じに思いました。

でも結婚で貰える領土の話でしつこいのを見て、「ちょっと金にうるさそう?」って感じたり、あまりにも自信満々に「俺はすごいんだ~!」ってアピるのが、ちょっとウザって思いましたよね。
結婚もお金がないから、お金のためにしてますしね。

実際の周りからの評価と、自己評価が一致してないタイプでした。
悪い人じゃないだろうし、戦場では勇敢に戦うタイプなのでしょうが、「名誉」とか「地位」に固執しまくる人でしたよね。
「俺は騎士になったの!ル・グリは従騎士じゃん!騎士になったんだからみんな俺をサーつけて呼べよ!」と喚き散らしてて、まぁそうだけどさ~、そうやって喚き散らすのは、騎士っぽくないよねぇ。。。と思ったり。
「名誉大好き!地位が欲しい!The血気盛んな戦闘員」って感じでした。

カルージュの父の長官職を、息子である自分が継げないと知り、怒っていたのもそれが理由。
カルージュはル・グリを親友だと言ってますが、税金の取り立てをして、新しくやってきたピエールにゴマすって宮廷で優雅な暮らしをしているル・グリのことは「騎士じゃねーだろそんなん!」と心の中で見下しています。
騎士たるもの戦うべきだ!と怒ってましたが、宮廷で優雅にお金数えて(ル・グリ大変そうでしたけどねw)女の子といちゃついてるル・グリに長官職を奪われたのは相当頭にくることだったでしょう。

妻に対して、カルージュは紳士的で愛のある夫であるという評価のようでしたが、妻であるマルグリットの真実では、ただただ乱暴にチ〇コを突っ込むだけで、マルグリットが思い描くような愛のあるセックスではなかったようですね。

ジャン・ド・カルージュを現す言葉は「名誉」です。もしくは「自信過剰」でしょうか。

【ネタバレ】ジャック・ル・グリの真実

では、ル・グリはどうでしょうか。
彼が大切にしたものはなんでしょうか?彼は修道士を目指していましたが、途中から従騎士となりました。
彼が重視したのは名誉ではないですよね。「裕福な暮らし」です。
新しい領主ピエールがやってきた時に彼はピエールから税金の取り立て係を命じられます。嫌な役割ですよねぇ。。。
カルージュには「俺が頑張ってるから税金は集まってる」と言いますが、実際には暴力をふるって、お金を出すように迫っていましたね。やだー!
それって騎士道に反するんでは?!と思います。
しかも何がむかつくって、ピエールの乱痴気騒ぎのために、暴力で奪ってきた人々の税金が使われてるかと思うとむきぃいいってなりますよね。
ここで注目していただきたいのが、カルージュ&マルグリットとル・グリ&ピエールの服装です。
中世ヨーロッパにおいて、価値の高い服は青や赤でした。
フランス王は青にユリの紋章が入ったマントを羽織ってましたよね。
また、ピエールも服を仕立てるシーンがありました。
ピエールはいつもよい服を着ていて着飾っていました。地味な服装をしていません。ピエールに仕える前のル・グリの服は覚えてないですが、ピエールに仕えたあとのル・グリの服は少しだけ華美になります。マルグリットを街で見かけたとき、黒に金色の刺繍の入ったおしゃれーな手袋してましたでしょ・・・
実際のル・グリは乱暴してでも、仕えるピエールのためにお金を取ってきて、自分の地位を高めていこうとする人で、結構乱暴者に見えます。
ですが、ル・グリの視点で語らられる「ジャック・ル・グリの真実」では、彼が自分をどうみせたいのかが分かります。

ル・グリは自分がそこそこモテるタイプだというのも気づいております。宮廷で、ラテン語が読むシーンがありましたね。修道士を目指していれば、聖書がラテン語で書かれているのでラテン語を読めるのは当たり前ですが、インテリっぽさがあるんですよね、ル・グリ。

騎士仲間の子供が生まれたかなんかのパーティで、ル・グリとカルージュは再会し、手を取り合って仲直りをしますよね。
そこで、ル・グリはマルグリットに出会います。
マルグリットも教養のある女性であるとル・グリは思ってますね。
ラテン語?かなんか交えて会話を楽しんでいるシーンがありますが、マルグリットの真実では一切出てこないんですよね。
マルグリットの真実の中では、遠くから見て感想を述べる程度にとどまっているんですよね。

ル・グリの真実の中で、マルグリットと会話した際に出てくる「薔薇物語」という言葉がありますが、この「薔薇物語」は実在する本です。
感情の擬人化という、画期的な手法で描かれた恋愛指南書って感じでしょうか。引用元

詩人が夢の中で薔薇に恋をする物語に、儀礼、歓待、理性、純潔、危険、恐怖、嫉妬などが擬人化されて登場する。宮廷恋愛、騎士道恋愛の伝統的な作法に沿った内容になっている。
愛の庭園を訪れた詩人が、愛の神の放った矢に射られ、薔薇に恋をする。番人たちが邪魔をするが、困難を乗り越え、詩人が薔薇に口づけすると、薔薇は閉じ込められてしまい、詩人は嘆く。

つまり、ル・グリは「恋愛について書かれた宮廷風恋愛も理解している教養の深いインテリな紳士的な騎士である」というように自分を解釈しているんですね。ル・グリの真実の中で、マルグリットは「薔薇物語はおもしろくない~」的なことを言ってました。これはマルグリットという女性は、ピエールの宮廷にいる女の子たちのようにキャッキャとした恋愛ごっこが好きなわけではなく、一人の知的な女性として描かれています。

ル・グリにとって理想の女性は、マルグリットのような知的で教養のある女性であって、宮廷の女の子たちのような子ではないということでしょう。

ル・グリのマルグリットへの想いは当時の貴婦人と騎士の関係であるという解釈をル・グリ自体はしています。なので、ル・グリの視点では、カルージュが不在の城に尋ねていってマルグリットが扉を開けてすぐに、ひざまづいて、マルグリットに永遠の愛を誓っていました。これは騎士道における、貴婦人への誓いですね。「騎士として、貴婦人にお仕えします。なんでもやります!」です。

ル・グリの真実の中では、お城の玄関から階段を上って、寝室へと逃げるマルグリットが、階段の最初の段で、不自然に靴を脱いでいましたよね。
私は「あれ、中世ヨーロッパって土足だめなのだめなの?」とか思いましたが、思い出しました。
中世ヨーロッパでは、男性に女性が足を見せることはタブーでした。これは結構長い間タブーでしたね。
足をみせることは性的なことと思われていたようです。
18世紀の絵画でも、この足が見えるという表現がエロいねということになってます。(詳しくは山田五郎さんのYoutubeでご覧ください!)

つまりですよ、、、ル・グリの真実の中では「靴を自ら脱いで落として、階段を駆け上がったマルグリット」=誘っていた!と言ってるんですよ!!!
ちなみにマルグリットの真実では危険を感じたマルグリットが慌てて階段を駆け上って逃げている途中でふいに靴が脱げてしまったという表現にとどまっていました。

また、階段を上ったあとも、ル・グリの真実の中の映像では、マルグリットは階段を駆け上がっても、走って逃げません。これも「マルグリットの誘惑」として描かれてます。でも、マルグリットの真実の中では彼女は駆け足で逃げてます。

その後、寝室に行きますが、あの丸いテーブルを囲んでのやり取り。あれもル・グリからしたら当時の性的なお遊びの一部としか思えていないわけです。やってましたよね?ピエールとの乱痴気騒ぎの中で!

そしてベッドに押し倒されたあとの表現も違いました。
ベッドを遠くからうつすシーンがありますが、ル・グリの真実の中では、彼女の足は1度だけ、快感を感じているようにに動くのです。
マルグリットの真実では、ル・グリから逃れようと必死に体を、足を動かして暴れています。

ル・グリから見てマルグリットは誘惑していたように見えますが、実際はそうではなかったのでしょう。ル・グリがマルグリットを強姦した理由は、おそらくですが、騎士仲間のパーティで見たマルグリットの美しさに惹かれたのでしょう。カルージュがル・グリを見下していたように、ル・グリもカルージュをバカにしています。カルージュは頭がよくないから、冒頭のシーンで暴走し、リモージュを奪われる結果になったわけです。
お互いに相手に嫉妬するというか、敵視していたんでしょう。
そんな頭の悪いカルージュにあんな素敵な奥さんいるのが許せない!俺の方が美男だし、お金もあるし、恋愛だってわかってるのに!!!という気持ちがル・グリを動かし、マルグリットの強姦へと繋がったのでしょう。

結局、ル・グリの真実の中のマルグリットの描写はおそらくすべては嘘だと思うのです。ル・グリの中で、感情にまかせて強姦してしまったことの整合性を保つために、後から作ったストーリーでしょう。その証拠にフランス王の前での裁判では「私は強姦なんてしてません!」と言ってましたよね。

ル・グリを現す言葉は「嘘」だと思います。もしくは「お金」ですかね。

【ネタバレ】マルグリットの真実

このマルグリットの真実だけが真実であるというのが、正しいのではないかなと思います。
マルグリットは、マルグリットと結婚した際の持参金と領土を狙ったカルージュと結婚させられます。それも税金のため、、、かわいそうに。
カルージュがマルグリットのことを美しい子だと思っているのは事実でしょうが、カルージュはお金をもらって、子供を作れればそれでいい人です。

この当時の服装について簡単に説明しましょう。
赤や青は人気の色で、値段も高い布でした。身分が高い方はこの色の服を着ていました。身分の高くない色はタンニン色という色でした。今でいうと黄土色のような色です。これは一般の市民は着用することがあっても身分の高い女性が着用することはほとんどありませんでした。
基本的に青、赤を基調とし、黄色や緑色のドレスは着ません。
緑色に関しては、五月祭の時期と、結婚した男女、婚約中の男女が着用すると言われております。
黄色は中世では非常に地位が低い色でした。
このあともう少しすると黒がヨーロッパで大流行し、みーんな黒を着る時代が来ます。
※中世ヨーロッパの服飾については、徳井淑子先生の書かれた「色で読む中世ヨーロッパ」をご確認ください。

映画の中で、マルグリットがタンニン色の服を着ているシーンがあります。ピエールやル・グリと違って、マルグリットはとても質素な服装です。
でも、若い女性ですから流行のドレスの形には興味があり、胸がざっくりと空いたドレスを新調していましたよね。あのとき注文していた色も青や赤ではないので、財政を考えて、あまり高くない布で仕立てたと考えられます。

マルグリットは自分がセックスで苦痛しか感じず、セックスに歓びを見出せないことに不安を持っていました。マルグリットの中では、もっと夫から丁寧に愛されて、気持ちのよい歓びを感じるセックスをしなければ子供を授からないのだろうという思いもあったでしょう。医者(らしき人)に見てもらっているシーンがあったので、心配してたんでしょうね。

マルグリットの見ている世界と、カルージュが見ている世界、ル・グリが見ている世界は相当の差がありますよね。
マルグリットの世界では、子作り、夫とのセックスで喜びを感じるにはどうすればいいのかというのがメインです。ですが、夫が不在の間に、家業である馬の繁殖について意見を述べたり、税金の徴収を行ったりします。その中で夫の良いところも、悪いところも見えてきますが、彼女はそういった業務を嫌がることはなく、積極的に取り組みます。
このことからマルグリットは非常に聡明な女性であることがわかります。
恐らくカルージュよりもうまいこと自分たちの領土をまとめあげて、村人を導ける素質があります。馬に対してもとても優しい人でしたね。
エンドロール前に「再婚せず30年間にわたり、女主人を務めた」という言葉はこのシーンがよく表しているなと思います。
マルグリットの世界はとても狭いのです。
夫、義母、召使のアリス、城に勤めている人たち、友人のマリー(友人ですか?よくわからず)くらいしか話す相手はいないのです。
パーティに出席したときにも椅子に座っていましたし、積極的に社交するタイプでもなさそうです。
夫の領土がそこまで裕福ではないことを理解しているので、その中でつつましく暮らしていこうと思っている女性です。マリーが美しい服で着飾っているのに比べたら、マルグリットは本当に質素です。

マルグリットが聡明な女性であることは、彼女が夫の死後30年間にわたり女主人を務めあげたという事実からして間違いないと思います。しかし、ル・グリがその聡明さにほれ込んで、彼女を強姦したというわけではないでしょう。先に述べたように単純に、カルージュにはもったいない!俺の方がいい男なのに!という力の証明でしかなかったと思います。
カルージュにマルグリットが話すわけないと思ってたのでしょう。
しかし、ル・グリの読みが外れたんです。

マルグリットが強姦されたと訴えたわけです。
これはル・グリからしたら、ありえないことでした。

ル・グリが言うように宮廷風恋愛であり、貴婦人であるマルグリットがル・グリを誘惑し、ことに至ったのであれば、宮廷風恋愛のルールに基づいて、この恋が公になることはなく、秘密のままのはずなのです。

ですので、マルグリットがル・グリに強姦されたと公にしたということは、これが宮廷風恋愛の一部ではないということだと思います。

ですが、当時の女性は立場が弱いです。
裁判でも相当失礼な言葉をマルグリットに浴びせていましたね。
カルージュが決闘を申し込んだということは、マルグリットの名誉を守るためのように見えますが、これはマルグリットのためではないんですよね。
結局は自分のため。カルージュは自分の名誉のために戦うのです。

お腹の子が、カルージュの子だろうが、ル・グリの子だろうが、マルグリットにはどっちでもよかったのでしょう。
だって、どちらとのセックスにもマルグリットが理想とする愛はなかったのです。
もちろん強姦されたことは別として。(公にして裁判なったのですから、強姦には当然怒りを持っていたでしょう)
マルグリットの愛は、息子との間にありました。
彼女はこの愛を大切に思うんです。

ラストシーンで、決闘場を後にするカルージュはとてもうれしそうでした。決闘に勝つことでカルージュは自分が本当に欲しかった「名誉」を手に入れたのです。
「妻を守った」よりも「名誉なことである」ということが上でした。
後ろをゆくマルグリットは悟るのです。
この結婚には愛がない。私は夫の名誉のためだけに存在し、命すら危険にさらされたのだと。。。

しかし、ひとつだけ謎が残っています!
夫かルージュは数年後に戦死し、マルグリットは女主人として30年間務め、一度も再婚されなかったとテロップが入ります。

2~3歳くらいでしょうか?
美しい花がさく野原で金髪の男の子が遊んでいます。
この映画の中で、こんなに明るくて美しいシーンいままでありませんでした。
それを見守るマルグリット。
マルグリットのドレスは美しい黄緑色に、ピンク色の花が刺繍されたドレスです。
これ、どういうことかわかりますか?
カルージュが生きていたころにはこのようなドレスを買うお金はなかったでしょう。
いつも質素なドレスでした。

ヨーロッパでは5月が美しい季節です。
花が咲き、緑が茂る季節です。

このような美しいドレスを買える=財政豊かであるという象徴です。
カルージュがいなくなってたあと、マルグリットは手腕を発揮し、財政を立て直したのではないでしょうか?
彼女は自分で欲しいドレスを仕立てて、誰にも文句を言われずに、おしゃれを楽しむことができるようになったんです。
子孫を残すという重圧から解き放たれて、己を開放できるようになったということかもしれません。

中世のフランスに、このように力強く生きた女性がいたことは知りませんでした。彼女のように強く生きていきたいなと思いました。

マルグリットを現す言葉は「愛」でしょう。
もしくは「心の解放」ですね。

最後に

マルグリットという1人の女性を巡る話のように見えて、結局男たちは自分を美化し、自分をよく見せようとする話でした。
マルグリットは自分を美化して語るようなシーンがありませんでした。
違和感が一切ないのです。

例えば、ル・グリについて「美男ね」と言ってしまったりする。
ふと口にしてしまったことをあとあと責められるわけですが、もしマルグリットが嘘をついているならば、そのシーンはマルグリットの真実の中に描かれるはずがありません。
ひとつだけ嘘があるとしたら、夫とのセックスに歓びを感じているか?という点でしょう。これについては歓びを感じているシーンが描かれないのでわかりませんが、おそらく、ル・グリとも、夫カルージュとも歓びなんて一切感じなかったのでしょう。
現在でも多くの女性がそうであるように、愛されていなければ歓びなんて得ようがありません。
彼女が歓びを感じたと嘘を言ったのは子供を愛していたから。
夫との子であると言わなければならなかったからでしょう。

現在の女性は中世ヨーロッパの女性とは違い、自由です。
しかし、まだまだ色々な問題がありますよね。
歴史の中で、このように強く生きた女性に感謝し、
また、これから後の時代を生きる女性がもっと自由になれるように、
今を生きる私たちも強く生きなければいけないと思いました。

よい作品に出合えてよかった!

※私は中世ヨーロッパの専門家でもなんでもないです。
一応すべて調べた上で書いていますが、万が一間違っていた場合はご容赦ください。Twitterで連絡いただければ直します。

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