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引き継ぐという仕事の本質

「辞令は突然に」
テレビでそんなショートドラマしてたな、そんな出勤日

私も来たのです。内示が。

今日は少し話があると言われてからその話を聞くまでは、これまで犯した些細な罪の一つ一つを思い浮かべた。
それはもう次々出てくるホテルのビュッフェのように。
部屋に入り、どうやって言い訳をしようとそればかりを考えていた。

「実は急なんだけど新しい事業のリーダーを君に任せたいと思う」
「開始は急だけど火曜日から、仕事内容は・・・・」

一気に思い浮かんでいた些細な罪という名のビュッフェは消えて
言葉が右から左へ流れて行く感覚

私の仕事は、書店員という名の営業ウーマン
入社して以来ずっとこの仕事だった。
この仕事に対して特に愛着は無かったが、新しい人と話して仲良くなって行く過程は人間味があって好きだった。

急な辞令は、将来への期待感よりもむしろ絶望に近かった。
これまで培ってきたお客さんとの距離感、
決まっていたスケジュール、
任せられていた仕事、
全てにおいて元々無かったかのように消えてなくなった。
しばらくは夢であってほしいと願い現実を受け止められず帰りの車内で涙した。

そして帰宅後、三浦春馬さんの訃報を知り
一旦全てのことを忘れたことにしてみた。

でも空が黒く染まって行くと現実に引き戻されて
引き継ぎ書でも作っておこうか、
そんな気持ちを思って書き出した。

引き継ぎ書を作ってみて思った。


愛着がないと思っていたことが、
こんなにも自分にとって愛のあるものだったということ。
お客さんのデータを思い出すとこれを言ったらなんて言うかな、
月曜日部署のみんなに挨拶するのにみんなどんな顔をするだろう、

失ってわかる、いつもの日々のありがたみ
過ぎてわかる1日の短さ
引き継ぐ、という仕事は私のような営業職では限界がある
人と人との関係は引き継げないから。

別れがこんなに悲しいなんて
新しいことがこんなに不安なんて
必要とされることがこんなに辛いなんて

そうやって引き継ぎ書は書かずに今日を終える。



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