転職組の情シスマネージャの葛藤と対処法 ~「CIO/IT責任者が語る、DX時代を打ち勝つための30の提言」を読んで
私はIT業界から製造業に転職した情シスマネージャーです。会社のDXを推進する立場のひとりとして、自分のスキルや知識をアップデートしたいと思い、この本を手に取りました。
「CIO/IT責任者が語る、DX時代を打ち勝つための30の提言」は、特定非営利法人 CIO Loungeに所属するIT先進企業のCIO/IT部門長が書いた本で、2024年1月17日に発売されました。
本書は、日本企業のデジタル競争からの脱落が危機的状況であると指摘し、その中でDX時代に求められるIT部門やCIOの役割と行動を30の提言という形にまとめて紹介しています。
本書は以下の文章から始まります。
今、自分は製造業の情シス部門のマネージャーとして、全社的なデジタル変革プロジェクトの真っ只中に身を置いています。
自分は、この本を読んで勇気が沸いてきました。なぜなら、本書に書かれている30の提言は全て製造業のCIO/IT責任者を歴任された方の目線で書かれており、実業務の課題解決に直結するものばかりだったからです。
本を読んだだけですが、自分がアップデートした(気分)になれたのです。
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そういう自分も、実は数年前、仕事で色々な葛藤を抱えていました。
中途採用でIT業界から今の会社に転職したばかりの頃、自分は、事業部門の人だけでなく、配属された情シス部門のメンバーからも「東京のIT会社からやって来た異分子」として見られていました。
そして悪い予感通り、最初の1年間は、ただ頑張っただけで空回りばかり。目に見える成果を出すことができないまま終わってしまいました。
今回は、本書に書かれた提言を紹介しながら、当時自分が抱えていた葛藤と、それに対する向き合い方について書いてみたいと思います。
①情シスを変革せよ
まず最初に、DX時代におけるIT部門の果たすべき役割と意識改革に関する提言を紹介します。
提言15 システムを通して全社の業務を俯瞰できるのはIT部門だけ。最新のIT技術や考え方を活用していち早く課題解決する方法論を部門や経営に提案して信頼を勝ち取ろう。
この一文を読んで、入社当初配属された情シス部門が事業部門から信頼されていなかったことを思い出しました。
全社のITの方向を示し推進するはずの情シス。しかしその実態は、20年前の「電算室や開発室」と言った組織で行われた業務そのままに、内製システムの改修とシステムオペレーション業務を粛々と行っていたのです。
そんな中で自分はメンバーとのコミュニケーションにも問題を抱えていました。
メンバーは、みんな真面目で素直な方ばかりなのですが、自己開示や意思表示が上手くなく、さらに何をするにも上司や周囲に対する遠慮や忖度をしていたのです。
これは個人の問題ではなく組織全体の問題だと言う事に気付き、組織全体の文化や風土を開かれたものにしなければいけない、と感じたのです。
▶向き合い方と取組んだこと
自分は早速、情シスの意識を変えるためにできることから始めました(ちなみに、入社して1年半は、マネージャでも何でもない担当者)
情シスのロードマップを作った
パッケージやクラウド活用にシフト
「Backlog」を使い課題を共有した
「SCRUM」を実践した
一緒に社外のセミナーに参加した
上記の取り組みは全てが上手くいったわけではありませんが、こういった活動を通じてメンバーに変革の意識付けを少しずつ行いました。多少強引なやり方もあったため、離れていくメンバーもいましたが、仕方ありませんね。
私はこれを2~3年かけて取り組みました。その結果、メンバーとの間に「いい感じの関係性」を築き、意識とコミュニケーションを変えることができたのではないかと考えています。
また、業務遂行においては、とにかくアウトプットの重要性を説き、アウトプットを伴わない仕事は成果がない、と言う事を強調しました。
メンバーの年次目標を設定する面談では、レベルの高い目標を設定してもらいました。例え最終的に目標に届かなくても、失敗と評価するのではなく、次につながる途中の成果として評価するようにしました。
そして今まさにメンバーは少しずつ意識が良い方向に変わっています。地道な意識改革とメンバーの努力により、DXの荒波についていける組織にまで成長出来たと思っています。
②強い現場と対峙せよ
次に、IT部門(=情シス)とステークホルダーとの関係性の中で取り上げられた、現場部門との関係性に関する提言を紹介します。
提言16と提言21は、現場とIT部門との関係を良好に保ち、能動的に提案するというものです。私はこれにも共感しました。
なぜなら、自分が入社当時に担当したある事業部門の基幹システム刷新プロジェクトでは、現場部門や経営者を相手に上手く立ち回ることができず、成果をだせないまま時間だけが過ぎていったという苦い経験があったからです。
当時、その事業部で稼働していた基幹業務パッケージは、パッケージ外で追加された大量のVBやAccess、Excelマクロのアドオンツール群で構成されており、そのアドオンツールを無理矢理刷新しようとして現場からの反発を招いてしまったのです。
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こんな現場部門とのギクシャクしたやり取りがありました。今も忘れることができません。
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現場部門が現場の改善の積み重ねでできた個別最適化したシステムに固執するのは当然で、誤ったアプローチで提案された新しいシステムに対して抵抗感を示しました。
自分の提案を押し付けるようなアプローチをした結果、現場と対立してしまい、プロジェクトは停滞しました。
次にそんな現場部門との葛藤にどう向きあい、どう解消してきたのかを書きます。
▶現場部門との最適な距離感
私はまず、現場部門との精神的な距離感をなんとかして改善しようと試みました。
そして、現場部門に対して以下のような行動を取るよう心掛けました。
粘り強く接し、決して成果を急がない
対話した結果、結論の先送りやスケジュール見直しになってもそれを許容する。他責にしたり、勝手に終わらせたりしない先ずは自己開示→次に共感する
自分は何者かを知ってもらうために仕事を作って現場に行く。現場業務を50%くらい理解すればなんとかなる部門に寄り添い、困りごとを一緒に解決する
何か一つ小さなテーマでもいいので改善を手伝い、成果の後押しをする
③転職者の葛藤と覚悟
話を冒頭の転職した当時の葛藤の話に戻しましょう。
今はその葛藤はありません。
新しいメンバーが増えて雰囲気も少し明るくなりました。
teamsの全社導入を経て情報共有やコミュニケーションが快適になりタスクやトラブルが可視化出来るようになりました。
情シスは自席を廃止して毎日好きな席を選んで仕事をするスタイルになりました。
自己学習の書籍が席に置かれるようになりました。
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そんな中、1年前に中途で入社した、比較的新しいメンバーの一人とこんな話をしました。
「デジタルやDXに関しては、俺達みたいに、中途で入った人間が中心に推進してるね」
「とは言ってもさ、結局、部長や事業部長のポストに就いているのはプロパーの人達なんだけどね」
「そうそう、俺たちはデジタル変革の輸血部隊みたいなものだよ。プロパーの人は新たな価値観や考え方を根本的に変えるには時間がかかるし、とは言え事業の根幹となる部分はプロパーの人しか推進出来ないからね。新たな取り組みは俺達みたいに外から来た人間が、多少無理にでも新しい血を送り込むしかないんだよ」
「なるほど。それなら、なおさら思い切りやらせてもらわないとね」
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私は転職してから感じていた葛藤がなくなった代わりに、また違う別の葛藤に襲われるかもしれません。
私は、自分の持っているデジタルの知識や経験を活かして、会社のDXを推進したいと思っていました。しかし、同時に、自分は中途で入った人間であり、未だにプロパーの人たちとの組織的な価値観の違いを肌で感じています。
事業会社では、多くのデジタル人材が必要とされています。今後、情シス部門に転職される方も増えていくでしょう。
新しい職場で生き生きと活躍する人もいれば、能力が備わっているにもかかわらず、このような価値観の違いや葛藤から抜け出すことができないまま短期間で会社を去ってしまう人もいます。
これから入社して来る転職組のメンバーの人達は知っておいて欲しい。
経営者をはじめとしたステークホルダーから期待されているあなたの役割は、デジタルに関する経験や知見を活かして会社を正しい方向に導く事です。それには、従来の企業風土や価値観の違いという壁を自分自身が乗り越えなければいけないと言うことを。
④DXだけでなくCXを
最後まで読んで頂きありがとうございます😊
これからも色々な葛藤を向き合いながら、DXを進めていくことになります。そんな葛藤を感じた時こそ、本書に書かれていたこの言葉を思い出すようにします。
加えて、DXには会社全体の組織変革や風土改革も必要と言う意味で、CXと言う概念も付け加えたいと思います。
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