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保水力がない。塩分が多い。養分が少ない。そんな痩せこけた砂丘の地で、なぜらっきょうが名産になったのか?

多くの方が砂丘と聞いてイメージするのは、鳥取砂丘ではないでしょうか。地元びいきかもしれませんが。たぶん、そうだと思うのです。見渡す限りの砂の世界。

永遠に続きそうです

日本の砂丘の代名詞とも言える(たぶん)、鳥取砂丘。

でも実は、砂地の面積で言えば鳥取砂丘はNo.1ではないんです。青森の猿ヶ森砂丘、新潟の新潟砂丘など鳥取砂丘より広い砂丘は全国各地にあります。

それでも鳥取砂丘の名が際立っているのは、そのダイナミックな景観にあるのかもしれません。

海岸にも関わらず、起伏のアップダウンが大きくて、高低差は最大90メートルになるところも。実際歩いてみるとこんな感じ。斜面角度が30〜35度のきつい勾配はもはや崖。

崖登りかな? というレベルの傾斜

夏となれば砂地の表面温度は60~70℃にまで上がり、冬には日本海の荒波と北風が直に吹きつけ、砂全体が面が雪に覆われることも珍しくありません。

北国かと思いますが鳥取です

四季折々にさまざまな顔を見せ、見るものを飽きさせないが故に、多くの観光客の方も楽しんでいただけるのでしょう。

……ただ、同時にわかっていただけると思うのですが、鳥取砂丘って、とっても過酷なのです。

夏は暑すぎるし、秋からは風が強すぎるし、冬は寒すぎる。正直なところ、地元の人間からすると「行くもんじゃない」(苦笑)。

それは農作物を育てる側から見るとより際立ちます。砂丘を構成する砂は、長い時間をかけて北西の季節風で打ち寄せられた砂が積み重なったもので、およそ地下70メートルまで続くと言われます。

そのすべてが砂。田んぼや畑の土のように、土が水をふくんでということがない。つまり、保水力がまったくない。水をあげてもあげても、流れていく。肥料を与えても同様です。与えたそばから、雨が降れば流れちゃう。

おまけに海が近く風が強いので、塩分が多く運ばれます。加えて風で砂が動いてしまい、時間をかけて土壌を豊かにするということが難しい。

保水力が弱い。塩分が多い。養分が少ない。土が風で動く。

農業をやる土地としては、あまりにも向いていない。欠点だらけです。では、なぜこの地でらっきょうが名産品となったのか?

実は……

らっきょうしかマトモに育たなかったからなのです!!(ドヤァ)

鳥取のらっきょうの歴史を紐解けば、江戸時代に参勤交代の付け人が江戸の小石川薬園(現在の小石川植物園)から持ち帰ったことが始まりと伝えられています。

当時は少数の農家さんが、桃や桑とともに自家用として栽培されていたそうです。しかし、なにせ保水力ゼロの砂地です。果樹はぜんぜん大きくならず、、、生き残ったのはらっきょうだけ。

らっきょうって、雨が全然降らなくても栽培できるんです。だから土に水がなくても平気。さらに雪の多い冬に生育するから、砂が移動し、乾燥するという砂丘のマイナス環境に見事に適応。さらにその生命力は、農作物の天敵でもある高い塩分濃度(ほぼ塩害)すらも乗り越えたのです。

栄養不足だからこそ生まれた、シャキシャキの歯ごたえ。

とはいえ、ただ育つだけでは名産になりません。何より美味しくないとダメでしょう。

しかし、らっきょうは見事にクリアしてくれました。砂丘らっきょうのシャキシャキとした歯ごたえは他では味わえません。この自慢の歯応えの理由は、実はこの過酷な環境にこそあるのです。

らっきょうの成長とは、芯部からはじまり、鱗片と言われる「皮」の層が何重にも生まれて一球のらっきょうになります。

しかし砂丘は常に栄養不足。栄養を吸収しようとしても量が少ないので一気に球が太く成長することができません。

砂丘らっきょう断面図

ゆえに、芯部はちいさめだけどしっかり。皮は薄く、同じ厚さで重なっていきます。だから噛み始め(外側)と噛み終わり(内側)の硬さが一緒になり、かつ皮が一枚一枚薄いので、シャキシャキとした歯切れの良さを感じるのです。

宝石とも形容される白さも砂丘育ちの証。

真っ白ならっきょう。もちろん漂白はされておりません

砂丘らっきょうの最大の特徴とも言える、その白さ。ときに「砂丘の宝石」と呼ばれるほど、透き通るような白さは砂丘らっきょうの自慢です。

白すぎて、昔はスーパーのバイヤーさんに「漂白してるんじゃないの?」と聞かれた笑い話もあるぐらい、他の地域のらっきょうとは色が違います。

この秘密も、砂丘です。

実は、栄養たっぷりの土地でらっきょうをつくると、玉ねぎのような飴色になります。それが栄養素が少なくなるにつれ色素が抜けていくんです。砂丘のように、ほとんど栄養がない土地だと真っ白に。

地力が低くて、栄養素を保持する保肥力が弱いから砂丘だからこそ、輝くような色白の砂丘らっきょうが生まれるのです。ありがとう、栄養不足の砂丘(笑)。

砂丘に咲く、花も美しい

農作物がマトモに育たないやせ土で、水持ちが悪く、乾燥しやすいという、マイナスの点ばかり言われていた鳥取の砂丘地。でも、だからこそおいしく、美しく育ってくれるらっきょう。これはもう、名産にならないわけがない、ということが分かっていただけないのではないでしょうか。

そうそう、実は砂丘らっきょう、味だけでなく花もお楽しみいただけるのは意外と知られていません。

もうまもなく、10月末から11月のかけて、らっきょうの花が咲きはじめます。らっきょうの花、どんなか知ってますか?

らっきょうの花2(所報20.11月号使用)
独特な形状が美しいらっきょうの花

こんな花火のようなあざやかで華やかな花なんです。

らっきょうの花1(所報20.11使用)
これがらっきょう畑とはほとんどの人が気づかないでしょう

一斉に咲くとまるで、ラベンダー畑のようです。

鳥取県民でも意外と知らないらっきょうのお話。
ぜひ秋に鳥取にお越しの際は、らっきょうの花の絨毯もお見逃しなく。


とまりのつけものでは、そんな農家さんが大事に育てられたらっきょうを、大事に漬けこんでいます。ぜひご賞味ください!


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