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[暮らしっ句]茄子の花1[俳句鑑賞]

おだやか編

 ベランダに 夜風のありて 茄子の花  石川貞子

 部屋の中では「暑いなあ」と愚痴が出る。ところがベランダに出てみると「あら、茄子の花…」、つい今しがた「暑いなあ」と云ってたのが「風があるわね」に変わる。
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 昼まではバスの便なし 茄子の花  村田さだ子 

 不便というだけではありません。出かけるかどうか迷わなくて済むというメリット?もある。都会で暮らしてる人でも、事故なんかで電車に乗れなくなったりすると、ぽっかりと時間が空くことがあると思います。そこで、イラっとするか「間」を味わえるか。
 そのことが「茄子の花」とどう関係するのか… 茄子の花って、よく見るときれいなんです。格調ある紫系ですし。それがひっそりと隠れている。そこにご自身を重ねられたのかな~
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 子離れの時 ゆるやかや 茄子の花  伊藤一枝

 作者のお子さんは、遠くに進学したり就職することはなかった。ただ、いつのまにか独自の道を歩み始めていた。今も感情は読み取れないこともないけれど、何に悩んでいるのか、何を目指しているのかは、もうわからない。そして、そんな距離感にも慣れてきた…。
「茄子の花」との関係は… 茄子の花って、いつの間にか咲いてるんです。そしていつのまに実が育ってる。
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スナップショット編

 上の児の また叱られて 茄子の花  戸村よねこ

 作者は母親ではありませんね。客観的に見ているという以上に、たぶん過去と重ねている。児の母が小さかった頃も「上の児」だったんでしょうか。作者自身も「上の児」だったんでしょうか。いずれにせよ、「上の児は損だ!」という意味ではありません。いろいろあったけど今の自分、今の児の母を肯定する温かい視線。
「なすの花と親の意見は千に一つも仇がない」という諺がありますが、諺が出来る前に「茄子」は存在していたわけで、「茄子」には「親」につながる何かがあるんじゃないでしょうか。
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 青空のまま 日の暮るる 茄子の花  山田春生

「日が長くなった」にしても「茄子の花が咲いた」にしても、どっちか一つだけだと、それがどうした? です。そこを「すごく」とか「めっちゃ」とか、盛って伝えようとすると空回りする。でも、ポイントを押さえれば、この句のようにちゃんと伝わる。

 家庭菜園やってると、夕方に水をやることがままあるわけですが、空の色なんか気にしてません。脇芽を探したり、虫がついてないか見たり、土の乾き具合を調べながら水をやるわけです。でも、意識しなくてもその時の空の色が目には入ってる。それがこの句から呼び覚まされました。
 つまり、それが伝わると云うことだと思うんです。共鳴する、感動を共有するというのは説明して理解してもらうのとは違う。

 丁寧な説明を心がけます なんて云ってる誰かさん。それだと心には……
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 下駄ばきの患者が覗く 茄子の花  波田美智子

 茄子の花、覗かなくても見えるんですけど、茎や葉の中に隠れがちなので、よく見ようと思えば覗くことになります。もしかしたら、この患者さんにとって「茄子の花」は「希望」「光明」じゃないかと思いました。
「希望」というと、空に輝く一等星をイメージしがちですが、逆境、つらい出来事は、今まであった幸せと未来への希望を同時に奪っていきます。だからこそ、よけいにつらい。でも、それを逆手に取れば?
 つらい境遇でも「希望」を見つけることが出来れば、状況を反転させることが出来るかもしれません。この患者さんの行動には、そんなニュアンスが感じ取れました。身体が無意識に「希望」を探し始めている。
「光明」が見えればそこはトンネルで、どん詰まりではない!


出典 俳誌のサロン 歳時記 茄子の花
歳時記 茄子の花
ttp://www.haisi.com/saijiki/nasunohana.htm


※見出し画像は、生成AIによるものなので
 正確ではありません。写真は画像検索でご覧ください。


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