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[暮らしっ句] 葡 萄 [俳句鑑賞]

第1部  ミステリー? 編

 千疋屋でぶだう 明治屋でワイン   篠田純子
 葡萄棚 白洲次郎は いい男   篠田純子

 上の句だけでも下の句だけでも ? ですが、二つ並べると、ちょっとした隠し絵の完成~ 作者の意図はどっちなんでしょうね。ブランド大好き? それとも虚像だと切って捨ててる? 鍵は「葡萄」。

 聖書における「葡萄」の意味を調べたところ、祝福された者、豊かさ繁栄の象徴…… とありました。してみると、作者は皮肉っているわけではなく礼賛してるようです。
 ただ、「葡萄棚」とありますから、育成された貴公子であることは認めてるのかな。

 今回、「白洲次郎」をwikiでお復習いしたら、敗戦後の交渉でアメリカの高官にもズバズバと云うべきことは云った……という彼の象徴的なエピソードは、いずれも裏付けが無いか曖昧なようです。
 その一方で、彼がマッカーサーに贈った椅子に添えられていた書簡には「Your most obedient servant. Jiro Shirasu.(あなたの最も従順な下僕 白洲次郎)」と署名されていたと。
「日本人」「椅子」とくれば「ヤブー」のイメージもあるわけですが……
 Who raised him and who gifted him to X ? 政治の資料を読んでもこんな話おそらく出てこないでしょう。文学って不思議~

※ wiki の記述が誤っている可能性もあります。史実は難しい。
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第2部 昭和映画? 編

舞台は昭和三十年代の貧しい葡萄農家。モノクロ~
キャストは、健さんと倍賞千恵子さんをイメージ~

 黒葡萄 つまみて次の言葉待つ   神山ゆき子
 黒ぶどう あなたの過去は 問ひませぬ   雨村敏子
 待つ人の 必ずゐると青葡萄   石森理和
 葡萄作りは ひとより泪もろしとよ   堀内一郎


 男は葡萄を一粒つまんで次の言葉を待った。

 しばらくして、女がつぶやいた。

「あなたの過去は問ひません」

 男はムショで初老の男から云われた言葉を思い出した。

「その女、きっと待ってるぞ」

 やることなすことうまくいかなかった老人にそんなことを云われても不安が増すばかりだったが、今度ばかりは当たっていたようだ。

 男は腹をくくって、「結婚してくれ」と云った。あまりに身勝手な云いようだったが、そう云わずにはおれなかった。

 女は家事の手を止め、ややあって首に掛けていた手ぬぐいで顔を覆った。肩が震えていた。

 女もまた意を決して顔をあげた。
 涙はまだぬぐいきれていなかったが、懸命に笑みを作っていた。
 それが返事だった。そして、恥ずかしそうに下を向いてつぶやいた。

 「葡萄作りは、ひとより泪もろしとよ」



 出典 俳誌のサロン 歳時記 葡萄

葡萄
ttp://www.haisi.com/saijiki/budou1.htm



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