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東京貧困女子

自分は決して貧しい環境で育ったわけではないけれど、裕福な環境で育ったわけでもありません。それでも、どちらかといえば、裕福よりは貧困の方に近かった生育環境だったと思うので、大人になってからも貧困問題というのは自分の中のライフテーマの一つとしてあります。

授業で様々な社会問題を扱っていますが、貧困問題もその一つです。前半は貧困問題を授業でどう扱うか。後半はタイトルの本の感想を書きたいと思います。

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17あるSDGs(国連が定めた17つの世界的社会問題)の1つ目が「貧困をなくそう」です。ただ、我々日本人の多くは「貧困」と聞くと、発展途上国などの一部の国や地域のことを想像すると思います。そこで、

「日本は貧困か?」

という質問から授業を始めます。みなさんはどう答えますか。

まず貧困問題を知るための前提として、「貧困」の定義を知る必要があります。貧困には2種類の定義があると言われています。「絶対的貧困」と「相対的貧困」です。

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日本には一日200円以下で暮らしている人はあまりいないので、日本の貧困問題を語るときは相対的貧困を見なければいけません。上記の表のとおり、単身で暮らしている人ならば年間所得(年収ではありません)が1,220,000円以下の人、2人世帯(例:母一人子一人の母子家庭)であれば同1,725,000円以下、3人世帯(例:父母子一人、または母子二人)の場合は2,115,000円以下で暮らしている人たちです。日本の相対的貧困率はどのくらいか想像がつきますでしょうか。

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答えは15.6%(7人に一人)です。思っていたより多くないですか?そしてひとり親(主に母子家庭です)の相対的貧困率はなんと50%を超えます。

相対的貧困率15.6%は世界的に見て、どういう数字なのかは以下のグラフが教えてくれます。

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日本はOECD(経済開発協力機構)加盟国34か国中相対的貧困率が上から数えて6番目に高いのです。日本はついこの間まで世界2位の経済大国でしたが、バブルがはじけ、小泉政権時代から国民の格差が広がり、今では立派な「貧困国」となってしまっているのです。これは生徒たちには衝撃的なデータです。なぜならうちの学校は私立なので、基本的に経済的に恵まれている家庭で育った子が多いので、この状況に気づかないのです。ただし、公立の学校でしたら、貧困な状態で暮らす子はクラスに5人かそれ以上いる計算になります。そして貧困は通常外から見えにくいものです。

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そして子供の相対的貧困率においても日本はOECD加盟国の中で上から9番目という悲しい現実を受け入れなくてはいけません。言うまでもなく、子供は国の将来を担う宝であり、彼らが夢をもって生きていけるような環境を整えることが大人の、そして国の責任だと思います。しかしながら、現在日本ではそのような状況にありません。

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授業のゴールは「まず現状を知ること」です。貧困問題が決して発展途上国だけの”対岸の火事”ではなく、自分たちの身近な問題としてとらえ、自分たちも些細なきっかけで貧困状態に陥るという現実を理解することを求めています。上にも触れていますが、結婚した後夫のDVによってシングルマザーになり貧困状態に陥る例や大学時代に奨学金を借りて22歳で1000万円を超える借金を背負う例、大学を卒業をして非正規雇用で働き、毎日正社員と同様に一生懸命働いているのに貧困状態のワーキングプア、これらが現実になる可能性は誰にでもあります。そのことを知ったうえで、次のステップとしてこの社会問題を解決していくためには何が必要か、自分たちは何ができるかを考えさせます。

日本の次は世界の貧困に目を向けさせますが、ここでは割愛します。(フィリピンのスモーキー・マウンテンなどを扱っていきます)

東京貧困女子

ここからは表題の本のレビューです。以下AMAZONより抜粋します。

奨学金という名の数百万円の借金に苦しむ女子大生風俗嬢、
理不尽なパワハラ・セクハラが日常の職場で耐える派遣OL、
民間企業よりもひどい、まじめな女性ほど罠に陥る官製貧困、
明日の生活が見えない高学歴シングルマザー…。貧困に喘ぐ彼女たちの心の叫びを「個人の物語」として丹念に聞き続けたノンフィクション。東洋経済オンライン1億2000万PV突破の人気連載、待望の書籍化! いま日本で拡大しているアンダークラスの現状が克明に伝わってくる。

著者の中村氏は長い間AV女優や風俗嬢などを通して女性の貧困問題を浮き彫りにしてきたノンフィクションライターです。ネットを見るとあまり良くない噂もあり、この本自体も賛否両論あるのですが、女性の貧困問題を扱う書籍としては非常に価値の高いものだと思いました。

ただ、読後感としては、得も言われぬもやもや感が残ります。救いがないのです。この本に出てくる女性たちはいずれも”普通”の女性たちで、自分たちに非があって貧困状態に陥ったとは言えません。たまたま劣悪な家庭環境に育ったばかりに連鎖的に貧困状態に陥った人や、精神疾患や身体障碍を患ったばかりに貧困で苦しむ羽目になった人、正社員よりも一生懸命働いても一向に貧困から抜け出せない非正規社員の女性など、個人の責任論にしがちな貧困問題ですが、実際は社会問題として国や地方自治体が状況を改善しなくてはいけない問題だと捉える必要があります。

となれば、上記のような問題を真剣に変えていこうという志を持った政治家たちに託したいところですが、この国の政治は機能不全に陥っており、それも期待できないのが現状です。それゆえに登場する女性たちはみな絶望しています。

日本は一度レールから外れると再度レールに戻るのが極めて難しい社会になっています。彼女たちもひょんなことで階段を踏み外し、そこから這い上がれずに、中には想像を絶する暮らしをしている人もいます。ある意味日本が追い求めた資本主義社会のなれの果てが彼女たちの姿なのかもしれません。

そんな彼女たちのセーフティーネットになっているのが、風俗やAVです。おそらく普通の暮らしをしている女性の方はこのようなセックスワーカーたちを蔑視していることが多いかと思いますが、今の日本においてもし性産業が根絶されたら、貧困問題が想像できないほどのすさまじい社会問題になるのではないかと思います。

かねてから言っていますが、日本はアメリカのような社会を追い求めるのではなく、ヨーロッパ、とりわけ北欧のような社会の実現を目指すべきではないでしょうか。もし税金を北欧並みに上げて、ベーシックインカムの導入が実現したら、上記のような問題はなくらないにしても、圧倒的に減ると思います。もちろん現時点では非現実的な話だとしても、10年後20年後、そのもっと先でもいいので、一人でも多くの国民が幸せに暮らす国になっていてほしいです。


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