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思いのない学校、思いだけの学校、思いを実現する学校

こちらも冬休みの「課題図書」です。前回に引き続き、リーダーシップとマネジメントについて書かれた本ですが、違いは学校運営に特化している点です。

著者の妹尾さんの本はこれまでにも何冊か読ませていただいており、最も好きな教育研究家の一人です。中でも下記の本は日本の教育界に存在する問題を様々な角度から扱い、ソリューションを提示していて、非常に読みごたえがありました。

学校っていうのは社会の中でも非常に特殊な組織だと思います。言うまでもなく、学校は非営利団体なので、経済的に利益を出すことが組織の目標ではありません。子供たちが安心して安全に学べる環境を提供し、社会に出てから健やかに幸せに生きていけるように成長を支えていくのが学校教育の使命であり、我々教育者のミッションだと考えています。

ただ、学校という組織のゴールは往々にして上記のように曖昧模糊としたものであるため、従業員(教員)の評価も難しくなります。

教員の評価ってどのように行っていると思われますか?

一般企業であれば、どれだけ会社に貢献したかが数字や結果としてわかりやすく現れることが多いと思いますが、教員に関しては数字で評価を下すのは非常に難しいです。進学実績を重視する進学校であれば、生徒の成績(偏差値)を上げることで評価されることがありますが、それでは塾や予備校となんら役割が変わりません。しかも偏差値を上げることが教育目標って、公教育としてどうなのかと思います・・・。

生徒や保護者の評価はある程度の可視化は可能ですが(実際昔勤めていた学校は毎年生徒アンケートを取っていました)、生徒保護者に人気のある先生が必ずしも”良い”教員とも限りません。生徒の人気取りに走ろうと思えば、それは割と簡単にできますし、生徒の評判が良ければ基本的に保護者からの評価も高まります。ただ、そのような目先の評価ばかりにとらわれているような先生はあまり良い先生とは呼べないと思います。例えば、高校3年間学校に迷惑をかけ続けた生徒にずっと声をかけ続け、親身になって相談に乗り続けた先生がいたとします。その生徒は在学中に変わることはありませんでしたが、卒業後にその先生の言い続けたことをやっと理解し、その後社会に大きく貢献するような素晴らしい人間になった、なんていうのはよく聞く話です。この場合、この先生はどこまで”評価”されるでしょうか。そもそも卒業後の話なので、だれもこの生徒の成長を知らないまま終わる可能性も高いです。

加えて、学校という組織は「鍋蓋」と呼ばれるほど、フラットな構造になっています。校長、教頭、分掌(部署)や学年、教科の責任者などは存在しますが、基本は皆自分のクラスという一国一城の主であり、チームでの連携というのが簡単ではない組織構造になっています。

そんな複雑な組織背景の中で、組織を束ね、導いていくのは本当に至難の業だと思っているのですが、この本にはそのヒントが多くちりばめられていました。

ここからが本題になります。(いつものように前置きが長くなってすみません(;´・ω・))

1章「わかっていても、実行できない」を越える

まず本書では1章で学校の「実行力」を高めることに焦点を当てています。これはどの組織にも当てはまることですが、どんなに素晴らしいアイディアも、読んだり、書いたり、聞いたりするだけでは意味がありません。それを実行に移してこそ、変化が生じます。ただ、この実行というフェーズにいくまでがなかなか難しいのもまた事実です。本書では学校における「実行力」を高めるのに必要なこととして、以下の3点を挙げています。

①当事者意識を高める
②あらかじめ先例(成功事例や失敗事例)から学んでおく
③同志、仲間とともに小さな成功を見せる

何であれ、「他人事」と捉えている場合は、良い結果はなかなか出ません。トップダウン式で上からボンっと目標などが降ってきて、腹落ち感がないまま仕事をするなんていうのはよくあることだと思いますが、「自分事」として前向きにミッションと向き合って初めて有意義な仕事ができるのではないでしょうか。そのためには対話とストーリーが必要だと考えます。結局人を動かすのはストーリーではないかと

先例から学ぶというのもある意味当然かと思いますが、学校では結構抜け落ちている要素だと思います。ファクトとエビデンスを根拠にした運営というのはこれまで以上に学校運営にも必要だと思います。

そして、同志、仲間という点では、よく「学校を変えるには3人必要だ」と言われます。(本書にも書いてあります)一人では難しく、心折れてしまいそうなことでも、仲間がいれば続けていけるものです。まずは3人で行動を起こし、そこから周りに少しずつ派生させ、組織を変えていくというのは、簡単ではないものの、王道だと思います。

2章 あなたの学校にビジョンと戦略あるか

どの学校にも教育目標は存在します。私立校であれば、建学の理念というものも必ずあります。問題はそのビジョンがビジョンたり得ているかどうか。そして、ビジョンを実現するための道筋がしっかり立てらえれているかどうか、ということです。

ここでいう「ビジョン」とは、どのような将来でありたいかという到達目標を指します。多くの学校は目標設定はしている者の、時間設定があいまいで、なあなあになっていることもよくあります。学校という組織は良くも悪くも時間的制約にあまりとらわれない傾向がある気がします。

また、「戦略」とは、「ビジョンに到達するための中核となる道筋、ストーリー」というように本書では定義されています。

本書では、多くのケーススタディが載せられており、読者も疑似ワークショップを体験できるようになっております。たとえば、この章では「中の上」レベルの比較的落ち着いた都立高校に新しく赴任した校長先生が、初めての職員会議で学校経営計画を先生たちに伝えるのですが、そこには以下のような問題が溢れています。

・計画が空疎である(当たり前のことや抽象的な概念などが多い)

・課題や取り組みが明確化・重点化されていない(優先順員が明確ではない。意思決定に必要な情報が不足している)

そして、その対応策として、以下のような点が提案されています。

・解きほぐす。もう一段、二段具体化する

・重点的な課題を明確化する

・ファクトやエビデンスをもとに対話を重ねる

・学校全体と個人の間をつなぐー校務分掌の活性化

納得することばかりです。

3章 あなたは何をもとにマネジメントをしているか

前述のビジョン(到達目標)を達成するためにPDCAを回していくのは、学校も他の組織と変わりません。ちなみにPDCAに関しては以前に下記の本を読んで、まとめました。

目標をもとにマネジメントを行うのは組織運営の基本中の基本だと思いますが、そこにはいろいろな問題が存在します。

まず、「目標」が目標足りうるものになっているか。たとえば、その目標がキャッチフレーズのようになっていて、なにを、いつまで、どこまで到達したいのかが明示されていなければ、それは目標として機能しない可能性が高いです。

また、校長が全体に目標を伝えたとしても、実行部隊である教員たちが納得していなければ、目標達成は不可能でしょう。上にも書いた通り、目標達成の背景(ファクトやエビデンス)を十分に考慮・分析し、明確にしたうえで、丁寧に(できれば個人や小さな集団ごとに)対話を重ねていくことで、納得感や腹落ち感が生まれるのだと思います。トップダウンはスピードを要する改革においては非常に重要な要素だと思いますが、先にも述べたように、学校は特異な組織であるため、このような丁寧なマネジメントが必要だと改めて思いました。

本章の最後には、マネジメントには以下の3点が必要だとも書かれています。

①到達目標の共有
②プロセスの設計
③チーム・ネットワークの構築

至極当たり前のことように感じなくもないですが、やはりこれができていない学校も多いという印象も同時に持ちます。この3つの視点から自分の組織を診断してみるのも必要だなと思いました。

4章 ビジョン・目標を立てたきりにしていないか?

学校のビジョン・目標を具体的に行動に移していけるかどうか、その一つには学校経営計画ならびにそれを受ける分掌(進路指導部や生活指導部など)や学年集団の機能が重要になります。そしてもう一つ大切なのが、「カリキュラムマネジメント」です。

妹尾氏は「分掌・学年マネジメントとカリキュラムマネジメントは学校経営の両輪」だと述べています。そしてこれらが重要なのは学校の中には見えない5つの壁があるからだと言います。

教員の方、または経験者であれば、おそらくお分かりになると思いますが、確かに上記のような壁って学校の中に存在しますよね。その壁を乗り越えて、目標に向けて組織が動いていくためにカリマネが必要だということです。学校が力を入れたいビジョン・目標に向けて、教育課程を編成し見直していくことがカリマネの中核にある、というわけです。

いつも通り(いつも以上に?)長文になってしまいましたが、本書も学校という組織を運営していく上で、非常に示唆に富んだ内容が書かれており、大変参考になりました。

最後に。経営学者の清水勝彦教授によると、戦略の企画と実行について、会社には様々な人がいるので、全ての点で合意することなど現実的ではない。「大切なのは、100%合意はできないけれど、この方向で一つやってみようと『納得』できること」です。

そのためには、議論を尽くすこと。そして、リーダーが情熱を持って「やらなくてはいけないんだ!」ということをしつこくメンバーに語り掛け、ここまで言われたらやるしかないと思わせること、が必要です。

うんうん。

『情熱と対話』

やはりこれに尽きますね。精進します。

上記の内容はこちらのサイトでも読めます。妹尾さんは定期的にYahooにも記事を書かれているので、興味がある方はチェックしてみてください。

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