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とても個人的なフィルムレビュー①    My Octopus Teacher         『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』

ネタバレにご注意!ネタバレにご注意!ネタバレにご注意!

ネットフリックスの "My Octopus Teacher" をみてのとても個人的なレビューです。長〜くなったので、オーディオも作ってみました↓ 
https://youtu.be/ksHRo9O9XZ0 


とても個人的なフィルムレビュー①
"My Octopus Teacher"
Science and Nature Documentary, Netflix, 2020
Craig Foster
Directed by Pippa Ehrlich and James Reed


サタデーナイト ムービーナイト

 ロックダウンの日々のささやかなエンターテイメントに、土曜の夜のピザ&ムービーナイトというのを家でやってる。前の晩にこねて冷蔵庫でゆっくり発酵させたピザを焼いて、リクエストのおやつと共に食しつつネットフリックスで映画を見るという、静かで地味だけどまあまあ居心地のよい、倹しい催し。

 数週間前に熱い議論の上、システムのリニューアルがあり、上映するムービーの選定方法やおもしろくないムービーだった場合に別のに変更するための手続き等について、細かくルールが決められた。新しいルールはフェアで参加者は大方満足している。が、問題もある。オタク系13歳、ゆるぎないようだけどつかみどころのない14歳、そしてだいぶ種類の違う45歳2人が、それぞれまあまあ楽しめる映画を見つけるというのがなかなか難しいのだ。

 先週、私が選んだ『My Octopus Teacher 〜オクトパスの神秘: 海の賢者は語る〜』は、途中退出者が2人も出るというムービーナイト開始以来の不人気ぶりだった。最後まで見続けたもう1人も、映画を作った人々への敬意を表するために我慢して見続けていたらしい。とても苦しい時間だったと言っていた。それとは対照的に、私にはすごくおもしろかった。タコと海底のコンブの森の世界に心底感動した。今後3回ぐらいは、停めたり巻き戻したりしながら、詳しく見直したいと思っている。なぜ、同じものを視てこんなにも印象が違うのか。それについて考えてみることにした。

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She, Her, Her

 これは、ある男性とあるタコのドキュメンタリー。男性は、精神状態があまり良くなかった。前の仕事を夢中でこなしたら燃え尽きたようになってしまって、進むべき道も何もかもがわからなくなって途方に暮れていた。ある日、彼は海に入ろうと決める。子供の頃いつも海に入ると元気になったし、そうすることで何か、今の自分自身の助けになるものが見つかるかもしれないと。そうやって潜った海で彼はそのタコに会う。

 彼は毎日海に入って、そのタコを見にいくことに決める。“see”は、会いにいくことに決めるという意味だったかも。男はそのタコのことを言う時、いつも“she”と“her”を使う。初めのうち、なぜそのタコが雌だと彼がそんなに確信しているのに違和感があった。それに、彼が“she”と“her”を使う時、誰でもいいどこかの普通の“彼女”を表す言い方でないことに気づくと思う。物語が進んでいくと、それらがなぜかわかってくる。

 海の中の映像は素晴らしい。昆布の森、色とりどりのウニ、あらゆる種類のあまり見たことのない植物や動物、そのどちらかわからないものもたくさん。それらは、風で草や葉、木々が揺れるように、水の中でゆっくり揺れていた。海底の世界の美しさとそこにいる神秘的な生物たちを見ていると、クロアチアで自分のしたことを思い出さずにはいられなかった。

 数年前の5月のことだ。世界がまだ COVIDー19に呪われる前。私たち家族4人(ムービーナイト参加と同じ4人)は、クロアチアのある島の入江で、ごろごろのんびりしていた。海の水がとても透き通っていたので、小さな魚の群れが光りながら泳いでいるのの他に、海底に真っ黒いウニが大量にいるのが見えた。新鮮なウニ! こんなにたくさん! 無料で?! すぐそこに!! 瞬間的に私はとても興奮して、欲張りな好奇心と食べてみたいという気持ちが一直線にマックスに達してしまった。普段はわりと穏やかで、のんびり構えているタイプだけれど、この時は全然そうじゃなかった。私は水際にいた夫と娘に、今すぐウニをいくつか取ってくるように要請した(私は足のつかないところでは泳げないので)。夫と娘は、ウニのとんがっているところがツンツン当たって痛いと文句を言ってもたもたしていたが、そのうちに数個のウニを持って私と息子の待つ小石エリアのベースへ戻ってきた。ウニはとても黒くて太陽光をあびて眩しく光っていて、平らめの石の上でまだ動いていた。その平めの石は、間も無くするとまな板になる。その時の私は、ウニが、海の中で他の生き物と一緒に水に揺られてゆらゆら暮らしている時、どんなに神秘的で素敵かということを考えもしなかった。思いつけばよかったのにと思う。思いついてさえいれば、その次の行為には至らなかっただろうから……。私は、多分血走った目を見開いて、その辺で一番とんがっている石を使って黒い外側の部分を打ち破り、中のオレンジ色の筋になっている柔らかいところを口に入れた。仰天の美味しさだった。柔らかくて濃厚な夢のような味がした。でもなんてひどいことをしちゃったんだろう! ばか! 命へのリスペクトは?! おなかがすいていたわけでもなかったのに……。そのことを思い出し、タコと男性のドキュメンタリーが続く間、とても後悔していた。そして今も、あの時急に自分の中で盛り上がった野性の本能のようなものについて、時々考えている。

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 タコと男性に話を戻す。ドキュメンタリーでは、タコがおもしろい動き方をすること、すごいスピードで泳げること、一瞬で身体の色を変えられること、などなど、それに、タコがどんなに賢くて創造的であるかをみせてもらえる。貝殻の塊になって敵から隠れたり、恐ろしい天敵のサメに狙われると、一番安全なサメの背中に張り付いたりもする。このようなエピソードは、小さな頃絵本の中で目にするもので、大抵は、それを自分で実践したり人が実践してるのを見かけるチャンスはこない。それを、タコが実際にやってるのをみられるのだ。すごい! 私はとても感心して夢中になっていたので、他の3人がすでにずいぶん前から退屈しているのに全く気づかなかった。

 初めのうちは、彼らも海の中の光景を楽しんでいたのだ。だが、長くは続かなかった。夫にとっては、このドキュメンタリーはただただ長かった。何も起こらないんだもん、タコが喋るとか、次から次へ事件が起こるなどしていればもっと楽しめたと言っていた。娘には、男性がおかしくなっているのが気持ち悪かったそうだ。タコと恋に落ちるなんて! 展開もタコ一匹だけについて紹介するには、トゥー スローだったそうだ。奇妙な男性の、奇妙な視点を通してではなく、ニュートラルな視点でより多くの生物を見せてくれればよかったのに、と。でもそうなるともうナショナルジオグラフィックチャンネルになってしまう。息子にとっても、最後まで見続けるのに一番大変だったのは、この男性らしい。13歳男子は、この男性の声とアクセントが嫌いだったそうだ。ほとんどの時間男性の声でナレーションが入っているので、それは実際大変だっただろう。

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結論

 男性はこのタコに夢中だった。彼の“she”が死んだ時のことを話す時、彼はとても苦しそうだった。声も震えていた。正直に言うと、立派な男性がタコをひどく愛してしまっているのを見るのは、私にとってもちょっとむずむずするようなところはあった。でも気持ち悪いということはない。全然そういうことじゃない。とても純粋な、ハプニングだったのだ。タコとの出会い、タコとの時間を通して、男性は考え、考え、考えて、長いトンネルから出てくることができた。彼はもう闇の中にはおらず、ちゃんとまた地に足をついて立っている。
 娘と息子は、私がいつかこの男性と同じように、近所の運河の鴨か青鷺かポルダーの羊に恋をして、毎日そばにいようとするんじゃないかと多少心配している。それはないよー、と100%の自信を持って否定することはできない。

https://youtu.be/3s0LTDhqe5A


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