見出し画像

【Edge Rank 864】ふたつの個展【TOMAKI】

茂原駅へ向かう電車の中で、僕は2015年に参加したクリエイティブワークショップのことを思い返してました。

6年前、僕の人生を変えたワークショップ。

最初、そのワークショップの話を聞いた時、「わ!参加したい!」って思ったんですが、「10日間、30万円です」って言われて、「あ、これはムリかも」って思ったんですね。30万っていう金額もそうですが、10日間も仕事を休めない……。いったんは諦めてたんですが、でもやっぱり、どうしても参加したい。ものすごく魅力的で、かつ確実に自分にとってもプラスになるものを目の前にして、「時間がない」とか「お金がない」とか、そういう言い訳をしたくはありませんでした。なので、思い切って飛び込んでみました。

その選択をして、本当に良かったと思います。

講師は、ロンドンを拠点として世界で活躍するクリエイター集団「Tomato」の共同創設者、ジョン・ワーウィッカーさんと、ジョエル・バウマンさん。さらに、Tomatoとのコラボレーションやアート・ユニット「リボネシア」のクリエイティブディレクターを務める吉川徹さんも加わって。会場は、今は移転してしまったけど、当時は目黒駅近くにあったデジタルファブリケーション工房「Makers' Base」。まさに夢のようなワークショップ。例えるなら、野球好きの少年が、メジャーリーグの選手たちと東京ドームでプレイするみたいな。そんな感じ。

ワークショップの内容は、かなりハイレベルかつハードで、10日間息つく暇もないような感じで。

写真、執筆、ドローイング、タイポグラフィー、電子工作、彫塑、建築など、あらゆるジャンルの課題をこなしつつ、みんなで作品に対してディスカッションをして、自分の知識やスキルを向上していく。たった2週間で、何十年分かの学びと経験を得たように思います。

クリエイティブワークショップの内容も素晴らしかったですが、さらにそこに集まってくる人たちも素敵な方ばかりで。このワークショップの記録用撮影を担当したのが、ビデオグラファーのジョセフ・テイムさん。奇抜な恰好で実況中継をしながら東京マラソンを毎年走っているのをテレビでお見かけしたことがあって。普段は撮影のお仕事もしてらっしゃるって、その時初めて知りました。ちょうど、このワークショップ期間中、間の日曜日に東京マラソンがあり、その年もジョセフさんはライブ配信をしながら大会に出場。そしてまた、後半の記録撮影に復帰するという。すさまじい集中力と体力の持ち主。

モデレーター兼、通訳のひとりとして参加したのが、雨宮澪さん。ただでさえハイレベルな講義やトークの内容を分かりやすく的確に日本語に訳して、さらにワークショップを進行していました。アメリカに留学してアートを専攻していた僕でさえ、ジョンさんのディープな話はとてもじゃないけど日本語に訳すのはムリ。それをやってのけた澪さん。アートに関する知識が豊富で、かつ分かりやすく伝えてくれてたのはすごいな、と。

他にも、同じくTomatoの創立メンバーであるスティーブ・ベイカーさんがちょくちょく立ち寄ったり。ワークショップ最後のトークセッションには、グラハム・ウッドさんも参加したり。Tomato唯一の日本人メンバーである長谷川踏太さんもひょっこり顔を出したり、と。まぁ、毎日がとても新鮮で濃厚で、ワクワクしっぱなしでした。

そのワークショップの最後の方で、ジョンさんがかけてくれた言葉を今でも思い出します。

「You have a permission to be creative」

この言葉がなにかこう、自分の生き方を肯定してくれたというか。「クリエイティブに生きて、良いんだよ」っていう。思えば、大学でアートを専攻したけれどそれを直接仕事にすることはできず、「日曜アーティスト」なんていう肩書を名乗りつつ無理やりプライベートの時間を使ってささやかな創作活動を続けていたわけだけど。それでも良いんだなって、なんか安心しました。と同時に、「もっともっとやるぞ!」と。自分の信じているものや行動が間違っていなかったって確認することができただけでも、このワークショップに参加したかいがありました。

今日の話は、その6年後。今月訪れた二つの個展について。

『ダブルハピネス』

香港、台湾、深セン、マカオなどの人々の生活や景色を切り取った写真と、その上に刷られたシルクスクリーンのデザインが、なんだかショーウィンドウの内側から外の景色を見ているようで。手法はデジタルなのに、表現は極めてアナログっていう。視覚的な作品なのに、なぜかリズムを感じるというか。その場所の匂いとか、あるいは音が聞こえてくるような。

GW中に、クリエイティブワークショップで講師を務めてくださった吉川徹さんの個展、『ダブルハピネス』を観に行きました。初日のオープン時間ぴったりに訪れたら、間もなく吉川さんが現れ、近況報告を交えつつ、作品についてお話を伺いました。会場は、神田駅近くの「手と花(TETOKA)」という、アートギャラリーカフェで、ちょうど僕はその近くで「優美堂再生プロジェクト」とう東京ビエンナーレの企画に参加していたので、その報告などもしつつ。その作業現場で来ている僕のツナギの背中に、吉川さんのシルクスクリーンのデザインを刷ってもらいました。

6年前のクリエイティブワークショップでの吉川さんとの思い出と言えば、立体彫刻作品の課題。作品をつくるという部分だけでなく、予算管理や展示の仕方など、作品をプロデュースするという部分も教わって、アートやデザインのビジネス的な部分も学びました。作品を世に送り出すためには、アーティストとしての資質だけでなく、プロデューサとしての知識や行動力も必要。そういう、気づきのきっかけを与えてくれた恩師です。

大胆で、おおらかで、かつ繊細。今回の個展も、作品だけじゃなくて、そこに集まる人や場の雰囲気も含めて、素晴らしかったです。

『the cocoon』

茂原駅からバスに乗って、鼠坂停留所で降りる。そこからは、山に向かってひたすら歩く、歩く。のどかな田園風景を眺めつつ、野鳥のさえずりを全身に浴びつつ、これでもかっていう緑の中を歩いているうちに、どんどん心がほぐれていきました。と同時に、僕の中ではその作品に対面することの不安もちょっとあったり。「僕が行っていいのかな?」っていうね。

雨宮澪さんのインスタレーション作品『the cocoon』を観に行きました。会場は、千葉県長生郡長柄町にある、広い倉庫。天井に組まれたトラスから無数のロープが伸びていて、そこに100点以上の様々な日用品や洋服、ガジェット、本、ポスターなどが吊り下げられている。僕が到着した時、ちょうど撮影が始まるところで、みんな静かに息を飲んで、張りつめた雰囲気でした。

「あれ?澪さんは?」って聞いたら、「あの、作品の中にいるよ」って教えてもらって、よくみたらその「繭」の中心で、ハンモックに静かに包まれていました。

この日、撮影を担当したのが、ジョセフ・テイムさん。そう、あのクリエイティブワークショップで記録撮影を担当していたイギリス出身のビデオグラファー。フォークリフトをドリー代わりに使って、澪さんと作品を撮っていました。

その作品を観た瞬間、僕の中の不安は消し飛びました。澪さんの、亡くなった旦那さんが所有していた「遺品」を倉庫の中に展示したインスタレーション作品。そこに、旦那さんと面識のない僕が行っていいのか、ちょっと悩んでたのですが。吉川さんのデザインを刷ったツナギを着て。あのクリエイティブワークショップのプチ同窓会みたいな気持ちで、思い切って行ってみて良かったです。すごく静かで、温かくて、包まれるような空間。物を通じて、人と人とがつながりあう感じ。邂逅と、新しい出会いと。素敵な空間でした。

自分の中で、あの6年前のクリエイティブワークショップはまだ続いています。たぶん、この先一生、僕も何かしら作り続けていくと思います。

NO 「〇〇」, No Life!

さて、今月のお題のコーナーです。今月は、「依存」というテーマでみんなが書いているわけですが。さてさて。

みなさんは、「これが無いと生きていけない!」っていうもの、なにかありますか?“No 「〇〇」, No Life!” の、〇〇に入る言葉は?

僕の場合は、アートですかね。“No Art, No Life!”という感じで。

作品を観るのも好きですけど、どちらかというと作る側でいたい。「作品」と呼べるほどのものでなくても、なにかしらつくるのが楽しいのです。ガラケー時代に待ち受け画像をひたすら作り続けたり。あるいはいろんなところに飛び込んでいっては、ブログを書いたり。アウトプットの場があれば、旅も創作活動の一部になります。見たもの、感じたことを写真や文章で表現していく。これも、立派なアート。

自分にとっては、写真や文章ももちろんそうですが、ノートにラクガキしたり、キッズ向けの工作ワークショップをしたり、中銀カプセルタワービルに住んでみんなで遊ぶなんてことも含めて、全部創作活動の一環です。テクノロジーとクリエイティビティをテーマに、自由な勉強会を開いたりも。

そういうのを全部ひっくりめて、僕はアートが好きだし、それをきっかけにしていろんな人と知り合ったり、たくさんの体験ができるのが楽しいのです。これからも、続けていきますよ。

=== 今月のテーマであなたも書きませんか? ===
今月のテーマは「依存」です。ちょっと言葉がネガティブよりかな、と思う人は、「ぞっこん」「くびったけ」でもいいです。今熱中しているもの、手放せないもの、好きで好きで仕方ないもの、そんななにかを教えて下さい。
noteやブログ、ツイッターでEdge Rankと同じテーマで書いてみませんか?
ハッシュタグ #EdgeRankBloggers を付けて投稿すると執筆メンバーが読みます!
https://twitter.com/intent/tweet?hashtags=EdgeRankBloggers
内容によってはEdge Rankで取り上げさせていただくこともあります。

編集後記

4月から6月にかけて2か月間、「電子書籍をつくろう!」っていう勉強会を主宰しています。と言っても、僕が教えられるのはせいぜいGoogleドキュメントを使っていかにカンタンに電子書籍をつくれるかっていうところだけですので、あとはみんなでそれぞれ頑張ってね、ということになるのですが。もう既に、何人か実際にKindleで本を出版していて、すごいです。僕も、新作を一冊作って販売したところ。まだ残り1か月くらいあるので、あと1,2冊つくりたいな、と。

今回も、お読みいただきありがとうございました。
次号は5月25日(火)の配信。「東京散歩ぽ」の中川マナブさんです!

Edge Rank noteは個性豊かなブロガー集団による共同noteマガジンです。マガジンをフォローすると月に10本程度の記事が届きます→ Edge Rank note

「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。