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書評 『ムーミンパパの思い出』 トーベ・ヤンソン 作 ・小野寺百合子訳 (講談社青い鳥文庫)

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 「お父さん、子どもの時のお話、してー。」
と、娘によく、せがまれます。
話すほどの出来事もないし、面倒だなあと思うのですが、仕方なく子どもの頃のことをあれこれと思い出してみます。すると、話すことが案外たくさんあるのです。心霊写真を撮ろうと、おばけ屋敷とよばれる廃屋に何度もいったこと。UFOや妖精を探しまわったこと。子どもの頃の日々が、冒険でいっぱいだったことに気づかされます。思い出せてよかったなと、ほっとします。
 ムーミンパパは、子どもの頃の思い出をノートに書いて家族に読んでほしい、とママに言われます。パパの思い出が消えてしまわず、みんなが覚えていられるようにです。パパは、家族の協力のもと、思い出の記を書き上げ、みんなに話して聞かせます。それが、このお話です。
 
 娘に、子どもの頃の話をしていると、子どもに戻って娘と一緒に遊んでいるような錯覚を覚えます。子ども時代を、もう一度生き直している感じです。そして、話し終え、夜一人になると、ふと、子どもの頃とは違って冒険にはほど遠い大人の自分が、少し寂しくなります。
 しかし、この物語を最後まで読むと、子どものころの冒険は、まだ続いているのだということがわかります。休息を終えれば、いつだってまた冒険の旅に出ることができる。パパのお話は、そういった勇気を与えてくれます。 (原正和)



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