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リモート墓参り【ショートショート】

 墓石に彫るのは名前ではなくURLにしてくれという遺言も今では珍しくない。一昔前は「◯◯家之墓」や「南無阿弥陀仏」などが多く、「和」や「ありがとう」なんて好きな言葉を入れているのも見かけたものだ。ところが最近は違うらしい。「墓石にURLを入れたい」という要望が多いと石材店で働く友人から聞いた。

「URLなんて入れて一体どうするんだい?」
「墓石に刻まれたURLにはな、亡くなった人の情報が記録されてて、それをパソコンやスマホに入力したら墓が画面に表示されて、いつでもどこからでも墓参りができるんだよ。子どもや孫が遠いところに住んでるおじいちゃんおばあちゃんからしたら、リモートでもいいから墓参りしてほしいと思うのものなんだって」
「でも、お供えなんかはどうするんだい?」
「デリバリーサービスを使うらしい。墓石のURLには墓石の位置情報なんかも入ってるらしいから、注文するときにそのURLを一緒に送れば食べ物でも花でも、どこにでも届けてくれるのさ」
「へぇ。それは便利だ」
「それに全国の墓石についての情報が書かれてある『墓石ネット』にそのURLが載るから、見知らぬ人もリモートで墓参りしてくれるんだって」
「それって嬉しいものなのかね」
「さあ。でもそれを望む人も今は多いらしいよ」

 ふうんと俺が呟くと、「でもさ」と友人は言った。

「それに伴って最近増えてるでしょ。死者からのお告げ詐欺」
「何それ」
「死者の名をかたって遺族に電話をかけるんだよ。『3日以内に墓石の前にお金を置かないと大変なことになるぞ』とか言ってさ」

 今や個人情報だけでなく故人情報の流出も社会問題となっている。

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