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突然ショートショート「一石二鳥の勘違い」

 放課後の地下運動場、それはスポーツアーマーバトル部に所属する私のフィールドだ。
 時間になれば更衣室で制服を脱ぎ、全身を覆うプロテクターつきのタイツに着替え、靴を履き替え、メガネを度のついたウェアラブルゴーグルへ掛け替え、ヘルメットを被る。

 学校の地下には広大な運動場があり、いつもここで私たちの練習が行われる。
 運動場は他のクラブと場内を半分に分けて使っていて、エレベーターを降りると、その地下空間には既にバドミントン部が練習をしている音がよく響いていた。

 私たちの部の方に向かうと、そこでは別のクラスの百合亜ゆりあが顧問の澤田さわだ先生と話をしていた。

「おっ、勢乃せの。先生、勢乃来ましたよ」
 百合亜は話を止めて澤田先生に私の到着を知らせた。普段はここまでしないのに何故だろう。
内田うちだ。日曜日の模擬戦の概要ね、これ」
「ありがとうございます」

 プリントを受け取りきっちりとお礼を言ったあとで、誰もいない所へ移動する。
 『日曜日の模擬戦』。そんな予定は入っていただろうかと頭の中の検索エンジンをフル稼働させる。

 日曜日と言えばあと数日。数日後の予定はスマホのカレンダーに入れて覚えているはずだから、忘れている訳はないのだ。

 けれども、この『日曜日の模擬戦』は身に覚えがない。
 誰かに聞こうと思っても、「今まで忘れていたのか」という反応になるとめんどくさいので聞けない。

 更衣室の貴重品入れに預けたスマホを確認しようにも、もう練習が始まってしまうので時間がない。

 とりあえず手短にプリントを確認する。
 『日曜日に、他校と合同で模擬戦を行うため、会場の県立運動公園に朝10時までに集合すること』という内容だった。
 内容はわかった。こうなれば私がとれる手段は一つだけ。

 『練習を重ねておき、体調に気をつけて、日曜日の朝10時までに県立運動公園へ向かう』こと。

 こういう身に覚えのないものはとにかく従うのが一番だと考えた。
 何かの間違いでもピクニックということにしておけば丸く収まるし、何より練習を重ねればそれが腕を磨くことにつながるかも知れないのだから。

 とんだ勘違いからピクニックできて腕を磨けて『一石二鳥』ということだろうか。
 いや、違うな。この模擬戦、勘違いでなくて本当にありそうだし。

(完)(938文字)


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