夢幻の戦闘少女 (3)
謎めいた異形のメカを一掃した私は、実に数十分ぶりに地面に足をつけた。
地面の感触がこんなにも懐かしいものになるなんて、想像もしていなかった。
よくある展開なら、どこかで目覚めて夢だったことに気づく─という流れで終わるはずだった。実際にこれは夢だったのだが。
けれども、その時の私は、これが夢だなんて思うことはできなかった。
あの武器から伝わった波動が、手にがっつり残っていたのだ。
夢でないなら、今の私は一体どうなっているのだろうか。一体どんな立場に置かれているのか。
それを理解するには、半端でない時間が必要になりそうに感じられた。
すると、左手首にブルブルと震える気配を感じた。チラッと見てみると、マーカーが光っていた。
よく見ると、黒いガラスみたいな部分に何かが出ている。
「『着信』『司令部』『応答するにはCボタン』…?」
指示にとりあえず従い、『C』のボタンを押してみる。
「こちら司令部!応答せよ、応答せよ!」
聞こえてきたのは、若い男の人の声だった。
「はいっ」マーカーに向かって返してみる。
「あっ…はい…しばらくお待ち下さい」
それを最後に会話は途切れた。
何なのだろう、司令部とは。流れとして先程の戦いに絡んでいるとは予想した。しかし、肝心の詳しいことはまだわかっていない。
その時、マーカーがまた震えた。着信先は前と同じ『司令部』だった。
Cボタンを押して応答する。すると、最初に聞こえてきたのは女の人の声だった。
「こちら司令部。あなたは新しい適合者ですか」
先程とは違って落ち着いた声をしている。
「『適合者』?」私のことを指しているんだろうな、というのは予想できたが、まだやっぱりわからない。
「今までに見たことのないものと、戦いましたか?」
落ち着いた口調で再度質問を投げてきてくれた。これなら答えることができる。
「はい」
「わかりました。明日、時間はありますか?」向こうはいきなり予定を聞いてきた。
「時間?…放課後は自由ですけど」
「放課後?」
「あっ…3時ぐらい」そう答えると、少し間をおいて返事がきた。
「わかりました。3時ぐらいから、田園ニュータウン中央で待っていて下さい。迎えにきます」
「迎え…?わ、わかりました」
「それから、装甲前の状態に戻るには、マーカーをリストバンドから外し、リング部分を押してから時計回りにひねって下さい」
言われた通りにすると、光が再び放たれた。
一瞬目をつぶって再び確かめてみると、私は元の制服を着ていた。
マーカーはがっちりと右手に握られたままだった。
これで本当に一件落着である。
私は、今までにないまでの疲れを感じながら、家への道を歩み始めた。
目の前には、飴色に輝く景色が広がっていた。
装甲呼出マーカーを手に持ちながら、少し誇らしいな気分を感じていた。
その時、地面が大きく揺れ始めた。
人々が大慌てで家から出てきて、そのまま大騒ぎしている。
再び変身しようとしても、マーカーがうんともすんとも言わない。何度上に掲げても、だ。
私が焦る中、地面は大きく揺れた。驚いて私はこけ、気を失ってしまった。
目が覚めると、そこはバスの中だった。すっかり寝過ごしたようで、窓の向こうには全然知らない景色が広がっていた。
夢が明けたのだ。
もらったはずの装甲呼出マーカーは、どこにもなかった。
不思議な心地よさが私を包み込む。
あの後、私は何を見ていたのだろうかと考えた。
何か悪者を倒す、ヒーローになりたかったのだろうか。あるいは、ゲームの世界のキャラクターになりたかったのか。
だとすれば、毎日をゲームに費やしている私らしい夢なのだろう。
けれども、その答えは何だか違うように思えた。
敵を一掃した時の快感は、今まで経験したことのないものだった。
そして、今でもはっきりと思い出してしまう。また味わいたくなる。
もしかしたら、その快感を求めていたというのが答えなのか。
だとすれば、現実の私は何ができるのか。そう気づいた時、私は目の前の参考書を開いて勉強を始めていた。
ゲームもいいけど、それはあくまでバーチャルの世界。私は現実で快感を味わいたいのである。
もしかしたら、あの夢の正体は、『ゲーム』というバーチャルの世界に入り浸りだった私を、現実に引き戻してくれるものだったのかも知れない。
私はそう思うことに決めて、この話を終わらせることにした。
(完)(1755文字)
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