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石門心学(石田梅岩)の商業倫理



石門心学(石田梅岩)の商業倫理

商人

 「商人は勘定委しくして、今日の渡世を致す者なれば、一銭軽しと云べきに非ず」(巻之一、都鄙問答)。石田梅岩は、商人のことを、特に会計に詳しい人のことを指して呼んでいる。さらに同書では、商人の得る利益は侍の禄のようなものであり商人は侍に似た者とされている。石門心学における侍と商人を同格とみなす思想は、会社法で最高経営責任者が取締役と言われ大犯三箇条を行使し領内を取り締まった諸大夫(大名及び旗本)のような自治権者のように捉えられていることと一致し、石門心学の思想は、現実の企業法その他の法の基礎となった思想にもなっていたのである。

 他方では、現実には侍は貨幣崇拝を批判する自給自足の農本主義者であり貨幣階級に属さないのでフランス農民兵や屯田兵(農業を兼業した予備自衛官)のように平時は農民であったが、商人は貨幣階級に属していた。しかし実際には、大阪堂島に侍が禄米を換金したり農家が農作物を換金するための米市場が存在したように、農業と貨幣経済には密接な関係があり、他でもなく侍の禄と商人の利益が同格と捉えられる理由となっていたため、農民出身の石田梅岩は単なる農本主義者と異なり、商業活動も重視していたのである。石田梅岩は商人を侍どころか聖人と呼び天下に財を巡らす国王のようなものと見做していた(国王=聖人)。石田梅岩にとって、商人の流通は国家のメタファーでもあった。イギリスのエドモンド・バークは宗教を国家に準えたが、石田梅岩も聖人(商人)を国家に準えているのである。

連中定書

 石門心学の梅岩塾では受講料を取らなかったが、主著の都鄙問答は、江戸時代の大阪の書物問屋から刊行され、受講者は三万人が購入し、ヒット作品になった。梅岩塾の定例集会では連中定書の15カ条の教えを読み上げていた。その中には信用を守るなどの法令遵守の重要性等が含まれている。大別して、倹約すれば五倫五常が守られること、困ったことがあったら良く相談すること、メタボ予防があった。日本と中国の文化の違いを知り、日本独自の思想を創り出した石田梅岩等の教えは、商業だけでなく、法律や健康のような現代人と同じ関心にも答える内容である。

富を創る方法

 都鄙問答の中で、石田梅岩は倹約貯蓄することが富を創る方法であると述べている。さらに、倹約により富を創り、寄付により社会に貢献することを天命と考えていた。倹約して得た富の一分を将来さらなる成長のために寄付し、戦略的に倹約を行えば、より効率的な倹約生活を送ることができるようになる。石田梅岩のように倹約するか寄付するか戦略的に判断して富を創るなら、漫然と倹約を続けるより、倹約の効果を実感でき、倹約によるメリットが何かを知り、倹約貯蓄の質的向上が見込まれる。

天命

 石田梅岩は倹約し、富を創れば、神の天命に一致すると考えていた。これは、カルヴァン派のキリスト教徒が、職業生活に邁進するのに似ている。聖書の言葉(マタイ6:19~20)の通り、神の国に富を積む石田梅岩の思想は人間が生きるための基本であり、常に身につけていなければならない科学的な現実への適応力である。
 石田梅岩にとって倹約し富を創ることは科学者や思想家としての天明であった。貯金でも家計簿を取り、科学的に支出を測定し、家計を効率化する。それだけでなく、寄付をしたりして、人類や社会に貢献するために使えば、確かに天命にも適っているので、商人は有徳な聖人君子(政治家)なのである。

五倫五常

 石門心学で実践すべきことは四つある。正直、勤勉、倹約、孝行。石田梅岩は五倫五常という儒学に学んだ思想を根拠にし、我も立ち先も立つの思想に至った。倹約による富の創出は、結果として親孝行になると考え、五倫五常のような、人間関係を良好に保つための倫理的行為と見なされた。

経済道徳合一説

 石田梅岩の石門心学は、五倫五常を体現し、信頼に基づく正しい方法により利益を得るものを富者とする渋沢栄一のような経済道徳合一説の代表事例の一つであり、カルヴァン派倫理思想に喩えられている。

まとめ

 石門心学は商人のための道徳として成立し、商人の幸福とは何かを説いている。日本人の自然観を根拠にして東洋思想を包摂しながら発達した石門心学は、キリスト教のカルヴァン派的な上方有徳者の倫理として、洋の東西を超え現代人の生き方の基礎になる日本の代表的な普遍的倫理思想である

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