見出し画像

■酩酊と幻惑ロック 番外編 第7回「ドゥーム四天王を選んでみた。からの『四天王を全部好きな人いない説』を検証してみた【杉本】」

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」
第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」
第6回「Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』の衝撃【加藤】」


Anthrax、Megadeth、Metallica、Slayer。
このバンドの並びを見れば、もうお分かりですね。そう、「スラッシュ四天王」です。
四天王とは仏教の持国天、増長天、広目天、多聞天の4神の通称ですが、ここ日本では歴史上の人物や芸能、漫画などでも「4人の強者」を指す概念として流用されるようになり、一般的な言葉として定着しています。こと〝中二病〟的な価値観が幅を利かせる日本のハードロック/ヘヴィメタル界隈ではとくにこの概念が愛され、各時代・各サブジャンルを代表するバンド群を「○○四天王」として並び称す慣習が強く息衝いています(3強のことを「三羽ガラス」などと呼ぶバリエーションも)。
スラッシュ四天王以外だと、ブリティッシュロック四天王(The Beatles、The Kinks、The Rolling Stones、The Who)、プログレ四天王(Emerson, Lake & Palmer、King Crimson、Pink Floyd、Yes)、グランジ四天王(Alice In Chains、Nirvana、Pearl Jam、Soundgarden)、フロリダ産デスメタル四天王(Death、Deicide、Morbid Angel、Obituary)、ブラックメタル四天王(Burzum、Darkthrone、Emperor、Mayhem)、メロデス四天王(※1)あたりが、人口に膾炙している印象があります。

※1 Arch Enemy、Children Of Bodom、Dark Tranquility、In Flamesの4バンドをこう呼ぶことが多いが、個人的には国と時代を揃えたく、スウェーデンでデスメタルにメロディが導入された黎明期から現在に至るまで影響力の大きいバンド群としてAt The Gates、Dark Tranquility、Edge Of Sanity、In Flamesをして「メロデス四天王」と呼びたい。

そんな「四天王」という呼称ですが、これがドゥーム界隈となるとあまり使用されていない印象があります。「ドゥーム四天王」という概念を提唱する人やウェブサイトは散見されますが、シーン全体での共通認識にはなっていないと思います。
ですが、何でも分析、分類、比較してあれこれ議論の俎上に乗せたいオタク的気質の持ち主として、或いは小学生男子が「カブトムシとクワガタはどっちが強いか」を気にするのと同じレベルで「グラップラー刃牙」のように主要な登場キャラクターのすべてをトーナメント形式で戦わせ、準決勝まで進んだ4者を「強豪」として並び称したい中二病患者として、ドゥーム界隈のバンドにも「四天王」を求めてしまうのが人情というもの。
というわけで今回は、ドゥーム界隈のバンド群から色々な「四天王」を選んでみたいと思います。言うまでもないことですが、音楽評論家でもなければマニア代表でもなく、ドゥームという音楽分野において何か優れた功績を残したわけでもない、ただの一般人である私が勝手に選ぶ「四天王」ですので、他の選び方での「四天王」も当然にありえるということ、ただのいち音楽ファンの「お遊び」であることを十分にご承知おきください。
なお、本稿で何らかの「四天王」を挙げるときはすべて、アルファベット順に並べています。

■元祖ドゥームメタル四天王
これは割と口に上ることが多い四天王で、その中身はThe Obsessed、Pentagram、Saint Vitus、Troubleですね。いずれもアメリカ出身で80年代に「元祖ドゥームメタル」的な音楽性を確立し、近年も作品をリリースしている、まさに〝生けるレジェンド〟たちです。
The ObsessedとSaint VitusそれぞれにScott "Wino" Weinrichが在籍していたというのも、なんだかMetallicaとMegadethにおけるDave Mustaine的な感じで、メタル界で最も有名な四天王であるスラッシュ四天王を彷彿とさせて良い感じです。
同時代ではCandlemassも重要ですが、こちらはスウェーデンのバンドなので除外しました。
問題は次です。

■ドゥームメタル四天王
90年代以降に隆盛を誇ったドゥームメタルの第一人者といえばCathedral。ドゥームメタル四天王を選ぶなら、Cathedralを含む90年代の英国のバンドから選びたいものです。しかしこれが、意外と難しい。
まず、Cathedralがシーンに衝撃を与えた90年代初頭の時点では、知名度や後世に至るまでコンスタントな成功を収めたかといった観点から、規模感的に釣り合う存在が乏しいのです。Cathedralの1stと共通項の多い、激遅激重の長尺曲で占められたアルバムを出したバンドといえば、CainやSevenchurchなどが思い浮かびますが、どちらもフルアルバムは1枚切りです。
そこで90年代全体に参照範囲を広げてみますと、とりあえずElectric WizardとOrange Goblinは入ってきそうです。細かいことを言えばこれらの両バンドはストーナーロックの要素も強いのですが、ここら辺のバンドはそれぞれ配分は違えどドゥームメタル/ストーナーロック/スラッジコアの各要素を合わせ持っていることが多いので、純粋なドゥームメタルまたはストーナーロックまたはスラッジコアのバンドで四天王を選ぼうとすると、選択肢がだいぶ狭まってしまいます(※2)

※2 ドゥームメタル/ストーナーロック/スラッジコアの各定義は、『酩酊と幻惑ロック』の加藤氏のコラム参照。

とりあえずCathedral、Electric Wizard、Orange Goblinと並べてみたわけですが、4バンド目がまた難しいです。
ここはひとつスラッシュ四天王に倣って、「四天王」というのは音の系統は違ってもシーン全体を俯瞰するような4バンドを並べるべきなのだという考え方から、Paradise Lostなど入れておきましょうか? それとも、00年代以降のヴィンテージ・リバイバルに先駆けた影響力を加味して、Bill SteerのFirebirdでも無理矢理入れておきましょうか? 
英国に縛らなければ、前項の「元祖ドゥームメタル四天王」やCandlemassはいずれも90年代においても現役で名作をリリースしていますし、Spiritual BeggarsやCount Raven(ともにスウェーデン)やSolitude Aeturnus(アメリカ)など、色々いるんですけどね……。
記事としてはなんとか結論めいたものに到達したいところですから、ここはいったんCathedral、Electric Wizard、Orange Goblin、Paradise Lostとさせてください。

■ストーナーロック四天王
これは割とすんなり思いつきました。
Fu Manchu、Kyuss、Monster Magnet、Sleepでどうでしょう? いずれも米国のバンドです。

■スラッジコア四天王
これも米国からのチョイスで、16、Crowbar、Eyehategodときて、4バンド目が悩ましいけどGriefをいったん推しておきます。
しかし、加藤氏ならAcid Bathを入れるかも? デビューが比較的遅くても(少なくとも日本での)知名度を優先するなら、16じゃなくてBongzillaか? などなど、悩ましいところですね。DystopiaやWinterも影響力という点では無視できませんが、フルアルバムの枚数が少ないのでここでは除外しました。

というわけで、各四天王について一応暫定の結論を出したものの、「元祖ドゥームメタル四天王」と「ストーナーロック四天王」以外は、自信をもってこれだと押し出せるラインアップにはなりませんでした。ドゥーム界隈であまり四天王が語られない要因が、少しわかった気がします。
ところで、四天王について先ほど、「音の系統は違ってもシーン全体を俯瞰するような4バンドを並べるべき」という考え方を一部で取り入れました。そのような考え方を取り入れたうえで、いちサブジャンルのなかでも王者級のバンドを4つも選ぶと、それぞれが色々な方向にとびぬけた個性をもつバンドが並びます。
そこでひとつ、検証してみたい仮説があります。それは、「四天王を全部好きな人いない説」です。いや、全部好きな人がいらっしゃっても全然構わないですし、というか当然いらっしゃるだろうとも思うのですが、それでも4バンドそれぞれに対する「好き」の度合いにはムラがあるのではないでしょうか? 何しろ、これだけ音楽性に幅があるバンド群が並んでいるのですから……。
というわけで、とり急ぎ私個人について、本稿に登場した数々の四天王に対して「四天王を全部好きな人いない説」を検証してみたいと思います。
各バンドに対して、◎(大好き)、○(好き)、△(普通。本稿で挙げたバンド群で、さすがに「嫌い」ってのはないです)で個人的評価を付していきます。要するに、全部◎にならなかったら(よりシビアに検証するなら、一個でも△があったら)、少なくとも私に対しては説が立証されるという、とってもザルな検証です。
当然のことながら、◎~△は単に個人の好みの度合いを記すものであって、各バンドに対する音楽的な価値評価を下すものではないということをご承知おきください(だから、「このバンドに△を付けるとは許せん」とか言わないでくださいね)
それでは、やってみたいと思います。

■スラッシュ四天王
◎Anthrax、△Megadeth、◎Metallica、△Slayer
上記のバンド群、時期によってだいぶ評価がブレるのですが、ここでは一般的ないわゆる「スラッシュメタル期」の1st~3rdあたりを射程に考えてみました。しかし、やってみてわかったのですが、個人の趣味嗜好を公の場で正直に吐露するのは(「好き」は別に良いんだけど「そんなに好きでもない」を吐露するのは)、結構緊張感を伴いますね。Megadethで一番好きなのは6thだし(異端)、Slayerは1stなら◎なんだけど……などと、色々と言い訳を並べたくなりますが、正々堂々としていない感じがするので、次項からは言い訳抜きでいきます。

■ブリティッシュロック四天王
◎The Beatles、○The Kinks、◎The Rolling Stones、△The Who

■プログレ四天王
○Emerson, Lake & Palmer、◎King Crimson、◎Pink Floyd、◎Yes

■グランジ四天王
◎Alice In Chains、○Nirvana、△Pearl Jam、○Soundgarden

■フロリダ産デスメタル四天王
△Death、△Deicide、○Morbid Angel、◎Obituary

■ブラックメタル四天王
△Burzum、◎Darkthrone、△Emperor、○Mayhem

■メロデス四天王
△At The Gates、△Dark Tranquility、△Edge Of Sanity、◎In Flames

■元祖ドゥーム四天王
◎The Obsessed、◎Pentagram、○Saint Vitus、△Trouble

■ドゥームメタル四天王
◎Cathedral、△Electric Wizard、○Orange Goblin、△Paradise Lost

■ストーナーロック四天王
○Fu Manchu、○Kyuss、△Monster Magnet、○Sleep

■スラッジコア四天王
△16、○Crowbar、○Eyehategod、△Grief

というわけで、どの四天王もだいたいバラけましたので、とりあえず私については説立証ということで良いでしょうか(「プログレ四天王」だけ△が一個も含まれませんでしたが、70年代のブリティッシュハードロックは割と主食としている分野ですので、ご勘弁ください)。
ここで△がついたバンドについてもアルバムや楽曲、プレーヤー単位では好きな部分がありますし、何かの折に琴線に触れて後に○や◎に転じることはよくあることですから、2024年9月時点の杉本はこんな感じ、ということでふんわりと受け止めて頂けたら(というか、速やかに忘れて頂けたら)幸甚です。
本稿で行った「四天王選び」及び「各バンドに対する個人的評価付け」、他の人がやったらどうなるのかも気になります。どうしようもない暇と自己開示するちょっぴりの勇気がある方は、ぜひやってみてくださいね。

暫定、全8回予定で進行しております「酩酊と幻惑ロック 番外編」、私のパートは今回が最終回です。お付合いくださり、ありがとうございました。

■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年生まれ。NightwingsWitchslaughtでギター&ヴォーカルを担当。編著書に『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)、『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)。『酩酊と幻惑ロック』の監修・著者である加藤隆雅とウェブメディア「Tranquilized Magazine」を共同運営。出版業界専門紙「新文化」記者。

第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」
第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」
第6回「Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』の衝撃【加藤】」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?